昭和6年度予算編成方針ニ関スル件

昭和5年7月18日 閣議決定

収載資料:昭和財政史 第3巻 大蔵省昭和財政史編集室 東洋経済新報社 1975.9 pp.610-611 当館請求記号:342.1-O635s

昭和五年度実行予算ヲ基礎トセル歳入歳出概計表ニヨルトキハ昭和六年度歳計ノ見込額ハ歳入歳出共ニ十五億七千二百余万円ニシテ内歳入ニアリテハ
経常部    十五億三千余万円
臨時部     四千二百余万円
計    十五億七千二百余万円
ナリ然ルニ最近経済界ノ不況ハ歳入ノ激減ヲ来シ昭和五年度予算ノ実行ニ当リテハ少ナカラサル歳入ノ減収ヲ見ルヘキ状勢ニアルノミナラス現在ノ実情ヲ以テスレハ来年度ニ於テハ寧ロ更ニ一層ノ歳入減少ヲ見ルヘシト想像セラルモトヨリ今日ニ於テ昭和六年度ノ歳入見込額ヲ正確ニ数字ニ見積ルコトハ頗ル困難ナリト雖モ仮ニ現在ノ実績ヲ基礎トシテ推算スルトキハ租税及印紙収入ニ於テ少クモ八千万円森林収入ニ於テ七百万円通信収入ニ於テ千万円其他ヲ合計シテ約一億円ノ減収ヲ免レサルヘク一方ニ昭和六年度ニ於テ煙草元売捌国営ノ為メ従来ノ元売捌人ノ煙草売払代延納金ノ徴収ニヨリ約三千万円ノ一時的収入ヲ見積ルコトトスルモ尚差引七千万円ノ歳入ノ減少ヲ来スヲ免レス
飜テ歳出見込額ヲ見ルニ
経常部  十二億二千二百余万円
臨時部   三億四千八百余万円
計    十五億七千二百余万円
ナルカ右ハ昭和五年度実行予算ヲ基礎トシテ昭和六年度ニ於ケル当然ノ増減ノミヲ加除シタルモノナルヲ以テモトヨリ自然増減其他ノ新規事項ヲ予想セス然ルニ例年ノ概算査定ノ実況ヲ見ルニ恩給警察費連帯支弁金其他ノ補充費途ニシテ到底経費ノ増加ヲ避ケ得ラレサルモノ並ニ海軍新艦船経費既定計画ニヨル航空隊ノ維持費等ノ如ク当然ノ増加ニ準スヘキモノ及ヒ概算査定ノ手続上形式的ニ新規事項ノ取扱ヲ為スモ其ノ実過去ノ施設ノ継続ニ過キサルモノ即チ所謂皆増皆減ニ属スル経費等少カラサル財源ヲ要スルモノアリ而シテ昭和四年度決算上生スル新規剰余金ノ期待シ得サルハ既ニ屡説明セル所ナリ
以上ノ事情ヲ総合スルトキハ昭和六年度予算編成ハ空前ノ難局ニ直面セルモノニシテ仮令一切ノ新規事項ヲ絶対ニ容認セサルコトトスルモ尚八九千万円ノ財源不足ヲ免レサルヘク而シテ此ノ不足ハ各省既定経費ノ節約ニヨリ補填スルノ外ナシ若シ夫レ各省既定経費ノ節約ニシテ所要ノ数額ニ達セサル場合ニ於テハ已ムヲ得ス増税カ公債カ減債基金繰入中止カ非常手段ヲ講スルノ外ナカルヘシ倫敦条約ノ結果ニヨル海軍軍備補充計画乃至国民負担軽減ノ問題ハ総テ別途留保シアル財源ノ範囲内ニ於テ適当ニ按配スヘキハ勿論ナリ
依テ昭和六年度予算ノ編成方針ハ左ノ通決定相成度
一、昭和六年度ニ於テハ極力既定経費ノ節約ヲ為スコト
二、新規ノ事項ハ一切之ヲ要求セサルコト
三、公債計画ニ付テハ既定方針ニ依ルコト
四、既定経費ノ節約ニ付テハ別ニ大蔵省ニ於テ立案シ閣議ノ決定ヲ経ルコト
五、昭和六年度以降各特別会計ニ於テ恩給ヲ分担スルコト
六、昭和六年度概算ハ昭和五年八月十五日限提出スルコト
七、各特別会計ニ於テモ前各項ニ準ジ其ノ概算ハ八月三十一日限提出スルコト
右至急閣議ヲ請フ
昭和五年七月十七日
大蔵大臣 井上 準之助
内閣総理大臣男爵 浜口 雄幸殿