南方経済処理ニ関スル件(議会ニ於テ必要アル場合進ンデ説明スル要旨)

昭和17年1月20日 閣議決定

収載資料:国家総動員史 資料編 第8 石川準吉著 国家総動員史刊行会 1979 pp.528-529 当館請求記号:AZ-668-5

現下ノ戦争段階ニ於テ発表ヲ許シマスル程度ニ於テ南方経済処理ニ関シテ説明致シマス
一、対南方経済対策ノ方針ハ重要資源ノ需要ヲ充足シテ当面ノ戦争遂行ニ遺憾ナカラシムルコトヲ主眼トシ併セテ大東亜自給自足体制ヲ確立セントスルコトニ在ル
二、対策ノ対象トスル南方地域ハ頗ル広汎ニ亘ルモ之ヲ先方ノ敵性アル主権ヲ排除シテ差当リ陸海軍ノ占領地行政ヲ行フベキ地域ト泰国ヤ仏印ノ如ク先方ノ我方ニ対スル誠意アル協力ヲ期待シ其ノ自発的協力ニ待ツ地域トニ分チ夫々ニ対スルニ対スル方針ヲ決定シタ
三、陸海軍占領地域ニ於ケル当面ノ施策ノ根本方針ハ
(イ) 資源獲得、特ニ戦争遂行上緊要ナル資源ノ確保
(ロ) 南方資源ノ敵性国家ニ対スル流出阻止
(ハ) 作戦軍ノ現地自活確保
(ニ) 在来企業ノ我方ニ対スル協力誘導
ノ四点ヲ主眼トスルモノデアル
之ガ為
(一) 南方資源ニ付テハ急速開発ヲ要スルモノアリ、我方ノ需要ニ応ジ漸進的ニ開発スベキモノアリ、又過剰生産ノ為開発ヲ抑制スベキモノアル処之等資源ノ開発ノ順位ハ戦局ノ推移ニ応ジ当該資源需要ノ緩急度並ニ輸送ノ状況等ヲ勘案シテ其ノ大綱ヲ中央ニ於テ決定スル。既ニ各種資源取得ノ基準並ニ将来ノ資源取得目標ニ付テモ一応之ヲ決定シ各地域ニ於ケル差当リノ開発施策ノ目標ヲ明ラカニシテヰル。而シテ各地域ニ於テ取得又ハ開発シタル重要物資ハ凡テ物資動員計画ニ組入レ一元的ニ之ガ用途ヲ規制シテ国家的ニ最高度ノ効率ヲ発揮セシムルモノデアル
(二) 石油、鉱産、農林等ノ開発ニ付テハ差当リ新タナル総合会社共同企業等ノ形態ヲ避ケ経験能力アル企業者ノ熱意ト創意トヲ充分ニ発揮セシメテ能率的生産ヲ為サシムルコトヲ原則トシ該企業者ガ真ニ国家ノ代行機関的使命ニ徹底シ衷心ヨリ国家的ニ活動スルコトヲ期待シテイル。重要ナル開発企業ノ担当者ノ決定ニ当リテハ政府ノ適当ト認ムル民間統制団体ノ意見ヲ充分ニ参酌シタル上関係官庁間ノ慎重ナル審議ヲ経テ決定スルコトトシ適任者ノ選定ニ遺憾ナキヲ期スルコトトナツテイル
尚其ノ際現地ニ於テ多年辛苦経営セル邦人企業者ヤ邦人タラザル者ト雖我方ニ協力ノ誠意ヲ示シタル在来ノ企業者ニ付テハ其ノ活用ノ途ガ講ゼラルベキコトハ云フ迄モナイ
(三) 通貨ニ付テハ当初ハ現地通貨標示ノ軍票ヲ使用シ現地通貨ト等価ニ流通セシメ、情勢ニ応ジ逐次現地通貨ト軍票トノ機能ヲ調整シ其ノ統一ニ進ム方針デアル
従ツテ当分ノ間ハ本邦ト現地トノ間ニ特殊ノ場合ヲ除キ原則トシテ資金ノ移動ヲ認メザルコトトスルト共ニ資源開発等ニ要スル資金ハ現地ニ於テ南方開発金庫ヨリ円滑ニ之ヲ融通スルコトトナツテイル
(四) 物資交易ハ主トシテ物資動員計画ニ基キ予メ計画的ニ予定セラレタル品目及数量ニ付行ハレルノデアルガ右ハ戦争ト云フ特殊ナ状態ノ下ニ実施セラレルコトトナルノデ其ノ機構上特殊ノ考慮ガ払ハレテイル。即チ交易ノ実施ニ当リテハ現地ヨリノ対日供給ハ差当リ政府ノ会計ニ於テ買取輸入ヲ為シ、又本邦ヨリノ対現地供給ハ同様ニ買取輸出ヲ為スコトトナルノデアル。固ヨリ交易ノ実際ノ運営ニ付テハ業務遂行ノ円滑及簡易ヲ旨トシ民間商社ノ活動ニ待ツ所アルハ当然ニシテ又政府ハ右輸出入ヲ為スニ際シテ本邦統制機関ヤ現地ニ於ケル輸出入組合等トモ緊密ナル連繋ヲ保持スルコトトナツテイル。尚現地ニ於ケル物資ノ蒐荷及配給ニ付テハ我方ニ協力ノ誠意ヲ示シタル現地商人ヤ華僑等ノ組織ヤ信用ヲモ極力活用スル方針デアル
(五) 南方物資ノ輸送ニ付テハ需要ノ緩急ニ応ジテ輸送ノ順序、数量ガ定メラレ陸海軍ノ統制ノ下ニ船腹ノ最モ有効ナル活用ガ計ラレルコトトナツテイル
(六) 南方地域ニハ護謨、錫、「マニラ」麻、其ノ他幾多ノ特産資源ガアルノデアルガ我方トシテハ此等資源ノ敵性国家ニ対スル流出ヲ極力防止シ米英ニ対シテ資源ニ依ル経済圧迫ヲ実施セネバナラヌ
右南方特産資源ノ世界総産額中ニ於ケル生産割合ハ極メテ高度ノモノデアルカラ之ニ依ル米英ノ打撃ハ蓋シ甚大ナルモノト云ハザルヲ得ナイ
(七) 南方ノ陸海軍占領地域ニ対スル渡航ニ付テハ帝国ヲ核心トスル日満支ノ経済建設ノ急務ナル等ニ鑑ミ此ノ際一般人ニ付テハ差当リ差止ムルコトトナツテイルガ右ハ現状ニ於テハ固ヨリ当然ノコトト云ハネバナラヌ。政府ニ於テハ情勢ノ展開ニ応ジ厳選ノ上再渡航者及必要ト認ムル者ヨリ逐次其ノ進出ヲ計ル方針デアル