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アジア・セミナー「資料保存と四大元素:空気、水、地、火」に出席して―出張報告: アジア情報室通報 第8巻第3号

アジア情報室通報 第8巻第3号(2010年9月)
中村規子(国立国会図書館収集書誌部司書監 IFLA/PACアジア地域センター長)
村本聡子(国立国会図書館収集書誌部資料保存課)

1. アジア・セミナー「資料保存と四大元素:空気、水、地、火」

アジア・セミナー「資料保存と四大元素:空気、水、地、火」は、平成22年6月21日から25日までの間、IFLA/PAC中国センター(中国国家図書館)により北京友誼賓館において開催された。

このセミナーは、国際図書館連盟資料保存コア活動1(以下「IFLA/PAC」という。)が、「保存と四大元素」をテーマとしてシリーズで行っている国際会議の一環として開催されたものである。このテーマは、保存環境、保存技術、災害事例、資料防災など幅広い内容を扱い、図書館のみならず文書館、博物館を対象とする。

参加者はIFLA/PAC韓国センター(韓国国立中央図書館)とIFLA/PACアジア地域センター(国立国会図書館)のほか、中国本土、香港、マカオ、台湾の図書館、文書館、博物館、大学等の機関からあり、約60名であった。日本からは、国立国会図書館収集書誌部司書監・IFLA/PACアジア地域センター長の中村規子と同部資料保存課主査の村本聡子及び東京国立博物館学芸研究部保存修復課長の神庭信幸博士の3名が参加した。なお、本会議は英語と中国語で行われた。

開会に際し、IFLA/PAC中国センター、アジア地域センター、韓国センターの各センター長(韓国は代理)から挨拶があった。続いて、各センターの活動報告、テーマ報告が行われた。テーマ報告は9名からあり、主に保存環境の管理と資料防災に関するものであった。

開会の挨拶

開会の挨拶
右から、陳紅彦(中国国家図書館 国家古籍保護センター事務局長、IFLA/PAC中国センター副センター長)、中村、張志清(中国国家図書館副館長、IFLA/PAC中国センター長)、朴素妍(韓国国立図書館)、李丹(中国国家図書館、通訳)の各氏

2. IFLA/PAC各地域センターの活動報告

日本からは、中村規子が会議テーマに即し、国立国会図書館における資料保存の参加型研修と遠隔研修の実施、また、IPM2(総合的有害生物管理)や資料防災に関し、当館内部における活動とともに国内外において進めている普及・協力活動を中心とした報告を行った。

韓国からは、2008年11月のIFLA/PAC韓国センター設立、修復センターの建設、そして2008年以降の活動について報告があった。国内外の図書館を対象とした研修やワークショップの実施、韓国国内の会議等における資料保存に関する研究発表など、精力的に活動を進めていることが報告された。

中国からは、2007年に開始された古典籍の保存プロジェクトに関する詳細な報告があった。古典籍保存プロジェクトは、IFLA/PAC中国センターの中心的業務であり、中国国内における古典籍の保存状況調査、古典籍保存に関する研修の実施、展示会の開催や出版、それらを通して古典籍資料の重要性と保存に対する理解の促進を図っていることなどが報告された。また、IFLA/PAC中国センターが中心となり、これまでの経験主義的な保存対策に替わり、科学的知識や手法に基づく保存対策を推進していることも報告された。

3. 保存環境の管理に関する報告

保存環境の管理に関する報告が4名からあり、また、紙資料の保存状態に関する報告が1名からあった。

李承恩氏(韓国国立中央博物館)は、2005年10月に開設した韓国国立中央博物館の新施設における展示室と収蔵庫の保管環境を紹介した。そして、温湿度、空気汚染物質、照明に関する基準を設定し、保存環境の維持管理を行っていることを報告した。

朴素妍氏(韓国国立中央図書館)は、2009年5月に開館したデジタル図書館における書庫の保管環境と防災システムについて報告した。デジタル図書館は、省エネルギーで高性能な設備や十分な書庫スペースを有し、最適な保管環境を整備している。また、耐震性の高い構造を採用し、不活性ガスによる消火システムや電磁波遮断システムも備えた建物である。建築段階から空気汚染物質やガス、照度、温湿度を測定したところ、建築中は、ホルムアルデヒドやアンモニア等の汚染物質が発生していたが、現在は、空調及び換気装置の運転により環境基準を満たすレベルに落ち着いており、恒温恒湿システムも安定的に運用されている。安定した書庫環境を整備する上では、継続的な環境調査の実施が不可欠であるということであった。

神庭信幸博士(東京国立博物館)は、過去5年にわたる東京国立博物館の収蔵庫・展示室の空気汚染物質の状況とそれらの測定結果を踏まえて作成したガイドラインについて報告した。同館は、様々な材質の資料を収蔵し展示している。加えて、様々な年代に建設された建物から成る施設である。そのため、建物内の環境を一元的に取り扱うことはできない。こうした特徴を有する施設の保存環境について長期間にわたり、モニタリングを行った結果とその方法が紹介された。そして、このモニタリング結果をもとに、同館に合った空気汚染物質の濃度基準値を定め、持続可能な管理を目指していることが報告された。

村本聡子(国立国会図書館)は、当館におけるIPM(総合的有害生物管理)による虫菌害対策の取組について、東京本館の本館書庫のカビ発生に対処した経験をもとにした報告を行った。当館の状況に合わせ、実施可能で持続可能な方策を採っていること、また、館外専門家や関係組織と協力して進めていることを紹介した。対策の実施に当たっては、館内の関係部署との意思疎通が不可欠であるなど、マネジメントの重要性についても報告した。

当館(村本)の報告

当館(村本)の報告

劉家真氏(中国・武漢大学)は、中国国内における紙資料の保存状態の概況に関する文献調査により、主たる劣化原因と望ましい対策を示した。劣化の主な原因は酸性化と虫害であり、酸性化による劣化に関して言うと、明代の資料については状態の良いものが多いが、中華民国時代の資料については状態の悪いものが多いということであった。一方、虫害の原因は、収蔵庫において卵や蛹が存在すること、そして収蔵庫の環境が虫の生育に適していることであった。加えて、古い文書を保管している寺院で虫害が多く見られるのは、殺生を忌む宗教上の理由もあるとのことであった。このような指摘は、地域の文化的特徴を示すものであり、大変興味深かった。

4. 資料防災に関する報告

資料防災に関しては、災害事例も含めて4名からの報告があった。災害は人災であれ、天災であれ、図書館や文書館にとって一瞬のうちに大規模で破壊的な結果をもたらす。特に近年は、2008年の四川大地震をはじめ、2004年のインドネシア・スマトラ島沖地震による津波被害や2001年のアフガニスタンのバーミヤンの大仏破壊など、自然災害や武力紛争による図書館、文書館、博物館の被害が多発している。そのため、文書遺産の保存に取組むIFLA/PACにおいても、災害は重要課題の一つと位置付けられ、研修の実施やマニュアルの刊行等、多くの取組みがなされている。

張新氏(中国・四川省檔案局副館長)は、2008年5月12日に起きた四川省の大地震による北川県檔案館の被災と資料救済活動について、当時の写真をパワーポイントで示して報告した。レジュメは無く、中国語だけで行われたが、映像と映像における文字を見れば、概ね理解できた。崩れ落ちた建物や土砂に埋もれて泥水にまみれた図書の山などは想像以上の光景であった。また、そうした被災資料の救済活動が組織的リーダーシップのもとに展開された様子が伝わってきた。

陶琴氏(中国国家檔案局檔案科学技術研究所)は、洪水等により被災した紙資料の救出方法について、実験室における研究及び事例研究に基づき、具体的手順を示した。また、過去の救済事例を検証し、建築基準にも触れた、被災防止のための提案を行った。

杜偉生氏(中国国家図書館)は、水濡れ被害にあった図書の乾燥方法について、経験的知識をもとにした報告を行った。資料の種類ごとに紙の種類や製本形態に即した乾燥方法、また、空気乾燥法と凍結乾燥法の両方に関する注意点が示された。

水損被害は、大雨や洪水はもとより、水道管の破裂、火災消火による水濡れ、地震による二次被害等、様々な原因により発生するものであり、図書館がしばしば経験してきた災害のひとつである。報告者自身の経験を交えながらの解説は、大変参考になった。

林明氏(中国・中山大学図書館副館長)は、2009年から2010年にかけて中国本土の大規模図書館を対象に行った資料防災のアンケート結果を報告した。アンケート結果によれば、災害への備えはまだまだ不十分であり、特に資料防災計画の策定がなされていないということであった。また、このアンケート調査には、資料防災だけでなく、各館における資料保存活動全般についての基本的な質問項目も含まれており、中国の図書館における保存活動の現況の一端を窺い知ることができ、興味深いものであった。

会議の最後には、会場から災害時における組織的な協力が呼びかけられるなど、IFLA/PAC中国センターを中心に資料防災に対して積極的に取り組む姿勢が感じられた。

5. 見学

このセミナーの一環として、中国国家図書館の展示館で開催中の「国家貴重古典籍特別展」、古籍館にある文津木版印刷博物館及び保存科学研究室の見学が行われた。

展示館は中国国家図書館の施設内にあり、立派な建物であった。「国家貴重古典籍特別展」には、魏晋南北朝時代の資料から清の時代までの写本、地図、拓本等約300点の古典籍資料が展示されていた。血で書かれたという写経や中国測量地図の初期のものなど興味深い資料が多々あり、見学時間内には見尽くすことはできなかった。また、同展示会の大変立派なカラー図録をいただいたので、帰国後、当館所蔵資料に加えた(資料名『楮墨芸香-国家珍貴古籍特展図録2010』)。

この展示館の隣に、本をイメージした斬新なデザインの建物であるデジタル図書館(2008年に開館)があった。残念ながらその内部を見学することはできなかったが、外から垣間見ることはできた。

中国国家図書館の分館である古籍館施設内の文津木版印刷博物館には、木版印刷に使われた版木、木製の活字、初期の活版印刷機などが展示されて いた。博物館は建築されて間もなく、コンクリートのグレーの壁と調度品に使われている新しい木材の茶色、かつて使われていたために墨を十分吸った版木の黒の3色が調和するモダンな雰囲気の建物であった。

同じ古籍館施設内に開設された資料保存オフィスには、いくつもの調査研究室があり、紙や室内環境を測定するための多種多様な分析機器が整備されていた。調査研究室の要員は今後、増員を予定しているとのことであり、中国国家図書館が保存科学研究を積極的に推進していく方向であると思われた。

文津木版印刷博物館

文津木版印刷博物館

文津木版印刷博物館内

文津木版印刷博物館

文津木版印刷博物館内

文津木版印刷博物館 木版印刷の版木

6. まとめ

IFLA/PACがシリーズで行っている国際会議「保存と四大元素:空気、水、地、火」は、第1回目は2009年5月フランス国立図書館で開催され、第2回目は同年の10月にチェコ国立図書館で開催された。今回、このシリーズの一環として中国で開催され、アジア地域における気候・風土、また、地球温暖化による環境変化の問題を前提として、保存環境、災害事例、資料防災等について情報共有を図り、議論することができたことは、大変有意義なことであった。

各報告においては、保存科学に基づく保存環境の管理や資料防災への取組が示されたが、いずれもスピード感をもって活動を進めていることが窺われた。こうした情報共有が行われたことは、互いに励みとなるものであったと思われる。さらなる情報共有のため、セミナーの記録が刊行予定であることを申し添える。

また、今回、図書館のみならず、文書館、博物館、大学等の機関からの参加があったことにより、共通する問題についても多様な観点があることを知ることができ、幅広く考える機会が与えられた。

最後に、アジア地域の資料保存関係者が直接に顔を合わせたことにより、数多くのつながりができた。こうしたつながりを大切にしていくことにより、この地域における資料保存活動が一層発展することを期待する。


  • 1. 国際図書館連盟資料保存コア活動(IFLA/PAC)は、International Federation of Library Associations and Institutions Core Activity on Preservation and Conservation の和訳。国際図書館連盟(IFLA)が重要課題として取り組んでいる6つのコア活動のひとつである。将来に向けて図書館資料や情報資源を保存するために、物理的、化学的劣化の問題に対する解決策を追求する努力を世界的に奨励し、促進することを使命とし、すべての形態の図書館、文書館資料ができるだけ長期に利用可能な状態で保存されることを目指して活動している。組織は、国際センター(フランス国立図書館)を中心とし、世界各地に設置された14の地域センターが地域性とそれぞれの得意分野を生かしながら活動を行っている。
  • 2. IPM(Integrated Pest Management)とは、従来の化学薬品中心の虫菌害対策と異なり、人体や環境への悪影響を低減するために、できるだけ薬剤を使用せず、さまざまな防除手段を合理的に組み合わせて、害虫やカビの被害を予防管理していくという考え方である。

(なかむら のりこ、むらもと さとこ)

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