昭和16年度物資動員計画ノ策定方針ニ関スル件

昭和16年7月9日 閣議決定

収載資料:国家総動員史 資料編 第1 石川準吉著 国家総動員史刊行会 1975.8 pp.618-621 当館請求記号:AZ-668-5

国際情勢ノ急変ニ依リ外国ニ依存シ来タリタル重要物資ノ取得ヲモ断念セザルヲ得ザル事態ニ到達シツツアリ。
茲ニ於テ昭和十六年度物資動員計画ハ現下ノ複雑機微ナル国際情勢ト限リアル物資自給力ノ状況トニ鑑ミ左記方針ニ基キ之ヲ策定シ以テ国難打開克服ニ邁進シ国運隆盛ノ基礎ヲ確固タラシムルモノトス。
一、供給力策定方針
(一)供給力ハ自給圏(内外地、円ブロック)ト自給圏外トニ区分シ自給圏外ハ更ニ第一補給圏(仏印、泰)第二補給圏(比島、馬来、蘭印及其ノ付近島嶼)及第三補給圏(豪州、ビルマ、印度、北米東岸、北米西岸、南米東岸、南米西岸、阿弗利加)ニ細分ス
(二)物資ハ甲乙ノ二類ニ区分ス
(イ)供給力ノ大半ヲ自給圏及第一補給圏ニ於テ賄ヒ得ル物資ヲ甲類トス
(ロ)供給力ノ大半ヲ第二及第三補給圏ヨリノ輸入ニ仰グ物資ヲ乙類トス
(三)輸入ハ左ノ想定ニ依リ供給力ヲ算定ス
(イ)四-六月ハ年度物資動員計画ヨリ削除ス
(ロ)七-三月ニ於ケル自給圏及第一補給圏期待ノモノハ船腹上物資毎ニ検討調整ス
(ハ)七-九月ニ於ケル自給圏及第一補給圏外期待ノモノハ原則トシテ第二、四半期供給力計画ニ依ルモノノ二分ノ一ヲ計上ス
但シ第三国向配船ノ状況ニ基キ適宜調整ス
(ニ)十-三月ニ於ケル自給圏及第一補給圏外期待ノモノハ原則トシテ第二、四半期供給力計画ニ依ルモノノ一倍ヲ計上ス
但シ左記ニ対シテハ第三国向配船ノ推移ヲモ考慮シ適宜調整ヲ加フ
(1)第二、四半期供給力計画ニ於テ年間量ヲ取得スル如ク計画セルモノ
(2)輸出許可制物資ニ対スルモノ
(3)重要物資ニアラザルモノ
(四)配当総額トナスベキ供給力ハ自給圏及第一補給圏ニ於ケル第二、四半期以降供給力、第二及第三補給圏ニ於ケル第二、四半期供給力並ニ特別輸入在庫ノ一部ヲ加ヘタルモノトス
但シ特別輸入在庫ハ極力使用セザルヲ本旨トス

二、配当策定方針
(一)軍需其ノ他国家焦眉ノ緊急重要部門ニ限リ之ヲ配当ス
(二)生産力ノ拡充部門ニ対スル資材ハ直接軍需ニ関係アル物資ノ生産確保及増強ニ必要ナルモノニ限リ左記ニ依リ配当スルモノトス
(イ)主トシテ第三補給圏ヨリノ原料ニ依ルベキ工場、事業場ノ拡充用ハ原則トシテ之ガ配当ヲ行ハズ
(ロ)主トシテ自給圏及第一、第二補給圏ヨリノ原料ニ依ルベキ工場、事業場ノ拡充ニシテ原料ノ生産及供給見込ニ伴ハザルモノニ対シテハ配当ヲ延期シ該拡充用資材ヲ専ラ自給圏及第一補給圏原料ノ増産ニ振替フ
(ハ)供給力乙類ニ属スル物資ニシテ国産化ニ転換可能ナルモノノ新規拡充用ハ国内ニ於ケル工作技術、工作余力、製造技術、原料、動力及完成期間ノ諸条件ヲ勘案シ之ヲ重点的ニ配当ス
(ニ)前項ニ依リ国産化ニ転換可能ナルモノノ拡充一時延期トナルベキ物資及国産化不可能ナル物資ニ対シテハ消費規正ヲ強化シ在庫保有量ノ急減ヲ防止ス
(ホ)代用化ハ(ハ)項ニ準ジ拡充シ之ガ生産及使用ノ強制ヲ計ル
(ヘ)特ニ重要物資ニシテ自給圏ニ於テ増産可能ナルモノハ極力増産促進ニ努メ且拡充ニ関シ日満支ヲ統制ス
(ト)運転及補修用資材ハ全諸般ノ方針ニ即応シ必要最低限ノ確保ニ努ム
(三)官需ハ軍需及生産力拡充ニ直接関係アルモノニ止メ其ノ他ハ継続事業ト雖モ資材ノ配当ヲ行ハズ
(四)円ブロック需要ハ生産力拡充部門ニ対スル資材配当方針ニ基キ増産ヲ速ニ期待シ得ベキ鉱産物採掘用資材、自給圏内原料ニヨルベキ工場、事業場ノ補修用資材、対日供給物資ノ輸送ニ必要ナル資材、治安維持上不可欠物資ノ最低必要量ニ止メ其ノ他ハ特殊事情アルモノノ外之ヲ削除ス
(五)輸出用物資中国内不足資源ハ極度ニ之ガ輸出ヲ抑制シ且国別輸出計画ハ原則トシテ物資動員計画ト合致セシム
(六)一般民需ニ付テハ戦時国民生活最低限ノ確保特ニ主要食糧、医薬品ノ確保ヲ期スルト共ニ軍需及生産力拡充ニ密接不可分ノ需要ハ之ガ実行上支障ナキ最低限ヲ配当スルモノトス
(七)物資ノ緊迫セル状況ニ鑑ミ軍官民ヲ問ハズ一層不急不用用途ヘノ流用ヲ防止シ物資ヲ有効ニ利用スルタメ速ニ生産及配給ノ合理化ニ努ム

三、前諸項ノ実施ニ依リ緊急用トシテ努メテ国内保留ヲ図ルモノトス
之ガ為貯蔵計画ヲ確立スルト共ニ右保留物資ノ貯蔵及配当計画ハ企画院、陸海軍省、商工省(要スレバ其他関係官庁ヲ加フ)ニ於テ協議検討シ其ノ都度之ヲ決定スルモノトス

附帯決定事項
緊迫セル国際情勢ニ対処スルタメ緊急用トシテ国内保留トスベキ物資ノ貯蔵ヲ有効且計画的ナラシムルタメ政府ハ速ニ貯蔵期間ヲ設立シ保留物資ノ買上、貯蔵ヲナサシメ且生産ノ維持増加ヲ円滑ナラシムルモノトス