昭和19年度交通動員計画策定ニ関スル件

昭和19年5月16日 閣議決定

収載資料:国家総動員史 資料編 第2 石川準吉著 国家総動員史刊行会 1975.8 pp.785-809 当館請求記号:AZ-668-5

第一 一般方針
一、昭和十九年度交通動員計画ハ運輸通信力ノ決戦非常動員ヲ完遂シ、海陸総合運送力ヲ強化シ特ニ隘路ヲ為ス輸送経路ニ付之ガ輸送力ノ極限的増強ヲ図リ以テ軍事上ノ要請ヲ充足スルト共ニ重要戦力物資ノ生産増強並ニ食糧ノ確保増産ニ資セシムベク策定セリ
二、運輸通信力ノ非常動員ニ当リ実施スベキ重要ナル施策左ノ如シ
(1) 海陸総合輸送力ノ徹底的強化
(2) 小運送力ノ重点的整備増強
(3) 港湾運営力ノ強化
(4) 国土防衛及輸送用通信ノ疎通力確保
三、作戦並ニ空襲其ノ他非常事態ニ対処スル輸送及通信ノ機動力ヲ強化スルト共ニ生産、配給ト運送トノ連繋ノ緊密化ヲ図ル
四、本計画ノ実施上必要ナル輸送及通信施設ノ整備ハ本年度早期戦力化ヲ目途トシ果敢ナル推進ヲ図ル
五、本計画ノ完遂ヲ図ル為運輸通信要員ノ整備ニ当リテハ他産業トノ調整ヲ考慮シ重点的ニ之ヲ確保ス
六、本計画実施ノ確保推進ヲ図リ且機ニ投ズル重要施策ノ樹立及調整ヲ行フ為関係機関ハ常時緊密ナル連繋ノ下ニ之ガ具現ニ努ム
之ガ為要スレバ関係機関ノ連絡組織ヲ設クルモノトス
第二 実施方策
一、海陸総合輸送ニ関スル事項
汽船積物資ノ徹底的陸運転移ヲ強行スルト共ニ特ニ鉄道ト木船輸送力トノ総合的利用調整ヲ為シ以テ海陸総合輸送力ノ極限的増強ヲ図ル
之ガ為実施スベキ事項左ノ如シ
(1) 東北貨車航送及木船中継
京浜向北海道炭及其他物資ハ貨車航送並ニ陸奥湾ヲ中心トスル東北木船中継ニ依リ主トシテ之ヲ陸送ニ転移セシム
尚北海道積出港ハ函館港ニ重点ヲ指向スルモ函館本線輸送力ヲ勘案シ室蘭港ヲ総合利用ス
(2) 裏日本中継
北方並ニ大陸物資ノ裏日本中継輸送ハ本計画ヲ遂行スルノ外南鮮中継輸送ノ負担ノ軽減並ニ北方炭ノ輸送増加等ヲ勘案シ極力輸送力ノ増強ニ努ム
(3) 南鮮中継及大陸南方物資ノ中継
南鮮中継ニ依ル大陸物資並ニ支那及南方物資ノ東海及京浜向汽船積輸送ハ主トシテ阪神ニ於テ中継スルモノトシ大船団一貫護衛ニ依ル集中入港等ヲ考慮シ漸次関門、長崎等ニ於ケル陸送転移量ヲ増加セシムル如ク努ム
(4) 関門通過本州向物資ノ輸送
関門陸道経由本州向輸送力ハ九州炭、八幡鋼材其ノ他重要物資ノ輸送ニ充当シ右ノ中九州炭ハ木船輸送力ノ変動ニ鑑ミ年間六五〇万瓲ニ増強ス
右ノ輸送要請ト大陸物資ノ南鮮中継並ニ大陸及南方物資ノ北九州中継等トノ関連ヲ考慮シ苅田港ノ急速整備ニ依リ被曳船輸送ヲ画期的ニ増強シ九州炭ノ増送ヲ図ル
二、海上輸送ニ関スル事項
(1) 昭和十九年度海上輸送力ノ基礎ヲナスベキ左記諸条件ニ関シテハ之ガ確保ヲ期ス
(イ) 甲造船   完遂目標ニ五五万総噸内計画輸送力織込貨物船一三〇万総噸
(ロ) 動力附木造貨物船新造                  四〇万総噸(油槽船ヲ含マズ)
(ハ) 喪失大破  民貨物船ノ喪失大破各月五万総噸以内軍徴傭船腹補填四月二万総噸五月以降各月三万五千総噸以内
(ニ) 沈船引揚                       四万八千総噸
(ホ) 解傭                 七月汽船(貨物船)一〇万総噸
但シ解傭見込無キ場合ハ四、五月ノ損耗ニ対シテハ之ヲ補填セザルコト
(2) 軍徴傭船ト一般船トノ連合輸送ヲ強化ス
(3) 港湾荷役力ノ非常増強、陸運転移ノ徹底的強行並ニ中継基地ヲ中心トスル集積輸送及積替分送ノ強化等ニ依リ極力船舶稼行率ノ向上ヲ図ル
(4) 限定航路就船及要修理船等ヲ利用シ極力増送ニ努ムルト共ニ之ニ即応スル計画出貨ヲ促進ス
(5) 新造船ノ早期稼働ヲ具現スルト共ニ修理ノ促進ヲ図リ以テ輸送力ノ増強ニ資ス
(6) 運送能率増強ニ付之ガ奨励竝ニ監督ヲ強化シ稼行率ノ昂揚ヲ図ル
(7) 船舶用燃料油ニ関シテハ極力確保ヲ図ルト共ニ努メテ之ガ自給ノ措置ヲ講ズ
尚曳船ヲ徹底的ニ動員シ被曳船輸送ヲ画期的ニ増強スルト共ニ燃料油ノ配分ニ当リテハ機帆船ノ性能、輸送物資等ヲ考慮シ重点的且合理的措置ヲ講ズ
(8) 船舶建造ノ飛躍的増強ニ対処シ船員ノ確保、養成ヲ図ルト共ニ之ガ士気ノ昂揚竝ニ処遇ノ向上ヲ期ス
三 鉄道ニ関スル事項
(1) 緊迫セル輸送力ノ現状ニ鑑ミ之ガ最高度活用ヲ図ル為官民協力態勢ヲ全面的ニ強化シ強力ニ左ノ方策ヲ推進ス
(イ) 一般物資ノ徹底的輸送規正
(ロ) 重要ナル旅客ノ輸送確保ヲ図ルト共ニ旅行抑制ノ強化ニ対スル国民ノ協力促進
(ハ) 生産及出貨ニ対スル季節的波動ノ影響
(ニ) 交錯輸送及重複輸送ノ抑止
(ホ) 荷役力及小運送力ノ重点的増強
(2) 計画輸送完遂ニ必要ナル機関車及貨車ノ整備ニ付緊急左ノ措置ヲ講ズ
(イ) 新造輌数ノ増加並ニ落成時期ノ繰上
(ロ) 旅客列車ノ取消ニ依ル貨物用機関車ヘノ転用
(3) 海陸総合輸送ノ強化ニ即応シ主要線区、操車場、連絡航路、水陸連絡施設、発着駅施設等ノ緊急整備ヲ行フ、之ガ為戦力ナル工事体制ノ確立ヲ期スルト共ニ現有施設ノ回収転用ヲ強化ス
(4) 通勤輸送ヲ確保スル為時差通勤ヲ徹底シ通勤時間帯ノ分散ヲ図ルト共ニ労務配置計画等ニ付緊密ナル連繋ノ下ニ所要ノ措置ヲ講ズ
(5) 地方鉄道、軌道ニ於ケル車輌修理能力ノ画期的昂揚ヲ図ルト共ニ国有鉄道ト地方鉄道トノ綜合運営ヲ強化ス
(6) 輸送及工事要員ノ急速ナル確保養成ヲ期スルト共ニ作業能率ノ最高度発揮ヲ図ル為勤労管理ヲ強化ス
四、自動車及小運送ニ関スル事項
(1) 自動車修理能力ノ緊急増強ヲ図ルト共ニ各種運搬具、要員、燃料、飼料等ノ均整アル確保ヲ期ス
(2) 自動車、荷牛馬車其ノ他ノ小運搬具ノ総合運用ヲ強化ス
(3) 輸送統制ヲ強化シ大運送ト小運送トノ総合的計画輸送ヲ徹底ス
(4) 旅客輸送ニ付テハ質的統制ヲ強化スルト共ニ路線ノ整理、強行計画等ノ再編成等ヲ行フ
(5) 自動車要員ノ確保、養成並ニ小運送労務者ノ充足ヲ期スルト共ニ之ガ作業能率ノ昂揚ヲ図ル
五、港湾ニ関スル事項
(1) 船舶護衛並ニ大船舶入港ニ即応スル計画荷役ノ完遂ヲ図ル
(2) 地方行政力ノ結集動員ニ依リ労務者ノ確保及之ガ作業能率向上ニ付港湾荷役力ノ画期的増強ヲ図ル
(3) 陸運転移ノ増大ニ伴ヒ特ニ中継港ニ於ケル陸海荷役作業ノ一体的強化ヲ図ルト共ニ港湾施設ヲ緊急整備シ荷役機構ノ動員転用ヲ急速ニ実施ス
(4) 倉庫、上屋及置場ノ総合的計画使用ヲ実施スルト共ニ貨物引取ノ促進並ニ艀ノ回転率ノ向上及之ガ修理ノ強化ヲ図ルノ外必要アル場合ニ於テハ仮揚ヲ実施ス
六、航空及気象ニ関スル事項
(1) 航空保安施設並ニ気象施設ノ整備拡充ヲ図ルト共ニ作戦ニ即応シ得ル如ク飛行場其ノ他ノ施設ヲ急速整備ス
(2) 航空輸送要員及気象要員ノ確保及之ガ急速ナル養成ヲ図ル
七、通信ニ関スル事項
(1) 国土防衛通信網ノ急速整備ヲ図ル
之ガ為所要ノ設備資材ノ回収転用ヲ徹底強化ス
(2) 重要幹線路ケーブル施設ノ整備ヲ促進スルト共ニ各庁通信設備ノ統合整理及非常無線連絡施設ノ整備ヲ行ヒ非常災害時ニ於ケル各種通信施設ノ総合利用ヲ円滑ナラシム
(3) 輸送用通信ノ緊急整備ヲ行ヒ船舶稼行率ノ向上、大陸中継輸送ノ強化並ニ海陸総合輸送ノ強化ニ資ス
(4) 気象通信、航空通信、海洋通信、電波監視等ノ施設ヲ整備シ通信ノ戦時特殊機能ノ発揮ヲ図ル
(5) 電波統制ノ強化並ニ電波技術ノ急速ナル発展ヲ促進シ戦時電波利用ノ画期的向上ヲ図ル
(6) 枢要国家機構及超重点産業等ニ対シ電信電話ノ優先架設並ニ利用ヲ確保スルト共ニ非重要加入電話ノ動員ヲ実施シ□一般通信利用ノ抑制ニ付特ニ国民ノ積極的協力ヲ促ス
(7) 海外放送施設ヲ拡充シ対敵放送ヲ強化スルト共ニ国内放送機能ノ確保ヲ図ル
(8) 通信機器特ニ真空管等ノ需給調整、生産確保並ニ之ガ技術指導等ノ措置ヲ講ズ
(9) 通信要員ノ確保ヲ期シ特ニ有無線電信要員及技術要員ノ養成施設ヲ補充ス

了解事項
一、本計画ハ情勢ノ変化ニ即応シ所要ノ調整ヲ行フモノトス
二、外地ニ於テ措置スベキ事項ニシテ本計画ニ掲記セザリシモノハ速ニ之ヲ追加ス
三、本計画ニ即応スル交通施設及要員整備計画ハ可及的速ニ之ヲ樹立ス
四、満支及南方地域ニ於ケル港湾荷役力ノ増強並ニ大陸中継輸送ニ関シテハ関係機関ノ緊密ナル連繋ノ下ニ之ガ実施ノ確保ヲ図ル如ク措置スルモノトス

(別冊「昭和十九年度交通動員計画」省略)