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地域の百科事典―中国の地方志と国立国会図書館における所蔵状況―: アジア情報室通報 第8巻第1号

アジア情報室通報 第8巻第1号(2010年3月)
齊藤まや(国立国会図書館関西館アジア情報課)

1 はじめに

地方志(中国では「方志」とも呼ぶ)は省、県、市などの特定の地域を範囲として、その地域の政治、経済、地理、歴史などの状況を総合的に記録した資料である。地方志という呼称は中国独特のもので、「地方史」とは異なり、歴史以外にも豊富な情報を得ることができるため、地方志は地域の百科事典のような性質を持つ。

地方志は刊行された年代によって2種に大別できる。1種は旧方志と呼ばれ、中華民国期までに編纂された地方志である。もう1種は新方志と呼ばれ、1949年の中華人民共和国成立以降に編纂された地方志である。

中国に現存する地方志は、旧方志だけでも8,500余タイトル、10万巻に上り、分量の上では1949年以前に刊行された文献の10分の1を占める大きな資料群となっている1。地方志は地方に伝わる伝承や各地で保管する公文書資料も情報源とするほか、実地調査も行ったうえで編纂されていることが多いため、地方に関する詳細な情報を得やすい。また、地方志は各地域の社会・歴史の様相を反映しており、地域研究だけでなく、中国全体の歴史や経済を研究する上でも欠かせない資料である。

本稿では中国の地方志の歴史や特徴について概括するとともに、当館における所蔵状況を紹介する。

2 中華民国期までの地方志

2-1 地方志の起源

地方志の起源には様々な解釈がある。「方志」という言葉が現存する中国の文献上に初めて登場するのは、周王朝の制度について記した『周礼』である2。これを地方志の起源とすれば、その歴史は実に2000年以上にも及ぶ3。そのほか、春秋時代の晋の『乗』や魯の『春秋』も特定地域の歴史を記録しているという点で、地方志の起源と考えることができる。また、漢代から魏晋南北朝期にかけては、地方を主題にした歴史地理書が多く刊行されている。たとえば、後漢の『巴郡図経』は地図に詳細な説明を加えた文献である。このような文献は「図経」と呼ばれる地方の地理を記した地理書の1種であり、古代の地方志と言われている。そのほか、後漢の『越絶書』や東晋の『華陽国志』などは、特定地域の歴史や産業について記述しているという点で、後の地方志に影響を与えていると考えられる4

2-2 地方志の発展

魏晋南北朝以前におけるこれらの文献は同時代のその他の歴史書と同じく、個人あるいは数名程度の少人数で編纂されていた。国や地方で組織的に地方志の編纂が行われるようになったのは唐代以降のことである。唐王朝は中央に史館と呼ばれる歴史書編纂の専門組織を置き、史官と呼ばれる役職を置いて歴史書の編纂にあたらせた5。同時に歴史書編纂時の資料として、地方志の編纂と提出を全国に命じたため、地方では州や県ごとに組織的に地方志を編纂するようになった。

さらに、宋代になると科挙で登用された官僚が地方志編纂に関わるようになった。主に該当地方出身の官僚が編纂にあたり、地方志は自らの郷土がいかに優れているかをアピールする手段となった6。しかし、これら宋代の地方志のうち、現存するものは約30タイトルに過ぎず、そのほとんどが現在の浙江省のものであることから考えると、地方志の編纂が全国的に活発であったわけではない。

地方志が全国的に刊行されるようになったのは明代以降である。明清期には膨大な数の地方志が編纂され、明代の地方志は770タイトル、清代の地方志は4,655タイトルが現存している7。明清時代にこれだけ多くの地方志が刊行されたのは、政治・経済的に安定した期間があったことや、科挙で登用された官僚が増加し、地元の地方志編纂に力を注いだことなどが要因と考えられている8

続く中華民国期には、民国政府が1929年に「修志事例概要」、1941年に「地方志书纂修办法」を公布するなど、清代に引き続き地方志の編纂に力を注いだ。中華民国期は政治的な混乱や外交上の困難などがあり、不安定な時期が続いたものの、1,400タイトル以上の地方志が編纂された9。しかし、中華民国期末期には第二次世界大戦などの混乱により、地方志編纂はほぼ断絶した。

3 新方志

3-1 新方志の歴史

(1)発展と中断

1949年に中華人民共和国が成立してから、断絶した地方志編纂を再開し、社会主義的観点に立って地方志を編纂すべきであるとの声が上がった。1956年、山東省教育庁副庁の王祝晨は新しく地方志を編集すべきであると提案し、これは同年6月29日の『人民日報』に掲載された。共産党の幹部も地方志を重視した。特に毛沢東は各地の県志を閲覧するのを好んだと言われ10、1958年に成都で行われた共産党中央工作会議に出席した際に『四川通志』『華陽国志』などを閲覧してその有用性を認め、地方志を学んで幹部のレベルを高めることや全国的に地方志を編纂することを提唱した。また、周恩来も同年に開催された政治協商会議全国委員会主催の茶話会において、「過去に編纂された府志や県志には多くの有用な史料が含まれている」と話した。このような幹部の意向を受けて、1958年10月に国務院規画委員会の管轄下(後に中国科学院に移管)に地方志小組が成立し、「新地方志編纂に関する意見」を発表した。

地方志小組の成立後、北京市、四川省、青海省、甘粛省など、全国の地方政府は地方志編纂委員会を設置して地方志の編纂に着手し、新方志編纂の機運が高まるかに見えた。しかし、1960年代の四清運動11とそれに続く文化大革命によって、地方志の編纂事業は大きな打撃を受けた。地方志は旧文化の象徴として敵視され、編纂を中断させられただけではなく、編集にあたっていた担当者の弾圧も行われた。また、地方志編纂のために収集した史料の多くが散逸してしまった。

(2)文化大革命後の発展

文化大革命が終息に向かった1978年になってようやく十数年に渡って中断していた地方志編纂が各地で再開した。同時に学問として地方志を研究する方志学も盛んになり、1981年に方志学の専門雑誌『中国地方志通讯』が創刊された。また、旧方志の収集と整理も行われるようになり、『中國地方志聯合目録』(中華書局 1985)のような旧方志の目録が次々と刊行された。

1980年から2000年にかけては、全国的に多くの新方志が編纂された。2007年までに編纂された三級志(省・市・県の単位で編纂する地方志)はすでに約6,000タイトルにのぼり12、県以下の行政区分である郷や鎮の地方志も含めるとその数はさらに膨大なものになる13。省級地方志の完成率は2007年時点ですでに95%を超えており、地市級では98%、県級では99.5%と、ほぼ全ての省・市・県で地方志の編纂が完了しているということになる14

2006年に国務院が制定した「地方志工作条例」15では、地方志はおおむね20年ごとに改訂することが推奨されているため、近年では各地で改訂作業が進められている。2007年までに『湖南省志』など220余タイトルの改訂版が出版されている16。今後、三級志の改訂版は5,000余タイトルが編纂される計画である。なお、改訂版も含めると、地方志は現在でも中国全体で毎年約100タイトルが新たに刊行されており、さらに充実した資料群となることが期待できる17

3-2 新方志の特徴

ここでは三級志を中心に紹介する。地方志編纂は中国地方志指導小組と全国に設置された編纂委員会が連携して行っている。前述の「地方志工作条例」では、各地方で組織的に地方志を編纂すること、地方人民政府の基準に従って編纂し、審査を通過してから出版すること、地方志編纂に使用した文書、写真などの資料は統一的に管理することなどが定められている。加えて、各地の編纂委員会の多くも独自に「地方志工作条例」を定めている18

地方志の構成はその発行主体となる行政単位の規模によって異なる。『北京志』『四川省志』『内蒙古自治区志』のような省級志の場合は「出版志」「教育志」などの主題ごとに分冊して編纂し、複数巻で1タイトルの地方志として刊行している。省級志は大部のもので100巻以上に上ることもある。各巻においては、該当分野の概要、歴史、関連団体、関連する著名な人物などを紹介している。

一方、小規模な市や県で刊行する地方志の内容はコンパクトである。構成は省級志と類似しているが、おおむね1巻から数巻程度の分量で構成される。これらはより地域に特化した情報が掲載されていることが特徴である。

4 国立国会図書館における地方志の所蔵状況

中国の地方志は当館の特色あるコレクションの1つであり、積極的に収集している資料群の1つである。関西館アジア情報室および東京本館で所蔵しており、当館で収集した年代によって所管と検索方法が異なる。

ここでは、関西館アジア情報室を中心に、当館における地方志の所蔵状況と検索方法を紹介する。なお、所蔵タイトル数は2010年2月時点での数値である。

4-1東京本館

中華民国期以前に刊行された旧方志の原本など、1985年以前に受け入れたものを所蔵している。そのうち、清代より以前に刊行された地方志は古典籍資料室で所蔵している。

東京本館で所蔵している地方志のうち、1968年までに受け入れたものは、他の機関の所蔵と併せて『中国地方志総合目録 : 日本主要図書館・研究所所蔵』(国立国会図書館参考書誌部 1969)で確認することができる。この目録によると、東京本館では約1,300タイトルの地方志を所蔵している。

その他の地方志を検索したい場合は、1981年から1985年に受け入れたものは東京本館および関西館アジア情報室に設置するカード目録、それ以外の年代に受け入れたものはNDL-OPAC(https://ndlopac.ndl.go.jp/)で検索する。検索の際には探したい地域を表す分類記号(河北=GE365、上海=GE396など)で絞り込むと探しやすい19

4-2 関西館アジア情報室

1986年以降に当館で収集した中国の地方志は関西館アジア情報室で所蔵しており、アジア言語OPAC(http://asiaopac.ndl.go.jp/)で検索することができる。現在当室で所蔵する地方志のタイトル数は約3,300タイトルである20

以下では当室で所蔵する旧方志の主要な叢書と新方志の主要な資料群を紹介する。

(1)旧方志
・中国地方志集成

現存する旧方志の保存と継承のために、地方志の専門家や識者が編集委員会を組織し、江蘇古籍出版社、上海書店、巴蜀書社などの出版社が共同で刊行している地方志の影印版叢書である。収録範囲は旧方志の中でも、通志、府志、州志、廟志、県志、郷鎮志、山水志など幅広いジャンルにおよび、収録している地方志の総数は約3,000タイトルである。収録の際には比較的残欠の少ない版本を底本としているが、その版に欠けた部分があれば、他の版本から補っている。

この叢書は『海南府縣志輯』のようなシリーズごとに刊行されており、シリーズの第1冊目にそのシリーズに収録する地方志の目録、掲載巻、掲載ページを収録している。当室では「浙江府縣志輯」「湖南府縣志輯」 など22のシリーズ、834冊を所蔵している。

写真1「中国地方志集成」に収録されている中華民国期の県志の一例『山東府縣志輯』

写真1「中国地方志集成」に収録されている中華民国期の県志の一例『山東府縣志輯』

・中國方志叢書

台湾の成文出版社が刊行した影印版の大規模地方志叢書で、宋元期から中華民国期までに刊行された地方志1,789タイトルを収録する。刊行時代別では清代と民国期が圧倒的多数を占める。また地方別では浙江省など、長江流域の地域で刊行されたものが多く、冊数では江蘇地方が177タイトル、浙江地方が216タイトルなど、多くを占めている21

当室では華中地方シリーズの一部(番号:607-964)と台湾地区シリーズの一部(番号:103-345)を所蔵しており、所蔵数は約600タイトル、2,000余冊である。なお、当室で所蔵しているのは当館所蔵の一部である。東京本館で華北地方シリーズや西部地方シリーズなどを所蔵しており、カード目録で検索できる22

写真2 関西館の書庫に並ぶ「中国方志叢書」

写真2 関西館の書庫に並ぶ「中国方志叢書」

・宋元方志叢刊 当館請求記号 GE197-C7

現存するものが非常に少ない宋代と元代の地方志の散逸を防ぎ、研究者の利用に供するために編纂された影印版の叢書である。40タイトルを収録する。第1巻の巻頭に使用した底本の一覧を掲載している。

・天一閣藏明代方志選刊 当館請求記号 GE197-C6

中国最古の図書館である天一閣で所蔵している明代の地方志を収録する影印版の叢書で、続編と合わせると140巻が刊行されている。

天一閣は現在の寧波市にあり、清代までに所蔵していた地方志は471タイトルである。その最も古いタイトルは1395年に編纂された『洪武京城図志』で、最も新しいタイトルは1642年に編纂された『呉県志』であり、所蔵する地方志は約250年間もの年代をカバーしている。しかし、数百年の間にその多くは散逸しており、現存するのは271タイトルのみであるが、この叢書ではそのうち216タイトルを収録している。

・日本藏中國罕見地方志叢刊

中国から日本に流出した地方志を収集・保存する目的で編纂された叢書である。日本で所蔵する中国の地方志のうち、中国国内では入手が難しいものを収録している。主に明代と清代に刊行された地方志を収録しており、収録タイトル数は「日本藏中國罕見地方志叢刊」で約100タイトル、続編として刊行された「日本藏中國罕見地方志叢刊續編」では16タイトルである。

(2)新方志

当室では三級志を中心に多くの新方志を所蔵している。また、各省が発行する年鑑類や、専業志(「民俗志」「教育志」など、特定の分野についてのみ記述された地方志)も所蔵している。

・三級志

省・市・県の単位で編纂される三級志は当室所蔵の新方志の基本となるコレクションである。中でも、省級政府(23省、4直轄市、5自治区)の新方志については各省の地方志編纂委員会が作成したものを原則的に全て所蔵している。そのほか、近年は積極的には収集していないものの、市志や県志も約1,500タイトルを所蔵している。

写真3 アジア情報室で所蔵する市志や県志

写真3 アジア情報室で所蔵する市志や県志

・地方年鑑類

『河北年鑑』『重慶年鑑』など、各行政区が発行している年鑑も積極的に収集している。前述の「地方志工作条例」では、地方志編纂に加えて総合年鑑を発行することが推奨している。当室では、省級自治体の刊行する年鑑は基本的に継続的に収集しており、最新号を開架している。また、『深圳年鑑』のような直轄市以外の主要市の行政区の年鑑も一部所蔵している。

写真4 関西館アジア情報室で開架する年鑑類

写真4 関西館アジア情報室で開架する年鑑類

以上の地方志のほか、当室では地方志の所蔵機関や書誌を調べるための目録類も多く所蔵している。これらについては当館ホームページ内リサーチ・ナビに掲載の「中国の地方志を調べる」(https://rnavi.ndl.go.jp/Research_guide/entry/theme-asia-93.php)で紹介している。地方志を調査するために有用なインターネットサイトも紹介しているのでご活用いただきたい。


1 曹子西, 朱明德主编『中国现代方志学』方志出版社 2005  p.3

2 『周礼』巻16「誦訓掌道方志.以詔觀事」

3 周迅「中国地方志述略」(『国家图书馆学刊』1992年 2期 pp.110-117)、黄建生「从方志的历史演变看未来对方志学的归类趋势」(『图书馆研究与工作』2004年4期 pp.65-68)などではこれを地方志の起源としている。

4 前掲注3周迅論文

5 『舊唐書』卷43 職官2 「中書省」に史館に関する記述がある。

6  山根幸夫「中国の地方志について--県志を中心に (地方史の比較史-1-<特集>)」『歴史学研究』通号641 1993年1月 pp.2-9

7  朱士嘉编『中国地方志综录』(商务印书馆 1958)による。

8 前掲注6

9 前掲注3周迅論文

1 西沢治彦「中国で進む地方志の編修事業」『櫻美林大學中國文學論叢』通号12 1986年11月 pp.149-162

11 1963年から1966年にかけて行われた、政治、経済、思想、組織の歪みを正す社会主義教育運動

12 「深入贯彻落实科学发展观努力促进地方志工作又好又快发展-在第四次全国地方志工作会议上的工作报告」『中国地方志』2008年11期 pp.11-22

13 郷志・鎮志も収録する全国地方志资料工作协作组编『中国新方志目录:1949-1992』(书目文献出版社 1993)には9,351タイトルが収録されている。

14 田嘉「认真学习贯彻党的十七大精神努力开创地方志工作的新局面-在全国省级方志工作机构主任会议上的讲话」『中国地方志』 2008年3期 pp.5-9

15 http://www.difangzhi.cn/web/news/11/313.htm

16 前掲注14

17 卢万发『方志学原理』(巴蜀书社 2007.6) p.19

18 一例として陝西省の条例を挙げる。「陕西省实施《地方志工作条例》办法」(http://www.shaanxi.gov.cn/0/103/5512.htm)

19 分類記号については国立国会図書館分類表(http://www.ndl.go.jp/jp/library/data/ndl_ndlc.html#taiyou)で参照できる。

20 中国の特定地方を主題とした資料を広く数えており、時代やテーマが限定されたものも含む。また、「中國方志叢書」など一部の叢書を除いた数である。

21 冊数については、王兆明,傅朗云主编『中华古文献大辞典』(吉林文史出版社 1991)地理巻p.48による。

22 東京本館では華北シリーズ(1-564)、華南地方シリーズ(1-285)、華中シリーズ(1-607、615-732の一部)、塞北シリーズ(1-42)、西部地方シリーズ(1-38)、東北地方シリーズ(1-51)タイトル、台湾地区シリーズ(1-102)を所蔵している。

(URLの最終アクセスは全て2010年2月5日)

(さいとう まや)


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