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平成22年度アジア情報研修特別講演会概要報告: アジア情報室通報 第9巻第1号

アジア情報室通報 第9巻第1号(2011年3月)
湯野 基生

平成23年1月26日、国立国会図書館関西館第一研修室および東京本館新館大会議室において、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)研究者の平岩俊司・関西学院大学国際学部教授によるアジア情報研修特別講演会を開催した。現下の国際情勢において、北朝鮮に対する日本国民の関心は極めて高いにもかかわらず、その情報を入手することは容易でない。図書館員による北朝鮮関係資料や情報の収集および提供サービスに資するべく、本講演会は「北朝鮮情勢へのアプローチ―調査に必要な資料・情報とその入手・分析方法―」と題して行なわれた。以下にその概要を報告する。

北朝鮮研究の分析枠組み

北朝鮮研究を難しくしている第一の要因は、北朝鮮についての正確な情報が不足していることにある。情報不足のために、観察者は往々にして自らの価値観や属する国家の政治的立場の影響を受け、客観的な分析をすることが難しくなりがちである。

もう一つの要因は、その分析枠組みに欠陥が生じていることにも求められる。これまで旧ソ連や中国など共産主義国に対する研究の枠組みとして、公式行事に出席した指導者の席次や、党機関出版物における表現上の変化などの事象から、体制の政治変動や政策動向を読み取る「クレムノロジー」「ペキノロジー」などと呼ばれる分析方法が採られてきた。これは中ソ二大国の狭間でイデオロギーを駆使して国家の立場を保全してきた北朝鮮についても長らく有効であった。しかし、冷戦の終焉により、共産主義国間の相互関係を規定し、北朝鮮内部の政治力学をも規定したイデオロギーはその影響力を低下させている。こうした状況に加えて、いわゆる脱北者による情報の比重が増加するなど、情報源が多様化していることも、従来の分析枠組みに修正を迫っている。

北朝鮮研究の資料

北朝鮮研究において、公開文献は依然として最も基本的な資料である。金日成の著作は『選集』『著作選集』『全集』などが出版されていて、次第に分量は増加しているが、それぞれの版で字句に異同がある。新しく出版されたこうした文献から事実の真贋を見定めるには、慎重な史料批判が必要である。北朝鮮が自らの歴史を修正するため、新たに歴史資料を出版して歴史の「改竄」を行ってきたことはよく知られている。

年刊の『朝鮮中央年鑑』は、北朝鮮の一年ごとの動向を網羅している有用な資料である。そのほか『労働新聞』『民主朝鮮』などの新聞資料も挙げられる。北朝鮮研究に関する文献資料の状況については『現代韓国朝鮮研究』(現代韓国朝鮮学会)第8号の特集「現代韓国朝鮮研究とアーカイブズ」が参考になる。

文字資料のほか、朝鮮中央通信、朝鮮中央テレビ、平壌放送、朝鮮の声放送など音声映像資料も重要な情報源である。

これら北朝鮮が発表した資料からの情報を日本語でまとめていて有用なのが、月刊の『北朝鮮政策動向』(ラヂオプレス)である。

さらに近年では、インターネット上で公開される北朝鮮資料が最新の情勢を知る上で極めて重要である。北朝鮮政府公式サイト(http://www.korea-dpr.com/)や、公式ポータルサイト・ネナラ(http://175.45.176.14/ko/)、朝鮮通信社(http://www.kcna.co.jp)、朝鮮総連系の新聞社である朝鮮新報(http://www.korea-np.co.jp)などのサイトが有用である。

北朝鮮研究の情報源

日本の北朝鮮研究は、かつて韓国などに比べて有利な時期があったが、それは朝鮮新報などの総連情報が入手できたことが大きい。

韓国では北朝鮮資料を自由に閲覧できない時期が長かったが、2000年の南北首脳会談後、その北朝鮮研究は一挙に進展した。さらに近年では脱北者からの聞き取り情報を入手できることも大きい。ただ韓国からの情報は量も豊富で重要ではあるが、南北関係の当事者であるゆえに、政治状況の影響を大きく被る。

質疑応答

北朝鮮研究に資するため、図書館はどのように蔵書構築をすべきか、また国内の図書館の資料状況をどのように評価するかとの質問に対して、平岩教授からは「国内では希少な1950年代の『労働新聞』を所蔵するアジア経済研究所や、入手しやすい基礎資料を網羅的に所蔵する東京都立中央図書館などは研究者の間で定評がある。指導者の著作集や『朝鮮中央年鑑』などの基礎資料を網羅して、最後の拠りどころとなる役割を国立国会図書館には期待したい。インターネットや脱北者からの伝聞情報などが主な資料となる現状分析よりも、歴史研究に対して図書館の貢献しうる余地はより大きいのではないか」との提言があった。

本研修では、一般参加者のほか、当館職員および衆参両院事務局職員を含む計40名が聴講した。講演会全体の評価は総じて高く、業務にも役立つ内容であるとの評価が多かった。情報の入手、分析の方法について専門家から話を聞ける機会は貴重で有益だったとの意見もあった。当館ホームページ(リサーチ・ナビ>アジア諸国の情報をさがす)に関連資料を掲載する予定である。

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