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第72回国際図書館連盟(IFLA)年次大会(WLIC 2006 Seoul)に参加して : アジア情報室通報第4巻第4号

アジア情報室通報 第4巻第4号(2006年12月)
石川武敏(国立国会図書館アジア情報課長)

8月20日から24日まで韓国ソウル江南区のCOEXを会場として標記大会が開催された。アジア地域でのIFLA年次大会は1980年マニラ、86年東京、92年ニューデリー、96年北京、99年バンコクに続き6回目である。なお、大会に先立って筆者が参加したアジア・オセアニア分科会主催のサテライトミーティングについては『国立国会図書館月報』548号(2006.11)を参照されたい。

開会式では金大中元大統領が図書館の社会的重要性を訴える格調高いスピーチを行い、国家の威信をかけた大会運営であることが感じられた。

参加した分科会をいくつか紹介する。新聞分科会では、伝統的な新聞をテーマにする報告とインターネット新聞をテーマにするものが発表された。前者としては、当館からの新聞マイクロ化事業と新聞総合目録事業に関する発表やドイツのWaravenns氏からの初期東アジアの新聞の書誌事項に関する発表があった。後者としては、ソウル経済新聞チャン・ソンファ記者からインターネットにより情報流通が双方向化し、ジャーナリストの役割が情報の伝達者から情報の分析・評価・整理という役割に転換したという発表があり、イリノイ大学図書館からは世界のデジタル新聞を教育に活用し多様な観点を理解させる実践例の発表があった。インターネットの普及により新聞自体のあり方がすでに変質したことが印象づけられた。新聞の社会的役割が今後どう変容するのかは予想しがたいが、図書館としてもインターネット新聞の動向を把握しておく必要があるだろう。

多文化サービス分科会では、ビルマ難民のSoe Wynn Shein氏から「モウ・タウ・チェー-日本初のビルマ語図書館」と題して、2003年東京の高田馬場に在日ビルマ人のために開設されたビルマ難民図書館の活動が発表された。また、群馬県大泉町立図書館の糸井昌信前館長から、全人口の15%が外国人(その大半が日系ブラジル人)という同町の多文化サービスの実践例の報告があった。

地誌地図図書館分科会は、「どちらの地名か?場所の地理的名称」をテーマとして、A・K・オーザー分科会長による「地名―単なる名称か、過去への一瞥か」とイ・ギソク(李琦錫)ソウル大名誉教授・東海協会会長による「東海か日本海か」の2本のペーパーが発表された。冒頭に同分科会事務局から、このテーマ設定は韓国からの要望によるものであり、分科会として植民地支配に由来する地名を改める世界の趨勢を考慮し取り上げることにしたとの説明があった。この背景には、当館がイ氏の発表予定原稿について日本海呼称が日本の朝鮮統治に関係あるかのような事実誤認に基づく主張がある上、二国間の高度に政治的な問題をテーマとすることはIFLAの目的から逸脱するとして、IFLAおよび分科会に対して疑義を呈してきた経緯がある。

本分科会でのイ氏の発表要旨は以下のとおり。「東海」の呼称が5世紀には中国・朝鮮で確立していたことは史料から明らかである。1850年までに作られた西洋古地図約760例を調査したところ、マテオ・リッチの「坤與万国全図」を唯一の例外として、それ以外の古地図においてはすべて朝鮮海または東海に相当する呼称が使用されていた。それにもかかわらず、日本が朝鮮を統治していた時期の1929年に国際水路会議で「日本海」の呼称が採用されたという経緯がある。そこで韓国政府は1992年以降「日本海」の呼称を問題視し「東海」を用いるべきだと主張している。また、国連地名標準化会議はexonym(第三者による呼称)をendonym(ある土地、民族の自称)に置き換えるよう勧告しており、日本の主張どおり「日本海」の呼称が欧米によって確立されたのであれば、それを廃して固有の名称を使うべきであろう。最近のニュースや地図帳等出版物においては当該海域名を空欄とするか「東海」を併記する例が増えている。

この発表に対し、当館の樋山千冬総務課課長補佐から次のようなコメントが呈された。イ氏は約760点の古地図を調査し、大部分が「東海」または「朝鮮海」の表記だというが、日本の外務省が行った調査では米国議会図書館だけでも当該地域を含む古地図は1,435点あり、その大半が「日本海」と表記している。また、西洋古地図中の“Oriental Sea”は「東洋の海」と解すべきであり「東海」の根拠とするのは誤りである。「東海」確立の根拠とした史料についても中国の東にある渤海を指すもの、あるいは朝鮮半島の東側沿岸部を指すものであり、必ずしも当該海域を指すものではない。この分科会がこのようなテーマ設定となり、韓国政府の政治的主張の一方的な流布の場となったことを憂慮する。

これに対するイ氏の回答は次のとおり。数の違いは自分が古地図を1850年までのものと定義したのに対し、日本外務省は1900年までの地図も含めて調査しているためであろう。東アジアでは方角の概念が重要であるため、東にある海を「東海」と呼んで何ら不思議ではない。IFLA分科会のテーマ設定についてはコメントする立場にはない。この件について他に発言者はなくこのまま終了した。

筆者としては、韓国政府の主張と実質変わるところがないイ氏の発表内容は図書館業務との関連がほとんどなく、IFLAの目的にも合致しているとはいいがたいとの感想を持った。コメントに対するイ氏の回答も的を射たものではなかった。分科会のテーマ設定については、主催者側が韓国側の主張を無批判に受け入れたために不適切なものになったと思われる。このようなことにならないよう今後も注視していく必要があろう。

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