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中国の図書館のための叢書―万有文庫:アジア情報室通報 第7巻第1号

アジア情報室通報 第7巻第1号(2009年3月)
湯野基生(国立国会図書館アジア情報課)

 

関西館アジア情報室で所蔵する約25万冊の中国語資料のうち、約15万冊を占めるのが、上海新華書店旧蔵書(以下、新華旧蔵書)である。同書店が保管していた1930年代から90年代初頭に発行された出版物の見本書からなっている1。この新華旧蔵書に含まれる比較的大きな資料群に、中国の有力出版社である商務印書館が1929年から30年代に刊行し、中国内外の古今の重要な著作を収録した万有文庫という叢書がある。以下、この小文では万有文庫について紹介するとともに、その新華旧蔵書中の所蔵状況を概観することとしたい。

1.万有文庫の目的

万有文庫の刊行を企画したのは、1921年から1946年まで商務印書館を主導した王雲五(1888-1979)である。中国では1910年代後半より、新文化運動の一環として、近代的図書館の建設をすすめる新図書館運動が起こっていた。王雲五は図書館事業に深い関心を寄せていたが、当時の図書館運動は十分な成果をあげられておらず、それは経費と人材の乏しさゆえに、適切な図書を購入し、整理することが難しいためであると考えた。

そこで彼は公共図書館の振興に資するべく、新しい叢書の出版を構想した。それはひとつの小さな図書館を形成できるようなあらゆる知の領域を含み、経済的な印刷方法により価格を抑え、合理的な分類法や検索法の採用により、図書館員の負担を軽減できるように設計された叢書であった2。後に「国内外の古今の学術を網羅し、図書館のために計画された叢書というのは、実に万有文庫に始まる(其能包羅中外新舊之學術, 並為整個圖書館計畫者, 實以萬有文庫為首創)」3と彼が自賛するように、それは中国でかつてないユニークな叢書であった。

2.刊行の経緯

これより前に、王雲五は公共図書館の発展基盤を整えるべく、世界の名著の翻訳や「百科小叢書」をはじめとする、さまざまな分野の学問の入門書となる叢書を刊行していた。新しい叢書は、それら先行叢書から精選された重要な著作により構成され、合計1万冊に達する壮大な叢書にすることを目指して「万有文庫」と命名された。

万有文庫は1929年に第一集が刊行される。当時の一部の省政府は省内の図書館の蔵書とするため、万有文庫を大量に購入した。中央の教育部も各省に万有文庫の購入を促す訓令を出した4。当時の公共図書館は3,000に満たなかったが、その内の1,000以上が万有文庫の購入によって新しく設立されたものである5。刊行部数は8,000部に達した。1934年には第二集も刊行され、その刊行部数は6,000部に達した。

3.関連する諸叢書

当初、王雲五は第三集の刊行も計画していたが、日中戦争の激化により結局実現しなかった。商務印書館も香港、長沙へ避難を余儀なくされるが、その只中の1939年に、万有文庫第一集、第二集から精選した資料を『万有文庫簡編』として刊行している。

王雲五は戦後、台湾でも万有文庫から重要な著作を収録した『万有文庫薈要』や、万有文庫から再録した著作を含む『人人文庫』などを発行している。その後も王雲五と万有文庫にちなんだ『岫盧文庫』、『新万有文庫』(岫盧は王雲五の号。ともに台湾商務印書館)、『中華万有文庫』(中国社会出版社)、『新世紀万有文庫』(遼寧教育出版社)などが刊行されており、その中国の叢書に与えた影響の大きさがうかがえる。

4.万有文庫の構成

つぎに、万有文庫そのものについて見てみよう。王雲五がデューイ十進分類法を改良して考案した中外図書統一分類法により、万有文庫は主題順(000「総類」、100「哲学」、200「宗教」、300「社会科学」、400「語文学(言語、文字)」、500「自然科学」、600「応用技術(医学、工学、農学、家政、商業、建築など)」、700「美術」、800「文学」、900「史地(歴史地理)」)に排列されている。一方、前述のとおり万有文庫は商務印書館の諸叢書から重要な著作を収録しているため、各タイトルには収録元の叢書名も記述されている。そこで以下、第一集と第二集に分けてそれぞれ主題別および叢書別に概観してみたい。

(1)万有文庫第一集

全1,000種2,000冊。付録の臧勵龢『中国古今地名大辞典』などの工具書10種を含めて1,010種とする場合もある。下の表1は第一集の構成を中外図書統一分類法の主題分類によって概観したものである。社会科学(26%)、応用技術(19%)、文学(14%)、自然科学(12%)、史地(11%)で全体の82%を占めている。

 0総類1哲学2宗教3社科4語文5自科6応技7美術8文学9史地
全体数(タイトル) 22 81 7 262 18 118 193 49 139 111 1,000
比率(%) 2 8 1 26 2 12 19 5 14 11 100

表1 万有文庫第一集の構成(中外図書統一分類法の主題分類別)

 

以下に、第一集に含まれる叢書を掲げておく。

  • 国学基本叢書(100種)
    漢籍の原典を収録。
  • 漢訳世界名著(100種)
    欧米や日本の古典名著や小説類の中国語訳。厳復(1853-1921)などによる清末期の翻訳も含む。
  • 学生国学叢書(60種)
    同時代の学者が漢籍に注釈を加えたもの。
  • 国学小叢書(60種)
    同時代の学者の中国学研究の著作を主とする。
  • 新時代史地叢書(80種)
    近代世界史、国際関係に関する研究書、概説書を主とする。
  • 百科小叢書(300種)
    同時代の学者による各分野の概説書や外国の名著の翻訳を主とする。
  • 農学小叢書(50種)
    農園の管理経営法や作物別の栽培法を主とする。
  • 工学小叢書(65種)
    工学、化学、工業技術関連の概説書を含む。
  • 商学小叢書(50種)
    商業制度、会計簿記などの実務書を含む。
  • 師範小叢書(60種)
    教育学、教育法関連の著作を主とする。
  • 算学小叢書(30種)
    算数、代数、幾何などの入門書を含む。日本人の著作の翻訳が多い。
  • 医学小叢書(30種)
    医学、看護学、衛生学、薬学の入門書のほか、伝染病などの解説書を含む。
  • 体育小叢書(15種)
    野球、サッカーなど競技別の指南書を主とする。

(2)万有文庫第二集

全700種2,000冊。付録は『十通』と『佩文韻府』である。下の表2に第二集の構成を概観した。社会科学(14.4%)、自然科学(25.3%)、文学(26.6%)、史地(16.4%)で全体の83%を占める。第一集にくらべて、社会科学、応用技術が低く、自然科学、文学が高い。

 0総類1哲学2宗教3社科4語文5自科6応技7美術8文学9史地
全体数(タイトル) 9 53 4 101 14 177 31 10 186 115 700
比率(%) 1.3 7.6 0.6 14.4 2 25.3 4.4 1.4 26.6 16.4 100

表2 万有文庫第二集の構成(中外図書統一分類法の主題分類別)

 

万有文庫第二集に含まれる叢書を以下に掲げる。

  • 国学基本叢書(300種)
  • 漢訳世界名著(150種)

 

上記二叢書は第一集にも収録されているが、第二集では両者の占める比率が増大している。第一集に収録されたそのほかの叢書は第二集には収録されていない。それらに代えて、以下の叢書から著作が新たに収録されている。

  • 自然科学小叢書(200種)
    自然科学全般にわたり、入門書を収録する。外国の著作の翻訳が多いが、とりわけ日本人の著作を翻訳したものが多い。
  • 現代問題叢書(50種)
    当時の国内外の重要問題について、関連資料を整理して、その問題の概要をまとめたもの。

 

5.新華旧蔵書中の万有文庫

それでは、万有文庫は新華旧蔵書中にどのくらい含まれているのだろうか。新華旧蔵書中の万有文庫の所蔵状況を、中外図書統一分類法の主題分類により表3(第一集)および表4(第二集)にまとめた。

 0総類1哲学2宗教3社科4語文5自科6応技7美術8文学9史地
所蔵数(タイトル) 10 44 1 230 4 80 116 30 55 68 638
所蔵率(%) 45 54 14 88 22 68 60 61 40 61 64

表3 新華旧蔵書における万有文庫第一集の所蔵状況(主題分類別)※「所蔵率」は「所蔵数」の表1「全体数」に占める割合を表したもの。

 

 0総類1哲学2宗教3社科4語文5自科6応技7美術8文学9史地
所蔵数(タイトル) 4 34 3 78 11 142 23 5 126 75 501
所蔵率(%) 44 64 75 77 79 80 74 50 68 65 72

表4 新華旧蔵書における万有文庫第二集の所蔵状況(主題分類別)※「所蔵率」は「所蔵数」の表2「全体数」に占める割合を表したもの。

 

第一集1,000種中、約640種を、第二集700種中、約500種をそれぞれ所蔵している。第二集の所蔵率(72%)が第一集(64%)よりもやや高い。また、分類別に見ると、社会科学(第一集88%、第二集77%)、自然科学(第一集68%、第二集80%)で所蔵率が高い。

つぎに、万有文庫に収録された各叢書に注目して、それらの新華旧蔵書における所蔵状況を概観してみよう。叢書別の所蔵状況を所蔵率の高い順に並べたのが表5および表6である。

 師範史地商学百科工学体育漢訳農学国学医学学生算学国学基本
所蔵数(総数) 59(60) 67(80) 40(50) 232(300) 45(65) 10(15) 63(100) 29(50) 32(60) 14(30) 26(60) 8(30) 21(100)
所蔵率 98 84 80 77 69 67 63 58 53 47 43 26 21

表5 新華旧蔵書における万有文庫第一集の所蔵状況(叢書別)※「所蔵数」は各叢書の所蔵タイトル数。()内は万有文庫に含まれる総数。「所蔵率」は「所蔵数」の「総数」に占める割合を百分率で表したもの。

 

 漢訳現代問題自然科学国学基本
所蔵数(総数) 126(150) 40(50) 157(200) 177(300)
所蔵率 84 80 78 59

表6 新華旧蔵書における万有文庫第二集の所蔵状況(叢書別)※「所蔵数」は各叢書の所蔵タイトル数。()内は万有文庫に含まれる総数。「所蔵率」は「所蔵数」の「総数」に占める割合を百分率で表したもの。

 

新華旧蔵書には万有文庫簡編(全500種1,500冊)を100種ほど含んでおり、収録元の叢書が判明するので、簡編でのみ所蔵するタイトルも表5、表6の数値に含んでいる。

師範小叢書(98%)、新時代史地叢書(84%)などをはじめ、一部の叢書では高い所蔵率を示している。逆に、国学基本叢書の所蔵率が第一集(21%)、第二集(59%)ともに、相対的に低い。

また、これら諸叢書は万有文庫の中だけでなく、もとの叢書としても新華旧蔵書に含まれている。表7はそのタイトル数(万有文庫所蔵分と重複するタイトルを除く)を、多い順に並べたものである。

 百科漢訳国学師範医学商学史地自然科学工学農学学生国学基本体育算学現代問題
所蔵数(タイトル) 111 86 71 35 30 17 17 14 10 9 8 8 6 5 3 430

表7 新華旧蔵書における各叢書の所蔵タイトル数(万有文庫収録分を除く)
『商务印书馆图书目录: 1897~1949』(商务印书馆 1981 当館請求記号UP21-C1)および上海図書館『中国近代现代丛书目录』(上海图书馆 1980-1982 当館請求記号UP52-C7)によって作成した。但し両目録とも完全なものとはいえず、また筆者の集計に遺漏がある可能性もあるため、概数を知るための参考であることをお断りしておく。

 

国学小叢書を例として説明すると、万有文庫の一部として含まれる32種のほかに、もとの叢書として71種が新華旧蔵書中に含まれており、全部で103種あることになる。このように、一部の叢書は万有文庫以外にも新華旧蔵書にある程度含まれており、それらにより、新華旧蔵書中の万有文庫に欠けているタイトルをある程度補うこともできる。


1関西館アジア情報課「上海新華書店旧蔵書遡及入力の終了について」『国立国会図書館月報』547号、2006年10月、pp.26-27.

2王雲五「萬有文庫第一二集印行縁起」『中國近現代出版史料』現代乙編、上海書店出版社、2003年、pp.290-296.

3王雲五「十年來的中國出版事業」『中國近現代出版史料』現代乙編、上海書店出版社、2003年、pp.335-352.

4张喜梅「王云五对图书馆事业的贡献」『国家图书馆学刊』2001年3期、pp.89-93.

5郭太风「为《万有文库》殚精竭虑的王云五」『世纪』2001年5期、pp.52-53.

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