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平成21年度アジア情報研修「現代インド情報の調べ方」概要報告: アジア情報室通報 第7巻第4号

アジア情報室通報 第7巻第4号(2009年12月)
齋藤まや

平成21年11月18日(水)、19日(木)に国立国会図書館関西館において、平成21年度アジア情報研修を実施した。第8回目となる今年度は、インドの資料・情報に関する科目を中心に実施した。

1. 受講者について

受講者の内訳は、館種別では大学図書館6名、専門図書館2名、その他機関2名、地域別では関東3名、中部1名、関西5名、九州1名の計10名であった。今年度も昨年度に引き続き、全国からの参加が見られた。

2. アジア情報研修の内容

研修の各科目の概要を以下に紹介する。

■ 1日目

(1)「インド関連情報の調べ方(講義)」
(講師:関西館アジア情報課 西願博之)

インド関連情報の調べ方について、「所蔵の調べ方」「媒体別の調べ方」「主題別の調べ方」の3部に分けて講義し、国内外各機関のOPACとその検索方法やインドの政府機関サイトや雑誌・新聞のサイトなどの有用なウェブサイトを紹介した。

(2)「インド関連情報の調べ方(実習)」
(講師:関西館アジア情報課 西願博之、遠山泰啓、林瞬介)

研修生が実際にパソコンを利用しながらの実習を行った。講義で紹介したウェブサイトを検索するなどして、特定資料の所蔵機関についての調べ方や統計情報の調べ方などに関する演習問題に取り組んだ。

■ 2日目

(1)「インドの法情報とその入手」
(講師:浅野宜之 大阪大谷大学 人間社会学部 准教授)

インド法に関する日本人研究者はさほど多くないが、その研究意義は決して小さくない。インド憲法はバングラディシュ、パキスタン、スリランカといった南アジア諸国の憲法に少なからず影響を及ぼしているだけでなく、法学教育の面でも他国の学生を受入れてきた実績がある。また、インド法には公益訴訟や社会的弱者への留保制度など、特徴的なトピックが多い。加えて、インドにおいて法律や裁判の言語は英語であり、資料の出版点数も豊富である。本講義ではこうしたインド法の概要とインド法に関する情報収集方法を紹介する。

インドの司法制度において、最高裁判所は連邦政府と州政府の間の紛争や、高等裁判所からの上告審を管轄する。一方、全国21ヶ所に設置されている高等裁判所は、独立前の地域裁判所から役割を継承し、最高裁同様令状発給権を持つ。

インドに近代的な法律制度が導入されたのはイギリスの統治時代のことである。その法体系はイギリスの影響を受けており、判例法が主体であるが、議会による制定法も重要である。制定法の立法権限は連邦と州にそれぞれ付与されており、権限分担は憲法第7附則で定められており、国防、外交、鉄道などに関するものは連邦に、治安、地方政府、公衆衛生などに関するものは州に付与されている。連邦議会は下院と上院からなる二院制である。法律の制定過程は、政府または議員による法案提出、官報への掲載、担当の常任委員会での検討などを経て両院で可決された後、大統領が親書して制定される。法案審議過程の議事録は紙媒体のもののほかに、ウェブ上でも公開されている。使用言語は基本的に英語であるが、議員の中にはヒンディー語で発言する例もあり、そのまま記録されていることもある。

インドの法の特徴の一つに公益訴訟がある。このタイプの訴訟は、憲法第32条および第226条に定められた令状訴訟に関する規定を基礎としている。令状には逮捕令状、捜査令状、人身保護令状、職務執行令状など様々なものがある。公益訴訟の特徴は当事者適格や申立方法における要件の緩和、裁判所の職権による訴訟指揮、中間的命令や第三者への敷衍などの終結方法である。別の特徴として、社会的に弱い立場にある階層に対して、法的に優遇措置を定める留保制度が挙げられる。この制度は、例えば、憲法で定められた指定カーストや指定部族に対して公務への就職や高等教育の枠を設けることや、女性に対して地方議会の議席枠を設ける方式がとられている。近年におけるインド法の重要なトピックとしては、知的財産、ビジネス法や人権、テロリズムに対する制度などが挙げられる。

判例情報を調べるには、冊子体の判例集やウェブ上のデータベースを利用することになる。冊子体判例集のうち最もよく用いられるのは“AIR”(All India Reporter)であり、最高裁判所だけでなく、高等裁判所の重要な判例も掲載している。その他、“SCC(Supreme Court Cases)”“SCR(Supreme Court Reports)”などの判例集もある。データベースの中では、最高裁判所トップページ内の‘Judgments’から、最高裁の判例を検索できる。また、各高等裁判所のウェブサイトでも重要判例の多くを閲覧可能である。一方、制定法に関しては、最高裁判所トップページにリンクのある‘Indiacode’で、タイトル、法律番号、制定年などから検索することができる。このほか、インド法律委員会、インド司法省のウェブサイトや、インド法律研究所、インド行政研究所のウェブサイトおよび機関誌も有用である。その他、民間の有料データベースも存在する。

(2)「インド歴史・地域研究とその資料:図書館から見た近現代史」
(講師:大石高志 神戸市外国語大学 国際関係学科 准教授)

インドの図書館は他国よりも整備が遅れていると言わざるを得ない。日本の国立国会図書館に相当する「インド国立図書館」さえも、様々な問題を抱えている。インド国立図書館はイギリス統治期の帝国図書館を継承した歴史のある図書館であり、2004年には新館が建設された。しかし、資料の紛失などの管理上の問題、高温多湿な気候、施設整備の遅れといった保存上の問題、目録整備の遅れなどの問題が残されている。

インドの出版史を振り返ると、イギリス植民地期に近代的な出版技術が導入された結果、様々な出版物が刊行されたが、イギリスはある程度の出版の自由をインドに認める一方で、監視も行った。このため、イギリスの支配体制を覆すような意図を持った出版物に対しては統制が加えられた。なお、この時代にインドで出版されたものの多くは、現在、イギリスの博物館などで保存されている。

インドの図書館史を概観すると、1808年に設置されたアジア協会付属図書館はインドやアジアの全般的知識の収集と集積を目的としており、研究機関や知的サロンの役割を果たしていた。収集資料の分野は古典語、宗教学、博物学、地誌などに偏っており、利用者層も東インド会社社員などのエリート層に限られたが、結果的にインド人知識エリートの成立に寄与する面もあった。同時期には、セランポール協会の図書館など、ミッション系図書館も設立され、積極的に科学技術や英語の教育を提供し、イギリスの統治に利する植民地協力者を養成した。

1836年には、起業家で知識人でもあったDwarkanath Tagoreによってインドで最初の市民図書館であるCalcutta Public Libraryが設立された。もっとも、「市民図書館」とは言っても、実際には主要利用者は知識人階級であった。Calcutta Public Library に続いて、David Sassoonが設立した紹介会員制であるサスーン図書館、ヒンドゥー教の流れを汲んだラーマクリシュナ・ミッションの図書館などが設立されたが、やはり一般市民に広く開放されたわけではなかった。

独立後には、英語を媒介とした文芸、教育、研究の交流を目的として、世界各国に設置されているBritish Council Libraryの支部がインドにも設立され、欧米出版物、技術書などを提供した。また、NMMLネルー記念館やSapru House Libraryでは民族運動関係の資料を重点的に収集しており、民族運動の歴史を後世に残す役割を担っている。このほか、独立後には、Indian Institute of Technologyなど、図書館を付設した科学技術分野の研究所群も設立された。

3. 研修の総括

研修終了後に行ったアンケートでは、「非常に有益な情報を得ることができた」「今後自館のサービスに生かせると思う」「実務にあたっての参考になった」など、おおむね高い評価を受けた。一方で「もう少し演習時間が長いほうがよい」という意見や「ベトナム、タイなどの国々についても同様の研修を行ってほしい」といった要望も寄せられた。来年度以降の研修に活かしていきたい。

なお、当館作成の研修資料は、当館ウェブサイト内のアジア情報研修のページ(https://rnavi.ndl.go.jp/asia/entry/asia-workshop.php)に掲載する予定である。

最後に、研修講師および参加各機関に、この場を借りて改めてお礼申し上げる。

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