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バークレーの東アジア図書館開館と記念シンポジウム―出張報告 : アジア情報室通報第5巻第4号

アジア情報室通報 第5巻第4号(2007年12月)
北川知子(国立国会図書館アジア情報課長)

平成19年10月、カリフォルニア大学バークレー校附属C. V. スター東アジア図書館兼チャンリン・ティエン東アジア研究センター(The C. V. Starr East Asian Library & Chang-Lin Tien Center for East Asian Studies)が完成した。

10月18日~20日に開かれた記念シンポジウム及び開館式典に参加する機会を得たので、以下に概要を報告する。


チャンリン・ティエン(1935-2001)は、1990年から1997年まで、中国系アメリカ人として初めて同校の学長を務めた人物である。在職中にキャンパス内に分散していた東アジア研究のための施設や資料を一カ所に集める計画を進めていたが、その計画は、後任の学長に引き継がれ、本年、ようやく新しい建物が完成した。


東アジア図書館兼チャンリン・ティエン東アジア研究センター

東アジア図書館兼チャンリン・ティエン東アジア研究センター

シンポジウム「北米における東アジアコレクション構築-100年の歩み」

10月18日午前中には、合同セッションが行われ、開館を記念して同時に開催されていたその他4つのシンポジウムの参加者を含む約150名が会場を埋めた。開会式、来賓挨拶の後、ディアナ・マーカム米国議会図書館(以下LC)副館長、生原至剛当館副館長、陳力中国国家図書館副館長による図書館の現状と課題をめぐる基調報告が行われた。

午後からは、シンポジウム「北米における東アジアコレクション構築―100年の歩み」が始まり、100年の歴史の中で、北米の大学図書館の東アジアコレクション収集に携わった研究者や司書の活動、大学や図書館による組織的な取組みに焦点を当てた報告が行われた。

シンポジウムは、第1部が1940年代まで、第2部が1945年から1990年代のソビエト崩壊まで、第3部が1990年代前半から現在までを対象とする時代別の3部構成で、それぞれの時代に東アジアコレクションが特徴的な発展を遂げた図書館からの報告が行われた。ただし、報告の中には、必ずしも特定の時代に限定せず、自館のコレクション形成の歴史や現状全般を紹介したものや、特定の資料に焦点を当てたものもあった。報告者は、各東アジア図書館の館長または担当者と李華偉LCアジア部長の合計22名、参加者は約60名であった。

シンポジウムの会場では、全員の報告が掲載された380ページに及ぶ予稿集(Over a Hundred Years of Collecting: The History of East Asian Collections in North America)が配布されたが、今後、各自の原稿に加筆修正が行われ、今回参加できなかったハーバード大学、ミシガン大学の原稿を加え、あらためて一冊の報告集として刊行される予定であるという。北米の東アジアコレクションの歩みを知る上で、欠かせない一冊になるだろう。

第1部:「東洋」から「東アジアへ」-1940年代まで

報告:LC、イエール大学、ワシントン大学、コーネル大学、ペンシルベニア大学、トロント大学、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)

冒頭では、国レベルの収集が取り上げられ、1869年に清の同治帝から中国語資料の寄贈を受けて始まったLCの東アジアコレクション収集の歩みが報告された。

LCに続いて報告を行ったイエール大学では、19世紀半ばから東洋学研究が盛んになり、第三代大学図書館長アディソン・ファン・ネーメ(Addison Van Name)の努力によって、今日の東アジアコレクションの基礎が築かれたという。ネーメと親交のあったウィリアム・E. グリフィス(William Elliot Griffis)や、同大学卒業生容閎(Yung Wing)、1936年に日本人初の同大学教授となった朝河貫一らも同コレクションの発展に大きな役割を果たした。

北米の大学図書館における東アジアコレクション収集の発展は、東洋学研究の発展と密接に関わっている。20世紀前半になると、大学の東洋学研究プログラムに、東アジアに焦点を当てた研究が加わり、コレクションの収集も広がりを見せ始めた。

第2部:冷戦時代―1945年からソビエト崩壊の1990年代まで

報告:シカゴ大学、スタンフォード大学、ハワイ大学、イリノイ大学、インディアナ大学、カンザス大学、オハイオ州立大学

第二次世界大戦は、東アジアコレクションの収集にも影響を及ぼした。たとえば、シカゴ大学では、日本軍の北京占領によって、現地の書店からの資料の入手が困難になったため、当初は予定していなかったラウファーコレクションの購入を決断している。同コレクションは、ベルトルト・ラウファー(Berthold Laufer)が1908年からの3年間に中国やチベット等で収集した資料約2万冊で、同大学の東アジアコレクションの貴重な一部となった。また、スタンフォード大学では、1945年1月、フーバー研究所長ハロルド・ H. フィッシャー(Harold H. Fisher)が、戦争の原因と結果を解明するため、当時の中国と日本に関する資料収集プログラムを開始した。

その後、1957年のソ連のスプートニク1号打ち上げによって、アメリカの教育、特に地域研究は大きく変化した。1958年には、国家防衛教育法が成立し、地域研究を促進するための資金が供与された。1960年代には、東アジアへの関心が高まり、各大学は、政府の援助を受けて、アジア研究の拠点を設立した。

第2部で報告を行った大学の多くも、1960年代にアジアセンター、あるいは東アジアセンターを設立し、財政援助を得て、積極的に資料収集を行っている。

第3部:グローバリゼーション―1990年代初期から現在まで

報告:ノースカロライナ大学(UNC)、デューク大学、カリフォルニア大学サンディエゴ校、ミネソタ大学、ピッツバーグ大学、コロンビア大学、カリフォルニア大学バークレー校

UNCとデューク大学からの報告は、他とはやや異なり、1960年代に始まった東アジアコレクションの分担収集の歴史と現状を中心としたものだった。両図書館では、語学学習のための基本書のほか、双方の大学での研究ニーズに基づき、重複購入している資料も存在するが、基本的には現在も国別の分担収集を継続し、UNCが中国、デューク大学が日本と韓国の資料を重点的に収集しているという。分担は資料収集だけに留まらず、相手方の大学の研究者や学生の資料購入希望やレファレンスサービスにも応じている。

各大学からの最近の動向についての報告の後、シンポジウムの締めくくりとして、主催者のカリフォルニア大学バークレー校附属C. V. スター東アジア図書館ピーター・ジョウ(Peter X. Zhou)館長からの報告があった。

ジョウ館長は、これからの東アジア図書館は、各大学がこれまでの100年間に蓄積した紙媒体の資料と、それらを電子化した資料の両方を提供する「ハイブリッド図書館」になっていくこと(比重は、電子資料に置かれる)、また、資料を提供するだけではなく、研究者や学生が多様な調査研究を行える環境を作っていかなくてはならないこと、そのためには、積極的に資金を集めていく必要があることを強調していた。

今回のシンポジウムは、カリフォルニア大学バークレー校附属C. V. スター東アジア図書館の開館を記念して開かれたものではあるが、シンポジウムの開催に当たっては、準備委員会が設けられ、ピーター・ジョウ館長を中心に、イエール大学、コロンビア大学、プリンストン大学、スタンフォード大学、イリノイ大学、ピッツバーグ大学、シカゴ大学の東アジア図書の館長または担当者とLCアジア部長の10名が企画に当たり、プログラムや構成を検討したという。報告者からは、今回のシンポジウムを機に、あらためて自館のコレクションの歩みを見直すことができた、という声が聞かれた。

また、シンポジウムの各部の冒頭では、東アジア研究者による各時代の国際情勢やアジア情勢と、東アジア研究の発展を振り返る基調報告が行われた。第2部では、政治学者として名高いカリフォルニア大学バークレー校名誉教授のロバート・スカラピーノ(Robert A. Scalapino)博士が登壇し、自らの体験を交えながら、冷戦時代の国際政治と東アジア研究を語った。当日は博士の88歳の誕生日に当たり、花束が贈呈され、全員がハッピーバースデーを歌うなど、ほほえましいひとコマもあった。

開館記念式典

10月20日(土)16時から、完成したばかりの東アジア図書館で開館記念式典が開かれた。

中国音楽の生演奏が流れる中、同大学学長、同大学図書館長、東アジア図書館の設計に携わった建築家夫妻、その他来賓の祝辞が述べられ、テープカットが行われた。

北米の大学図書館においては、東アジア図書館は大学図書館の一部、あるいは学内の建物の一部に置かれている場合が多く、バークレー校のように、東アジア関係資料だけを収蔵する図書館が、独立して建設されたのは、北米では初めてだという。同大学における東アジア研究の重要性とともに、東アジア研究者と東アジア図書館との密接な関係、東アジア図書館同士の緊密な連携をあらためて確認させられた3日間であった。

 

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