緊急事態ニ対処スル生産増強方策大綱

昭和21年2月7日 閣議決定

収載資料:内閣制度百年史 下 内閣制度百年史編纂委員会 内閣官房 1985.12 pp.285-286 当館請求記号:AZ-332-17

方 針
終戦後ニ於ケル産業ハ累積スル諸般ノ障礙ト国家統制ノ反動的弛緩トニ依リ全面的ニ麻痺状態ニ陥リ其ノ生産ハ激減セルト共ニ他方流通部門ノ不均衡ナル膨脹ト相俟チ正ニ破局的様相ヲ呈セントスルニ至レリ、之ヲ徒ラニ産業ノ自主的回復ニ放置センカ遠カラズシテ民生ノ混乱ヲ惹起スルノ虞尠カラズ之ガ打開ノ眼目ハ食糧ト石炭ノ増産ニ存スルヲ以テ当面ノ施策ヲ之ニ集中シ其ノ主要ナル隘路ノ解決ニ努ムルト共ニ之ヲ起点トシテ逐次重要産業ノ振興ヲ図リ均衡アル民需生産ノ再建及民生ノ安定ニ資スル如ク国民ノ理解ト協力ニ基ク所要ノ統制指導ヲ行ヒ以テ事態ノ匡救ヲ期セントス

要 領
一、施策ノ重点ヲ石炭並ニ化学肥料其ノ他食糧増産ニ緊要ナル物資ノ増産ニ指向シ之ガ隘路ヲ為ス主要事項ノ解決ニ付敏速適確ナル処置ヲ講ズ
二、石炭生産ノ増大ニ伴ヒ輸送部門、輸入見返リ物資生産部門及重要衣食住物資生産部門ノ重要ヲ優先的ニ充足スル外之等ノ基礎トナルベキ諸産業ニ対スル配炭ノ増大ヲ図リ以テ生産循環ノ拡大ヲ誘導ス
三、右ニ要スル資材ニ付テハ遊休、偏在乃至隠匿ノ状態ニ在ル資材ノ動員ヲ第一次的ニ強行スル外重要ナル資材ニ付配給ヲ規正シ之ガ重点集中ヲ図ル
四、重要産業ヲ通ジ生産ノ中核トナルベキ者ヲ指定シ之ニ対シ資材、作業用品ノ集中配給ヲ行ヒ且食糧ヲ増配スル等国家ニ於テ生産要素ノ確保ニ付積極的支援ヲ為スト共ニ国家計画ニ基ク生産ノ完遂ヲ期スル如ク之ヲ指導ス
五、重点工場事業場ノ勤労体制ヲ刷新シ併セテ作業運営ヲ合理化スル為労務者及企業家ノ代表ヲ以テ構成スル協議機関ヲ設ケ当該工場事業場ニ於ケル配給物資及福利施設ノ管理、作業計画ト勤労条件トノ調整等ノ事項ニ付公正ナル協議ニ基ク運営ヲ行ハシムルト共ニ右機関ヲ通ジ当該企業ノ適正活発ナル経営ニ対スル労務者ノ意見ヲ積極的ニ反映セシム
六、速ニ健全ナル民需生産ヲ開始セシムル為必要ナル企業ニ付テハ新会社ヲ創立セシメ之ニ所要ノ生産設備ヲ貸与シ又ハ所要ノ事務ヲ委託セシムル等ノ方途ヲ構ゼシムルト共ニ右新会社ニ対シテハ積極的ニ所要資金ノ融通ヲ斡旋ス
七、適正ナル価格水準ニ基キ重要物資ニ付急速且総合的ニ価格ノ改訂ヲ行ヒ以テ産業活動ノ円滑ナル運営ヲ促進スルト共ニ之ガ恪守ニ付全力ヲ傾注ス
八、重要工場事業場ノ生産実施ニ付常ニ現場ノ実情ヲ把握シテ敏活ニ具体的ナル支援ヲ行ハシムル為所要ノ官吏ヲシテ現場ニ挺身セシメ隘路ノ打開ト生産ノ増強ニ協力セシム

措 置
一、前各項ノ目的ヲ達成スル為重要物資ノ生産、配給、価格等ニ付所要ノ統制ヲ実施ス
二、統制ノ発動ニ当リテハ広ク産業界、労働界、消費界ノ代表者及学識経験者等ヲ以テ構成スル委員会ヲ設置シ右委員会ニ於テ其ノ方針及措置ノ大要ヲ審議セシムルト共ニ常ニ其ノ実施ノ状況ヲ監査スル為右委員会ヲ主体トシテ活発ナル行政査察ヲ行ハシム
三、統制ノ実施ニ当リテハ画一的ナル運営ヲ避ケ、企業者ノ創意工夫ヲ助長シ、公正ナル競争ヲ保持シ以テ最大ノ能率ヲ発揮セシムル如ク措置スルト共ニ産業界ヲシテ自治的ニ運営セシムルヲ適当トスル事項ハ原則的ニ民間機関ヲシテ行ハシム
四、統制ニ違反シタルモノニシテ情状特ニ重キモノニ対シテハ資材等ノ配給停止、一定期間ノ営業ノ停止等ノ措置ヲ講ズ
五、本件措置ノ実施ニ必要ナル法制ヲ速ニ整理ス
六、本件措置ト併行シ特ニ民生用物資ノ配給方法ヲ刷新シ消費組織ノ合理化ト相俟チ消費者意見ヲ反映セシムルニ必要ナル方途ヲ講ズ
七、民需生産ノ再開ニ要スル資金ノ供給ニ付テハ必要ナル特殊金融機関ヲ設クルモ差当リ既存金融機関ニ依ル積極的金融ヲ確保スルノ措置ヲ講ズ
八、民需生産ノ増強ニ緊急必要ナル設備ノ建設ニ付テハ産業設備営団ヲ活用スルト共ニ之ガ貸付ヲ受クル企業ノ経理ニ付テハ特別ノ監督措置ヲ講ズ