交通会社設立基本要綱

昭和14年4月14日 閣議決定

収載資料:国立公文書館所蔵公文別録 80 ゆまに書房 1997.5 236-242 当館請求記号:YC-98

第一、鉄道ノ所有並ニ経営ニ関スル事項
(一)既存鉄道ノ所有権ハ其ノ地域ニ応シ蒙彊、臨時及維新三政府ニ夫々帰属セシメ、臨時政府又ハ維新政府ノ特殊法人タル日支合弁ノ会社ヲシテ其ノ経営ニ当ラシムルモノトス
(二)本事業ニ当リ会社経営前ノ財産ニ付我方ニ於テ復旧又ハ建設改良ヲ為シタルモノハ之ヲ社有トス
(三)国有鉄道ノ経営ハ会社自己ノ計算ニ於テ之ヲ行フモノトス
右鉄道ノ保修(維持及修繕)ニ要スル費用ハ会社ノ負担トス
(四)事業上必要ナル建設又ハ改良ハ会社ニ於テ之ヲ実施シ之ニ依リ附加セラルル財産ハ之ヲ社有トス
但シ公益上ノ必要ニ基ク新線ノ建設ニ付キ特別ノ事情アル場合ハ政府ニ於テ其ノ費用(経営上損失アル場合ハ之ヲ含ム)ヲ負担シ会社ヲシテ之ヲ行ハシムルコトアルモノトス
(五)財産整理ノ便宜ノ為及将来財産ノ国有部分ト社有部分トノ間ニ適当ナル調和ヲ得シムル為前各号ニ拘ハラス適当ナル措置ヲ為シ得ルモノトス
(六)会社ハ速ニ鉄道財産台帳ヲ整備シ国有並ニ社有ノ財産区分ヲ常ニ明確ナラシムルモノトス
第二、経営区域ニ関スル事項
(一)北支那交通会社(仮称)ハ主トシテ隴海線以北(蒙□政権内ヲ含ム)ノ鉄道ヲ経営スルモノトス
(二)華中鉄道会社(仮称)ハ主トシテ揚子江南三角地帯ノ鉄道(揚子江輪渡施設ヲ含ム)ヲ経営スルモノトス
(三)右範囲内ニアリテモ尚軍事上会社経営ヲ不適当ト認メラルル鉄道ハ軍管理ノ儘トシ情勢ノ推移ヲ俟テ逐次当該会社ニ移管スルモノトス
(四)他政権ノ鉄道ヲ経営スル場合ハ経営ノ委任及監督ニ関シ関係政権又ハ会社間ニ於テ別途協定スルモノトス
第三、借款処理ニ関スル事項
(一)会社ニ関係アル借款及之ニ伴フ権益ニ関シテハ政府ヲシテ之カ処理ニ当ラシメ会社ハ政府ニ納付金ヲ納付スルモノトス
(二)借款処理具体案ノ確定ニ至ルマテ政府ヲシテ左ニヨリ取得セル金額ヲ償還資金トシテ積立シムルモノトス
(1)政府ノ持株ニ対スル配当金
(2)会社ノ納付金
前項第二号ノ納付金ハ会社ニ於テ配当ヲ為ス場合ニ於ケル配当シ得ベキ利益金中ヨリ左ノ事項ヲ考慮シ別ニ定ムル割合ニヨリ算出スルモノトス
(1)会社事業ノ健全ナル発達
(2)株主ノ保護
(3)最低限度ノ借款弁済ノ可能性
(4)会社ニ於テ使用スル国有財産ノ収益性
(三)政府ハ配当金並ニ納付金ノ外必要ニ応シ一般財源ヨリモ償還資金ヲ捻出スル如ク考慮スルモノトス
(四)政府ヲシテ借款整理案ニ付日本側及第三国債権者ト協議セシムルモノトス
第四、鉄道ニ関スル軍事上ノ要求及監督権ニ関スル事項
日本ハ駐兵間概ネ駐兵地域ニ於ケル鉄道ニ対シ軍事上必要ナル要求権及監督権ヲ有スル如ク別紙第一、第二ノ通リ措置セラルルモノトス
第五、北支港湾ノ経営帰属ニ関スル事項
一応之ヲ切離シ別途併行的ニ研究審議スルモノトス

別紙第一
北支鉄道ニ関スル措置
一、北支鉄道ニ関シテハ陸軍大臣ニ於テ北支那開発株式会社ヲ通シテ会社ニ命令スルト共ニ之ヲ通シ其ノ実施ヲ監督(現地監督ハ日本陸軍最高指揮官之ニ当ル)ス
但シ重要軍事行動終了ニ至ル迄ハ緊急ヲ要スル場合ニハ日本陸軍最高指揮官ニ於テ直接会社ニ対シ命令監督シ得
二、日本陸軍最高指揮官ハ直接会社ニ対シ作戦警備上必要ナル要求ヲ為シ且之ニ伴フ監督ヲナシ得
三、前各号ニ依ル場合ニ於テハ会社経営上ニ大ナル支障ヲ来サシメサル如ク考慮ス

別紙第二
中支鉄道ニ関スル措置
一、中支鉄道ニ関シテハ陸軍大臣又ハ海軍大臣ニ於テ中支那振興株式会社ヲ通シテ会社ニ命令スルト共ニ之ヲ通シ其ノ実施ヲ監督(現地監督ハ日本陸軍最高指揮官又ハ日本海軍最高指揮官之ニ当ル)ス
但シ重要軍事行動終了ニ至ル迄ハ緊急ヲ要スル場合ニハ日本陸軍最高指揮官又ハ日本海軍最高指揮官ニ於テ直接会社ニ対シ命令監督シ得
二、日本陸軍最高指揮官又ハ日本海軍最高指揮官ハ直接会社ニ対シ作戦警備上必要ナル要求ヲナシ且之ニ伴フ監督ヲナシ得
三、前各号ニ依ル場合ニ於テハ会社経営上ニ大ナル支障ヲ来サシメサル如ク考慮ス