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『朝鮮王朝儀軌』と韓国の国外所在韓国文化財調査: アジア情報室通報 第9巻第1号

アジア情報室通報 第9巻第1号(2011年3月)
阿部健太郎(国立国会図書館関西館アジア情報課)

2010年11月14日、朝鮮時代の王室や国家の主要な行事の記録『朝鮮王朝儀軌』(以下『儀軌』という。)など、日本所在の朝鮮半島由来の図書を韓国に引き渡すことで日韓首脳が正式に合意、これを盛り込んだ日韓図書協定に日韓外相が署名した1。一方、韓国とフランスは同12日、フランス国立図書館が所蔵する外奎章閣の図書を5年更新の貸与(事実上、永久貸与)とすることで合意した2。このように、最近相次いで、朝鮮半島から海外に渡った図書がまた韓国に渡っている。これに、韓国がおこなっている、国外所在の韓国文化財に関する調査が多少なりとも影響を与えたことは否定できない。

本稿では、学術研究の基礎資料の整備という側面から、『儀軌』の所蔵状況を概観し、これに関連して、韓国の国外所在韓国文化財調査も併せて概観する。なお、【】内は、当館所蔵資料の請求記号である。

1 『朝鮮王朝儀軌』の所蔵状況

現存する『儀軌』の調査については、韓永愚の研究3に詳しい。それによれば、『儀軌』を所蔵している公共機関は4か所であり、ソウル大学校奎章閣、韓国精神文化研究院蔵書閣、フランス国立図書館4、そして日本の宮内庁である。フランス国立図書館所蔵のものは、1866年丙寅洋擾の際、江華島に攻め込んだ仏軍が外奎章閣に保管されていた多数の『儀軌』を略奪してフランスへ持ち去ったもの、宮内庁所蔵のものは、1922年に朝鮮総督府が奎章閣所蔵の『儀軌』の一部を「寄贈」という形式で宮内庁に移管したもの、とされている。

このうち、もっとも多くの『儀軌』を所蔵しているのは、ソウル大学校奎章閣である。

『奎章閣資料叢書 ; 儀軌篇』(【GE128-K1】など)が『儀軌』の影印を多数収録しており、また『규장각 소장 분류별 의궤 해설집』(奎章閣所蔵分類別儀軌解説集)【UP72-K22】や『규장각 소장 의궤 해제집』1-3(奎章閣所蔵儀軌解題集)【UP72-K15】が参考図書として有用である5

奎章閣のウェブサイト6では、『儀軌』の解題解説および目録を公開している。「자료검색」(資料検索)の「원문자료 검색」(原文資料検索)から、「목록해제 보기」(目録解題を見る)の「해제」(解題)をたどると『儀軌』の総説や主題別解説を、「분류별 보기」(分類別に見る)をたどると、王名別・分類別・所蔵者別の一覧および全体儀軌目録(2,368件)を、それぞれ見ることができる。王名別・分類別一覧と全体儀軌目録では、書誌情報、解題、一部については原文も見ることができる。

また、ソウル大学校奎章閣国家典籍資料センターのウェブサイト7に、『儀軌』の解説・歴史・種類などの紹介、分類別・時期別・所蔵者別に書誌情報を一覧できる「儀軌デジタル書庫」、『儀軌』を利用したコンテンツ、などがある。また、所蔵者別一覧の外奎章閣の項目から文化財庁の「フランス所蔵外奎章閣儀軌 - 唯一本」のページに行き、外奎章閣『儀軌』30巻の原文イメージなどを見ることができる8

このように、少なからぬ『儀軌』が、韓国国外に所在していることが判明している。学術研究における基礎資料の整備という観点からは、これらの国外所在韓国文化財の現状を把握し、所在を調査し、データベースを作成する、などの必要にせまられているのである。

2 韓国の国外所在韓国文化財調査

2.1 国立文化財研究所

国立文化財研究所は国外所在の韓国文化財を継続的に調査しており、調査報告書も多数刊行している。この調査は、美術文化財研究室がおこなっており、返還された文化財の実態調査も担当している9

国外所在韓国文化財調査は、国外所在韓国文化財の現況把握や調査資料についての報告書の刊行・普及、保存処理の支援やインターネット上の資料情報館の運営などを内容とする継続事業である。2010年では、日本の九州国立博物館などが所蔵する韓国文化財の現地調査、米国LAカウンティ博物館所蔵の韓国文化財など2種の調査報告書の刊行、国外所在韓国文化財の保存処理の支援、「国外韓国文化財資料情報館」の運営が該当する。

古くは1984年から、収集した資料などをもとに『海外所在韓國文化財目録』などを刊行し、また1992年から国外の韓国文化財の現況を把握して学術研究資料を収集するために、日本、欧米など国外の主要な博物館と美術館に所蔵されている韓国文化財についての現地調査を継続的に実施している。2002年から現在までに現地調査した、日本など外国に所在している韓国文化財は2万余点にのぼる。その成果物の一覧は、国立文化財研究所のウェブサイトで確認できる10

国立文化財研究所のウェブサイトには、「国外韓国文化財資料情報館」のページがある11。国立文化財研究所は1992年から継続的に、国外所在の韓国文化財について、所蔵機関と協議の上、専門家による現地調査を実施しており、その成果を報告書として刊行しているが、この「国外韓国文化財資料情報館」はそのデータを一か所に集めたものである。国外に所在する韓国文化財21,457点を統合検索することができ、索引語・時代別・国家別に一覧することもできる。

2.2 国史編纂委員会

国史編纂委員会は、韓国史に関する資料の調査・研究・編纂をおこなう国家機関である。主要な事業のひとつに、編史部史料調査室が担当する史料の収集・管理がある。史料収集手続きは、史料収集計画の樹立、関係機関および史料調査委員会の協議、調査・収集、分析・整理、電子化・マイクロフィルム撮影、保存・刊行・閲覧・インターネット公開、という流れになっている12

国外史料の収集・整理については具体的に、海外所在韓国史資料の収集・移転事業、関係機関実務者協議および国外史料調査委員の活用、国外関係機関との協定・国外史料調査委員の活用・国外出張収集・資料交換などをおこなっている。

海外所在韓国史資料の収集・移転事業として、国家別・機関別に韓国史関連資料の所蔵についての現況調査やデータベース化、海外に所在する韓国史資料・民主化運動関連資料・北朝鮮(統一)関係資料の収集・整理、米国・日本・中国・ロシアなどに職員を派遣あるいは出張させての調査などをおこなっている。関係機関実務者協議および国外史料調査委員の活用として、具体的には、関係機関との協力体制の構築やネットワークの形成をはかったり、12か国49名の国外史料調査委員を活用したりしている。国外関係機関との協定・国外史料調査委員の活用・国外出張収集・資料交換などにより収集した史料は分類・整理・登録した後、インターネット公開や資料集の刊行をおこなう。2007年までの収集実績は、文書約470万枚、マイクロフィルム約5,200ロール、マイクロフィッシュ約24万カット、DVDおよびCD-ROM約1,000枚、写真約11,000枚、図書約18,000冊、テープ約1,400個、スライド約12,000枚などである。

また、国外史料刊行事業では、『海外所在韓国史資料収集目録集』Ⅰ~Ⅴ(2001年)、『韓国近代史資料集成』(2001~継続)、『韓国現代史資料集成』(1987~継続)、『海外史料叢書』(2002年~継続)、『対馬島宗家文書』(2005年~継続)などを刊行している。『韓国近代史資料集成』は国内外から収集した韓国近代史関連史料を整理して校正・脱草13・翻訳して編纂した資料、『韓国現代史資料集成』は現代史関連の主要資料を抜粋・影印して編纂した資料、『海外史料叢書』は海外に所在する韓国史資料の所蔵情報の解題および主要な収集資料を編纂した資料、『対馬島宗家文書』は対馬島宗家文書の中の日朝外交・貿易などの交流に関する資料を脱草・校閲して編纂した資料である14

2.3 国立中央図書館その他

国立中央図書館については、ウェブサイト15で海外収集記録物を閲覧することができる。「자료찾기」(資料をさがす)から「해외수집기록물」(海外収集記録物)とリンクをたどると、原本の所蔵国・機関別に、書誌情報や目次情報、原文イメージを確認することができる。

また、海外収集記録物の記述規則案や国立中央図書館海外収集記録物分類規則を策定している16

他にも、韓国国際交流財団17、東北亜歴史財団18、文化財庁19、独立記念館20、外交通商部21などが国外所在の韓国文化財の調査に関する資料を刊行している。

おわりに

2010年9月、国立文化財研究所が「朝鮮王朝儀軌学術調査の成果」と題する学術シンポジウムを開催した。

「儀軌調査の成果と活用」と題し、『儀軌』の文化財指定学術調査および奎章閣や蔵書閣が所蔵する『儀軌』の現状や意義についての講演がなされた。それらに続いて、「儀軌と東アジア国家記録の伝統」「儀軌を通じた朝鮮文化史の復元」のテーマで講演がなされた。『儀軌』は、日中韓の記録文化の比較や、王室儀礼、王室の宮廷経営、饗宴などの復元に有用な資料となっている。『儀軌』に関する調査・研究は、『儀軌』それ自体を対象とした基礎的な調査研究から、『儀軌』を資料として活用した研究へと軸足を移しつつあることがうかがわれる。

以上、『儀軌』をきっかけに、韓国の国外所在韓国文化財調査を概観した。いずれも、国外に存在する韓国関連文化財の現況を調査・把握し、目録・データベースなどを整備して学術研究をおこなう上での基礎的な環境を準備することに主眼がある。朝鮮時代や韓国近代史などの研究を進展させるためにも、学術研究の基礎資料が充実し、資料の所在という地理的な障害を越えて自由に利用できる環境が整備されることが重要である。

(あべ けんたろう)


1. 「朝鮮王朝記録など1205冊、日韓図書協定に署名」2010年11月15日付朝日新聞夕刊14面、「이토 히로부미가 강탈한 책, 모두 돌아온다; 韓·日 회담 협정문 서명」2010년11월15일 조선일보 A1면など。

2. 「文化財引き渡し、韓国「高く評価」」2010年11月16日付朝日新聞朝刊7面、「외규장각도서 297책 144년만에 돌아온다; 韓·佛정상 '5년마다 대여 자동 연장' 합의」2010년11월13일 조선일보 A1면など。

3. 韓永愚「조선시대『儀軌』편찬과 現存 儀軌 조사 연구」『韓國史論』48、2002。なお、この論考をもとにした講演の記録(日本語)として、韓永愚「朝鮮時代における『儀軌』の編纂とその資料的価値」(平木葉子訳、『朝鮮学報』190、2004)がある。

4. フランス国立図書館所蔵『儀軌』については、『朝鮮朝의 儀軌 : 파리所藏本과 國內所藏本의 書誌學的 比較 檢討』(朝鮮朝の儀軌 : パリ所蔵本と国内所蔵本の書誌学的比較検討)【GE3-K1】および『파리 국립도서관 소장 외규장각 의궤 조사연구』(パリ国立図書館所蔵外奎章閣儀軌調査研究)【UP121-K1】が参考になる。

5. そのほか、『규장각 소장 儀軌 종합목록』2002がある。なお、蔵書閣については、『藏書閣所藏儀軌目錄』【UP115-K33】が、同じく参考図書として有用である。

6. ソウル大学校奎章閣韓国学研究院(http://e-kyujanggak.snu.ac.kr/)。

7. http://e-kyujanggak.snu.ac.kr/center/

8. このページへは、国家記録遺産ポータル(http://www.memorykorea.go.kr/)からもたどることができる。

9. 以降、国立文化財研究所に関する記述は、基本的にウェブサイト(http://www.nrich.go.kr/)の情報による。

10. その一覧は、以下のとおり。
『海外所在韓國文化財目錄』vol.1、 1984
『海外所在韓國文化財目錄』vol.2、海外所在文化財調査書第2冊、1986【K1-K4】
『日本所在韓國典籍目錄』文化財管理局文化財硏究所、1991【UP72-K2】
『海外所在韓國文化財目錄』vol.3、海外所在文化財調査書第4冊、1993【K1-K2】
『小川敬吉調査文化財資料』海外所在文化財調査書第5冊、1994【K144-K46】
『日本所在文化財圖錄』海外所在文化財調査書第6冊、1995
『日本所在韓國佛畵圖錄-京都·奈良』海外所在文化財調査書第7冊、1996【KC16-K17】
『프랑스 국립기메동양박물관 소장 한국문화재』海外所在文化財調査書8、1999
『모스크바 국립동양박물관 소장 한국문화재』海外所在文化財調査書第9冊、2002
『러시아 표트르대제 인류학민족학박물관 소장 한국문화재』海外所在文化財調査書第10冊、2004
『미국 보스턴 미술관 소장 한국문화재』(米国ボストン美術館所蔵韓国文化財)海外所在文化財調査書第11册、2004【K16-K57】
『일본 도교국립박물관소장 오구라컬렉션 한국문화재』海外所在文化財調査書12、2005
『일본 네이라쿠미술관 소장 한국문화재』海外所在文化財調査書13冊、2006
『미국 브루클린박물관소장 한국문화재』(米国ブルックリン博物館所蔵韓国文化財)海外所在文化財調査書第14册、2006【K16-K41】
『프랑스 세브르국립도자박물관 소장 한국문화재』(フランスセーブル国立陶磁博物館所蔵韓国文化財)海外所在文化財調査書第15册、2006【KB16-K13】
『독일 쾰른 동아시아박물관 소장 한국문화재』(ドイツケルン東アジア博物館所蔵韓国文化財)海外所在文化財調査報告書第16册、2007【K16-K50】
『일본 와세다대학 쓰보우치박사 기념 연극박물관소장 한국문화재』国外所在韓國文化財調査報告書第17卷、2008
『미국 필라델피아미술관 소장 한국문화재』(米国フィラデルフィア美術館所蔵韓国文化財)國外韓國文化財調査報告書第18卷、2008【K16-K59】
『미국 코넬대학교 허버트 F.존슨 미술관 한국문화재』(米国コーネル大学校ハーバート F.ジョンソン美術館韓国文化財)國外韓國文化財調査報告書제19권、2009【K16-K66】
そのほか、『海外典籍文化財調査目錄』日本 天理大學 天理圖書館 所藏 韓國本【UP72-K19】、『해외소재 한국사자료 수집목록집』(海外所在韓国史資料蒐集目録集)【GE3-K29】などもある。

11. http://overseas.nricp.go.kr/

12. 以降、国史編纂委員会に関する記述は、基本的にウェブサイト(http://www.history.go.kr/)の情報による。

13. 脱草とは、草書体や行書体などを正字体である楷書体に置き換えること。

14. 当館の所蔵は、以下のとおり。
『海外所在韓国史資料収集目録集』【GE3-K29】
『韓国近代史資料集成』6件(【A99-F2K2-K1】など)
『韓国現代史資料集成』8件(【A99-UK2-K2】など)
『海外史料叢書』12件(【UP171-K3】など)
『対馬島宗家文書』【GB391-K6】
そのほか、『日本所在韓國古文書』日本天理大・京都大・早稲田大所蔵韓國古文書資料集【GE121-K85】、『對馬島宗家文書古文書目錄集』1-2【GB5-K4】などもある。

15. http://www.nl.go.kr/

16. 『해외소재 한국관련 수집기록물 정보공유 방안』(海外所在韓国関連収集記録物情報共有方案)【UL31-K7】参照。そのほか、国立中央図書館刊行の国外所在韓国文化財調査関連資料には、『국외소재 한국 고문헌 수집 성과와 과제』(国外所在韓国古文献収集成果と課題)【GE121-K170】などもある。

17. 『해외소장 한국문화재』3-7【K16-K16】【K16-K17】、『미국박물관소장 한국문화재』1989、『유럽박물관소장 한국문화재』1991、『러시아 國立文書保管所 所藏 韓國 關聯 文書 要約集』(ロシア国立文書保管所所蔵韓国関連文書要約集)【GE5-K7】

18. 『일본 소재 고구려 유물』(日本所在高句麗遺物)【GE73-K232】

19. 『해외 자료조사 보고서』2006、『일본 궁내청 소장 창덕궁 사진첩』(日本宮内庁所蔵昌徳宮写真帖)【KC726-K11】

20. 『日本外交史料館 所蔵 韓末義兵資料』【GE128-K48】

21. 前掲『파리 국립도서관 소장 외규장각 의궤 조사연구』【UP121-K1】

(URLの最終アクセスは全て2011年2月15日)

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