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中国における書誌作成の現状―CIPと全国書誌― : アジア情報室通報 第7巻第2号

アジア情報室通報 第7巻第2号(2009年6月)
前田直俊(国立国会図書館アジア情報課)

1.はじめに

CIP(Cataloging In Publication)とは、出版者から提供される事前情報に基づいて全国書誌の作成機関などが作成した書誌データあるいはその提供元情報を、出版物の標題紙裏などに印刷して出版することである。既に世界の多くの国々で導入され、アジア地域においても8カ国で実施されている1

一方、全国書誌は1つの国における出版物についての権威ある包括的な記録の集積であり2、多くの場合、納本制度で収集された資料に基づいて、国立図書館など国を代表する書誌作成機関によって作成される出版物の最終的なリストである。

書誌作成の過程を、出版界から図書館界までの大きな枠組みの中で時系列に捉えた場合、出発点がCIPで終着点が全国書誌といえよう。したがって、CIPから全国書誌にいたる流れを眺めれば、その国の書誌作成の実際がみえてくる。

本稿では、中国のCIPと全国書誌の作成に携わる新聞出版総署情報センターおよび中国国家図書館を取り上げて、中国における書誌作成の現状を概観し、そこからみえてくる課題および今後の展開について述べる3

2.中国におけるCIPの導入過程

(1)導入前史

中国では、既に1970年代末から海外のCIPの実施事例が紹介され、図書館界を中心に活発に議論されていた。しかし、一部では実験的な試みも行なわれていたが、総体としては理論としての枠組みを越えるものではなかった4。その後、1983年から1985年にかけて『文献著録総則』『普通図書著録規則』『文献主題標引規則』など書誌情報に関する国家規格が相次いで整備されたことを受けて、ようやくCIP導入に向けての動きが本格化することになる。

1985年に実施の可能性に関する予備調査が行なわれ、翌年から導入に向けての具体的な検討が開始された。1987年には関連規格の制定のため、新聞出版署標準室、北京図書館(現中国国家図書館)、中国科学院図書館、北京大学図書館、人民出版社、機械工業出版社、新華書店本店、信息分類編碼研究所からなる起草班が編成され、同年末には草案ができあがる。次いで出版界および図書館界からの意見聴取を経て、1989年に「図書在版編目数据」および「図書書名頁」の2つの国家規格が策定された。そして、いずれも強制規格5として、それぞれ[GB12451-90]、[GB12450-90]の規格コードが付与され、1990年7月に国家技術監督局の認可を経て、1991年3月より施行されることとなった。

(2)2つの国家規格

「図書在版編目数据」は、CIPデータに記載すべきデータ項目、区切り記号、記述フォーマットなどを定めたものである。記載すべきデータ項目は記述データと検索データの2種類から成り、前者には書名、著者名、版表示、出版事項、シリーズ情報、附注、ISBNなどが、後者には書名や著者名などのアクセスポイント、分類記号、件名などが含まれる(図1)。

一方、「図書書名頁」は、世界標準のISO1086-87"Documentation: Title-leaves of a book"に準拠し、図書の標題紙(標題紙裏を含む)に記載すべき項目について定めたもので、書名、著者名、出版事項、版権説明、版本記録6、CIPデータ、形態情報、印刷発行記録などが必須項目として挙げられている。

図1 CIPデータの例

図1 CIPデータの例

(3)CIPの実施

こうして国家規格が定められたことにより、出版者が図書を出版する際には、これら規格に定められた項目を定められた形式で当該出版物に記載することが義務付けられたのである。

しかしながら、中国における初めての試みであり、かつ全国500余の出版者に関わる大事業であることから、実施は一足飛びではなく段階的に行われた。

まず、1992年に北京地区の出版者を中心に41社を選定して研修会を開催し7、対象地域や出版者を増やしながら8、数年間の試行による経験が重ねられた。そして1994年からは北京地区の全ての出版者が対象となる9。当時、手引書として出版された許綿主編『図書在版編目工作手冊』(人民出版社 1994)には、CIPの概念や意義、データの作成手順、国家規格の本文と解説、関連する通達文書、実例集などが収録されており、そこからは出版者に対する知識と技術の啓蒙によりCIPを成功させようという意欲がうかがえる10。そして、最終的には、1999年4月から全国規模での実施が始まり11、その結果、新刊図書の約90%にCIPデータが記載されるようになった12。その後、両規格は強制規格から任意規格へと変更され、2002年には修訂が行われている13

3.新聞出版総署情報センター

CIPは、新聞出版総署情報センターが管理運営を行なっている。その名のとおり新聞出版総署14の直属機関で、出版情報の作成と頒布に関する業務を主管している。同時に中国版本図書館という名称も併せ持つが、これは中国の組織機構によくみられる、いわゆる「1つの機構、2枚の看板」(一个机构两个牌子)(図2)で、実体は1つの組織でありながら、その果たす機能や役割によって、名称が使い分けられている。出版物を収集・保存する際には中国版本図書館となるのだが、これについては後段で詳しく述べる。

図2 「1つの機構、2枚の看板」

図2 「1つの機構、2枚の看板」

(1)CIPデータの作成手順

出版者が新刊書を刊行する際には、事前に新聞出版総署情報センターに申請をして、CIPデータを取得する。出版物の詳細が決まった段階で、「図書在版編目(CIP)数据工作単」(図3)に必要事項を記入して、担当部門である図書在版編目処に送付する。その際、記述は『普通図書著録規則』に拠り、主題分析には『中国図書館分類法』『漢語主題詞表』が用いられる。図書在版編目処では、出版者から送られてきたデータを検査し、修正・追加をした後に、出版者に返却する。そして、出版者は返却されたCIPデータを図書の標題紙裏に印刷するという流れである。「工作単」は、以前は郵送やFAXでやり取りされていたため、申請からデータ返送までに1ヵ月以上15を要していたが、2003年からは専用システムの導入により、オンライン申請が可能になった。現在では申請から3~5日以内に出版者にデータを返送することを原則としている16

(図3) 図書在版編目(CIP)数据工作単

図3 図書在版編目(CIP)数据工作単

(2)データベースと検査番号

新聞出版総署情報センターのホームページにはCIPデータベースが公開されており17、書名、著者名、出版者、ISBNのほか「CIP数据核字」で検索することができる。「CIP数据核字」とは、データ1件ずつに付与される検査番号のことで、CIPデータの最下行に明記されている(図1)。

因みに、海賊版や未申請の出版物には、偽造されたCIPデータが記載されている場合があるが18、このデータベースでその「CIP数据核字」を検索すると、ヒットしないかあるいは内容が合致しないデータがヒットする。逆に言うと、「CIP数据核字」で検索して該当データがなければ、正式出版物ではないと判断できるのである19

なお、このデータベースのほか、同センターが編集する新刊書の紹介雑誌『全国新書目』にもCIPデータが掲載されている20

(3)CIPデータの品質

中国では、これまで多数のCIPに関する論文が発表されているが、最も指摘が多いのがCIPデータの品質の低さである21。専門的な知識と技術を要する分類や件名の誤りだけでなく、書名、責任表示、出版年などの基本的な記述データでさえ、現物と異なっている例が散見される22。筆者自身が中国語図書の目録作業に従事している経験からも、CIPデータの正確度には疑問を感じている。

こうした誤りが発生する原因としては、図書在版編目処のデータ検査は現物がないため「工作単」のみで行なわれること、しかも出版者の担当者が未習熟のため「工作単」を誤って記入すること23、またCIPデータの取得後に変更があっても、出版者が報告を怠ってデータを修正しなかったり勝手に改竄したりすることなどが挙げられる24。そもそもCIPは、出版者にとっては単なる手続きに過ぎず、正確なデータを作成するという意識が低い25。また、人員不足も問題である。年間のデータ作成数が約20万件であるのに対して、データ検査に従事する職員は20余名しかおらず、1人あたりの作業量が膨大で、データ1件あたりに費やす時間が短い。多い時には1人で1日100件を処理することもあるという。

さらには、これら人員の水準が低いことや、書誌作成の専門知識と技術を有する図書館が運営に関与していないことなども原因として挙げられる26。2(1)で紹介したとおり、CIPの導入にあたっては、図書館は理論的な側面から参加したものの、その後の運営においては無関係の状態である。こうしたことから、図書館の目録現場におけるCIPデータに対する信頼度は極めて低い27。さらには、MARCフォーマットで頒布されていないなど、CIPデータは図書館でそのまま活用できる水準には達していないのが現状である。

こうした状況に対して、フォーマットの改善やより効率的で正確なCIPデータの提供に向けたECIPの研究が進められているものの、未だ理論の段階に留まっている28

4.中国版本図書館

次に、新聞出版総署情報センターのもう1つの役割である資料の収集・保存および目録作成をみていこう。上述の通り、この場合の名称は中国版本図書館となる。

(1)納本制度と中国版本図書館の役割

中国版本図書館の歴史は長く、その前身である中央人民政府出版総署図書館が創設された1950年まで遡る。以来、大陸で出版された出版物を幅広く収集・保存し、幾度かの名称と所属機関の変更を経て、1983年に現在の中国版本図書館と称するようになった29

同図書館の蔵書は全て納本によって収集されたものである。中国には法定の納本制度はないものの、「出版管理条例」(国務院令第343号)、「音像製品管理条例」(国務院令第341号)、および新聞出版総署が出した複数の行政規則などによって納本に関する事項が定められており、出版物の納本先として中国国家図書館、新聞出版総署、中国版本図書館の3機関が指定されている(表1)。中国国家図書館に納本される出版物は公開を前提としているのに対し、新聞出版総署への納本は出版動向の把握および合法非合法の検査が、そして中国版本図書館への納本は保存が目的とされる30。納本に係る規則が新聞出版総署の行政規則で定められていること自体が、出版物管理としての側面を強く表しているとも言えよう。こうした位置づけから、中国版本図書館の蔵書(約350万タイトル)は北京郊外に設けられた2つの書庫に保存されているだけで、一般には公開されていない。

受入機関 図書 雑誌 新聞 音楽映像資料 電子出版物
新刊 増刷
中国国家図書館 3部 1部 3部 1部 1部 1部
新聞出版総署 1部 1部 1部 1部 1部 1部
中国版本図書館 1部 1部 1部 1部 1部 1部

表1 納本資料の受入機関、種類、部数

(2)収集と目録作成

出版物の収集から保存までを担当する徴集管蔵処では、毎年約20万タイトル(新刊図書13万、重印図書2万、音楽映像3万、その他2万)の納本資料を受け入れている。到着した資料は、登録処理を行なった後、独自開発のシステムを用いて目録データを作成する31。約90%については、CIPデータを流用して現物を確認しながら必要な箇所の修正を行なう。CIPデータがあるにも関わらず納本されない出版物については、定期的に調査を行なって未納情報を抽出し、出版者に対して督促を行なっている。

(3)全国総書目

作成された目録データは、1年単位で編集・加工し、『全国総書目』として出版する。『全国総書目』の始まりは古く、1955年に新華書店本店から1949-1954年版と1955年版が出版され、翌1956年から版本図書館による編集となった。以後、文革期の中断があったものの現在まで継続して刊行されている。冊子体は2003年で終了して、以後は電子版(CD-ROMおよびオンライン)のみの刊行となっている。

5.中国国家図書館における書誌作成

ここまで、新聞出版総署情報センターでの書誌作成の概要をみてきた。続いて、中国国家図書館における書誌作成の現況をみていこう。

中国国家図書館は、前述のとおり、新聞出版総署、中国版本図書館と並んで、納本制度による出版物の受入れ機関であり、購入、寄贈などによる収集を含めると年間約64万冊の新刊図書を受け入れている32。これら中国語図書の書誌作成は、館内に設置されている全国図書館聯合編目センターと連携して行なわれているため、先に同センターの概略から紹介しよう。

(1)全国図書館聯合編目センター

①概要

中国では1990年代後半から全国規模の総合目録ネットワークが形成され始めた。中国おける図書館は、中国国家図書館、大学図書館、公共図書館、中国科学院図書館の4つの系統に大別することができるが、総合目録ネットワークもこの枠組みに沿って形成されている。主なものとして、中国国家図書館が運営する全国図書館聯合編目センター(OLCC: Online Library Cataloging Center、以下OLCC)、大学図書館を主な参加館とする中国高等教育文献保障系統(CALIS: China Academic Library System)、深圳図書館を中心に6つの省級図書館が共同構築する地方版聯合采編共作網(CRLnet: China Regional Libraries Network)、上海図書館が運営する上海市文献聯合編目センター、中国科学院国家科学数字図書館(CSDL: Chinese National Science Digital Library)の総合目録が挙げられる。

そのうちOLCCは1997年10月の設立で、中国で最も早く創設された総合目録ネットワークである。書誌データの共同構築と共同利用、目録作成にかかるコストの削減、重複作業の低減、目録作業者の技術向上などを主旨としており、全国の公共図書館が主な参加館となっている。創設初期には収益重視の企業運営方式が採られていたが、2004年に実施された中国国家図書館の機構改革を契機に、公益性の重視へと運営方針を転換し、中国国家図書館の内部組織として位置づけられるようになった33

以後は、中国国家図書館内の中文采編部聯合編目組が中央センターを運営している。この中央センターのもと地方センターが設置され、さらにその下位に参加館が所属する三層構造となっている。地方センターは省級規模の公共図書館や蔵書に特徴のある図書館で構成されており、現在のところ広東省立中山図書館、広西壮族自治区図書館、四川省図書館、天津図書館、遼寧省図書館、浙江省図書館、福建省図書館、山東省図書館、吉林省図書館、黒竜江省図書館、安徽省図書館、中国社会科学院文献情報センター、天津少年児童図書館の13館である。2008年6月現在の参加館数は674館、ユーザー数は1,105、年間のアップロード・ダウンロードの総件数は249万件におよぶ。

②データ作成

OLCCが提供するデータベースは20種以上あり、そのほとんどが中国国家図書館の作成した書誌データファイルで構成されている34。参加館はこれらデータをダウンロードして利用することができるほか、中国語図書のデータベース「中文図書書目数据庫」は参加館が共同で書誌作成を行なっている。データベースごとに利用料金が定められており35、例えば「中文図書書目数据庫」の場合、ダウンロード1件につき0.15元(1元は約14円)が課金される(最初の1,000件までは無料)。反対にアップロードをすると1件あたり3元の収入となる。これが誘因となってか、ここ数年「中文図書書目数据庫」へのアップロード件数が増加しており、同データベースは参加館が作成したデータが約半数を占めるまでになった。ただし、アップロードは参加館の全てに認められているわけではなく、中央センターが実施する「アップロード資格認証研修」に参加して規定の課程を修了した後、中央センターによる品質検査に合格した参加館のみ資格が与えられる。現在のところ、資格を有するのは25館である。

③データ管理

データの維持管理は、中央センターで集中的に行なわれる。参加館がアップロードしたデータは、中央センターにおいて1日単位でリスト抽出され(図4①)、これをもとに中央センターの担当者が該当データの検査を行なう。誤りのあるデータは修正を施し、作成館に連絡をした後に公開される(図4②)。また、既に公開されているデータに誤りや疑問が発見された場合は、発見館が中央センターに連絡をした後、中央センターによって調整および修正が行なわれる。

(図4) OLCCと中国国家図書館の書誌データ作成概念図

図4 OLCCと中国国家図書館の書誌データ作成概念図

④所蔵情報

使用しているシステムは、深圳市科図自動化新技術応用公司が開発した図書館統合システム(ILASⅡ)をカスタマイズしたものである。中央センターのシステムには、1書誌ごとに参加館のアップロード・ダウンロードの履歴が残されているものの、それらが所蔵情報として登録されていないため、正確な所蔵情報を確認することはできない。そのため、OPAC機能は提供されておらず、外部からこのデータベースを参照することはできない。これは、「聯合編目」という名称が表すとおり、書誌データの共同構築を第一義としてきたためのシステム的な制約と考えてよいだろう。近い将来には中国国家図書館の現行システムと同じEx Libris社のAleph500を導入することで、リアルタイムでのデータ更新を実現し、所蔵館情報とOPAC機能を搭載した総合目録データベースへと発展させる計画である。

(2)中国国家図書館の自館目録

中国国家図書館の自館の目録作成も、このOLCCを利用して行なわれている。書誌データ作成は資料受入および目録作成の2過程で行なわれるが、それぞれの過程で「中文図書書目数据庫」を検索して、ヒットしたものをダウンロードし、必要な箇所を修正して自館データベースに取り込む(図4③)。現在、新刊書の書誌データの約6割がダウンロードにより作成されている。ヒットしないものについては自館で書誌データを作成し、1日ごとに修正ダウンロードデータと自館作成データをあわせた新規作成データを抽出する(図4④)。そして、ISBN、書名、出版年を基にバッチ処理でOLCCのデータと重複調査を行ない(図4⑤)、自館作成データのみを再抽出した後、それらを「中文図書書目数据庫」にアップロードする(図4⑥)という仕組みである。

(3)中国国家書目

中国国家図書館が編纂する『中国国家書目』は、1987年に1985年版の刊行が開始されたものの、資金面での問題から、1994年を最後に冊子体の刊行が中止された。その一方で、1988年からはデータベース化が開始されており、1990年よりCNMARCが頒布されている。また1998年には、上海図書館、広東省立中山図書館、深圳図書館との協力で、1949年から1987年までの遡及データ40万件の入力も完成した。現在は、これらのデータとOLCC作成のデータの集合が、冊子体の『中国国家書目』に替わる電子版として位置づけられている36

6.課題と展望

(1)併存する全国書誌

以上、新聞出版総署情報センター(中国版本図書館)と中国国家図書館における書誌作成の実際をみてきた。いずれもが納本制度に基づいて出版物を大規模に収集し、それぞれが全国書誌に相当する書誌を作成していることがお分かりいただけただろう。

中国版本図書館の『全国総書目』は、約半世紀にわたって出版され続けている包括的な出版物目録であり、長年の間、事実上の全国書誌として扱われてきた37。しかしながら、もともと出版物の統計資料および登記目録としての性格が強いため、記載項目が簡略過ぎて品質が低く、厳密には全国書誌としての要件を満たしていないともされる38。それに対して、中国国家図書館の『中国国家書目』は、目録作成の専門家である図書館員によって作成されており、その品質は相対的に高い。1987年の『中国国家書目』の出現は、『全国総書目』の全国書誌としての独占的地位を揺るがしたといえる。

その一方で、収録率についてみてみると、『全国総書目』のほうが高くなっているが39、これは中国版本図書館への納本率のほうが中国国家図書館への納本率よりも高いことに起因する。そもそも、中国における納本率は全体的にみて高いとは言えないが、その原因として、納本制度が法定でないため強制力に乏しく罰則規定が機能していないこと、また地方政府によってはさらに独自の納本制度を定めているところもあり40、出版者の経済的な負担が大きく、納本に対する積極的な理解が得られていないことなどが挙げられる41。また、出版機関を管理監督するのは新聞出版総署であるため、出版者は新聞出版総署ならびに同署所属の中国版本図書館への納本を優先しがちである。しかも、中国国家図書館は文化部に属しているため、仮に納本しない出版者があったとしても、組織上それらを直接に監督・指導できる立場にない42。さらに新聞出版総署との連携も弱く、制度の改善がなかなか進まない。結果として、中国国家図書館への納本率は低くなりがちで、購入など他の手段により欠本を補ってはいるものの、収集しきれない出版物が数多く残されることになる。

このように、『全国総書目』は収録率は高いが品質が低く、『中国国家書目』は品質は高いが収録率が低い。どちらか一方のみをとって、中国を代表する全国書誌とは言えず、双方ともに全国書誌を自称しながら、過去20数年にわたって重複状態を続けてきている。

この膨大な資源の無駄使いともいえる状況については、当然のことながら『中国国家書目』が刊行された当初から問題視されており、1987年から1989年にかけて、中国版本図書館と北京図書館(当時)との間で全国書誌の共同編纂についての協議が行なわれた。しかし、結局は版本図書館側が『全国総書目』の存続を主張して物別れに終わっている43。また、組織編制の歴史を振り返ってみると、1970年代に版本図書館が一旦、北京図書館(当時)に合併されたものの数年後に再び分離しており、現在は縦割り行政の縛りから相互の関係は極めて薄い。

このように2つの全国書誌が存在する背景には、その刊行の経緯のみならず、行政組織に係る構造的な問題も絡んだ根深い要因が潜んでいるのである。

(2)図書館法の制定

こうした状況を打開する契機として考えられるのが、図書館法の制定である。中国にはこれまで図書館法がなかったが、2008年には第十一回全国人民代表大会常務委員会立法計画に図書館法が盛り込まれるなど、制定に向けた動きが本格化している44。図書館法の制定は法定納本制度の実現に向けての格好の機会であり45、これにより納本制度の枠組みが大きく変わる可能性がある。今後の動きに注目したい。

(3)業種を跨いだ書誌共有化

もう1つ、今後の展開が注目されるのは、出版流通業界と図書館による書誌データの共同作成である。

2005年10月、中国最大級の出版グループである中国出版集団は、在庫目録情報サービスを提供する専門の会社、中版通公司を設立した。同公司は、約120の出版者と契約を結んで、新刊書もしくはその電子版を入手し、それらの書誌データを、表紙・書名頁・版権頁・目次・本文の一部・裏表紙などの画像データと合わせて、ホームページで提供している46

現在、OLCCでは、この中版通公司の開発したシステムを利用した新しい書誌作成の実験が進められている。同システムの提供する電子情報を基にして、中国国家図書館が目録規則に基づいてより厳密な書誌データの補足・修正を行ない、CNMARCに変換してOLCCのシステムに搭載し、参加館が自由に利用できるようにしようという試みである47(図5)。これが実用化されれば、出版者や書店など、書誌作成の源流から品質の高いデータを提供することが可能となり、業界の枠組みを越えた効率化と標準化が期待できる。

(図5) 中版通とOLCCの試験システム

図5 中版通とOLCCの試験システム

7.おわりに

書誌作成の過程を川の流れに喩えるならば、出版界、流通界、図書館界は、それぞれ上流、中流、下流といえよう。中国では長らく三者間の境界が、いわば塞き止められた状態であった。しかし、前段で紹介したように、最近は境界間に新たな流れが生まれてきている。

社会全体での書誌情報の共有化と標準化を実現するためには、この流れをより本格化させ、さらには上流からの流れを取り組むことが必要となる。そのためには、CIPデータの改善、ECIPの実現、納本制度の改革など解決すべき課題は多い。



1"Survey on the state of national bibliographies in Asia" 2006.7(http://archive.ifla.org/VII/s12/pubs/Survey-Asia_MiddleEast-report.pdf外部サイトへのリンク)

2"Guidelines for National Bibliographies in the Electronic Age" (draft) 2008 (http://archive.ifla.org/VII/s12/guidelines-national-bibliographies-electronic-age.pdf外部サイトへのリンク)

3本稿は、筆者が2008年10月から2009年1月に在外研究で中国国家図書館に滞在した際、同図書館ならびに新聞出版総署情報センターで行なった調査に基づくものである。

4郝志平「中国图书在版编目(CIP)的起步与进展」『图书馆理论与实践』1998(2) pp.20-22.

5強制規格は強制的な執行力を有し、コードが「GB」で始まる。強制執行力を伴わないものは任意規格で、コードが「GB/T」で始まる。

6版本記録については、小島浩之「現代中国書の書誌的特徴」『大学図書館研究』(64)2002.3 pp.1-9.が詳しい。

7「关于实施CIP国家标准试点的有关问题的通知」新闻出版署 1992年12月19日 新出图[1992]1936号

8「关于扩大实施CIP国家标准试点有关问题的通知」新闻出版署 1993年3月4日 新出图[1993]173号

9「关于在京出版社实施"图书在版编目(CIP)"有关问题的通知」新闻出版署办公室 1993年12月7日 新出办[1993]1611号

10その他、概説書として、陈源蒸『图书在版编目:书目数据的标准化与规范化』(北京大学出版社1994)が出版された。

11「关于在全国各出版社实施图书在版编目(CIP)有关问题的通知」新闻出版署1999年3月8日新出技[1999]185号

12陈源蒸『中文图书ECIP与自动编目手册』(北京图书馆出版社2003)

13修訂後の規格コードは、「図書在版編目数据」が[GB/T12451-2001]、「図書書名頁」が[GB/T12450-2001]。詳細は傅祚华编著『图书书名页标准解说』(中国标准出版社2007)を参照。

14国内の出版やメディアに関する事業の監督・管理を行なっている国務院直属の機関。また、著作権の保護・管理も行なっており、その際は国家版権局の名称を用いる。

15樊玉敬ほか「我国图书在版编目(CIP)工作研究综述」『津图学刊』2003(4) pp.14-19.

16郝志平「我国图书在版编目工作获突破性进展」『中国新闻出版报』2005年9月29日 第001版

17http://www.cppinfo.com/CIPSJZX/cip_new.aspx外部サイトへのリンク

18偽造の理由の1つとしてISBNの不足が挙げられる。ISBNは前年の出版量に応じて、配布量が決められるため、出版者のなかには、ISBNが不足した場合に、異なる出版物に同じISBNを付与することがある。その際、CIPデータも偽造される。

19正式出版物とは、新聞出版総署にISBN登録をして一般に流通する出版物という概念であり、合法非合法の判断規準ではない。反義の非正式出版物は、灰色文献の概念に近い。

20半月刊。2008年10月からは、上半月が新刊案内、下半月がCIPデータ集となっている。なお、1999年から2004年には『图书在版编目快报』(週刊)も刊行されていた。

21唐开ほか「20世纪90年代以来在版编目(CIP)研究论文统计分析」『全国新书目』(97)2007.1 pp.79-81.

22沈凌燕「图书在版编目存在的问题分析及改进对策」『大学图书情报学刊』22(3)2004.9 pp.61-62.によると、記述の誤りは33%、分類の誤りは36%、件名の誤りは20%。

23郝志平「中国CIP:问题和对策」『中华读书报』2000年10月11日 第043版

24こうした事態に対処すべく管理体制の強化が図られている。例えば、提出された工作単の記載が不完全な場合は出版者に返却して、完全に修正されるまでデータ検査を保留する。さらには、出版後の図書のCIPデータの正確度を調査し、毎年の定期検査の項目に加えるなど。「关于继续加强CIP工作,进一步提高数据质量的函」新闻出版总署信息中心 2006年8月11日 新出信[2006]53号

25杨兰芝ほか「CIP存在的问题与ECIP计划的实施」『现代情报』2007(6) pp.149-151.

26张耀蕾「中美在版编目的比较研究」『图书馆学研究』2008(5) pp.47-51.

27筆者が実務研修を受けた中国国家図書館の目録作成部門においても、CIPデータは参考程度に参照するだけで、情報源としては採用していない。

28前掲注12。出版物の電子テキスト情報を基にCIPデータを自動生成し、より正確なデータ生成を行なうのがECIP。

29『中国大百科全书. 图书馆学、情报学、档案学』中国大百科全书出版社 1993 p.555.

30纪晓平ほか「我国呈缴本制度的立法思考」『大学图书馆学报』2006(3) pp.18-23.

31近いうちにEx Libris社のAleph500を導入の予定。

32新刊図書は、基本的に納本で3部、その他の手段で2部、合計5部を収集する。

33顾犇ほか「全国图书馆联合编目工作的回顾与展望」『国家图书馆学刊』(65)2008(3) pp.72-74.

34http://olcc.nlc.gov.cn/proserv-sjkjs.html外部サイトへのリンク

35http://olcc.nlc.gov.cn/join-fwfw.html外部サイトへのリンク

36Ben Gu"National Bibliographies: the Chinese Experience"World Library and Information Congress: 72nd IFLA General Conference and Council 2006(http://ifla.queenslibrary.org/IV/ifla72/papers/109-Gu-en.pdf外部サイトへのリンク)

37肖希明ほか「《全国总书目》与图书馆文献资源建设」『图书馆』2008(6) pp.26-29.

38黄俊贵「我国书目系统控制的流弊及其对策-从UBC与UAP说起-」『全国总书目. 2006』电子版使用手册 pp.1-23.

39柯平ほか「21世纪的国家书目控制」『全国总书目. 2005』电子版使用手册 pp.1-23.

40北京市、湖北省、内蒙古自治区、深圳経済特別区、上海市、浙江省、河南省など。

41孙雷「中外图书馆样本缴送制度比较分析」中国人大网2009年3月25日(http://www.npc.gov.cn/npc/xinwen/rdlt/fzjs/2009-03/25/content_1495035.htm外部サイトへのリンク)

42赵志刚「对国家图书馆接受呈缴本的思考-基于新制度经济学视角的分析」『信息资源建设中的图书馆采访工作:第二届全国图书采访工作研讨会论文集』北京图书馆出版社 2007.5 pp.139-145.

43前掲注38

44「十一届全国人大常委会立法规划」(http://www.npc.gov.cn/npc/xinwen/syxw/2008-10/29/content_1455985.htm外部サイトへのリンク)

45「图书馆法列入本届人大常委会立法计划:图书呈缴有望引入补偿机制」『法制日报』2008年8月3日(http://www.legaldaily.com.cn/bm/2008-08/03/content_915042.htm外部サイトへのリンク)

46书业公共数据交换中心(http://www.cbip.cn/外部サイトへのリンク)。なお、中版通公司は現在、2008年に設立された数字伝媒有限公司に統合されている。

47「聚焦跨业书目协作与共享」『新华书目报. 社科新书目』(868)2008.8.18 C1,C4-C7版

(URLの最終アクセスは全て2009.5.8)


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