戦後経済の再建整備に関する件

昭和21年7月26日 閣議決定

収載資料:昭和財政史 終戦から講和まで 第17巻 大蔵省財政史室編 東洋経済新報社 1981 pp.770-773 当館請求記号:DG15-19

課税提案に対する方針に従ひ左の如く措置する。
一、戦後経済再建整備に関する措置の大綱は概ね別紙の要領に依ることとし、これに従ひ内閣審議室(経済安定本部設立後は経済安定本部)中心となり法案、関連施策等を準備し、速に連合国軍総司令部の承認を求め得るやう措置する。
二、労働対策、失業対策、生活援護対策、食糧対策、生産資材対策、産業金融対策、物価対策、賠償対策、経済民主化対策等の関連施策に付ては、速に立案の上政府の方針を定め、総司令部の特段の理解と援助とを懇請して、強力にこれを実施する。
三、本件の措置であって議会に提案を要するものに付ては、原則として一括上提する。但し
(一)課税提案に対する方針決定の時期、総司令部との交渉等に依り、余裕の無い場合には、応急措置のみを上提し、他の部分に付ては特に支障の無い限り審議資料として説明する。
(二)応急措置に付ては、これのみを分割上提する場合たると関連法律を一括して上提する場合たるとを問はず極めて短時日中に両院の協賛を得るやうに努める。

別紙
戦後経済再建整備に関する措置の大綱(昭二一、七、二六)
一、軍需補償等の処理
(一)軍需補償等の処理に付ては、課税提案に対する方針に従ひ、其の細目を決定することとし、特に補償等の性質内容に付慎重に検討する。
(二)打切られることとなる請求権に付ては、既発生のものは戦時補償特別税(仮称)の課税に依り、未発生のものは打切の法律規定の制定に依り、これを処理する。
(三)本措置に関する特別の法律を制定する。
二、再建整備措置実施の為の応急措置
(一)企業(金融機関を除く)の経理に関する応急措置
(1)会社は本措置に関する法律施行の日を以て打切決算を行ひ、新旧に勘定を分離する(但し軍需補償等が打切られても自己資産を以て之を消却し得る会社等に付ては必ずしも本措置を適用しない途を置く。本措置の適用を受ける会社を以下整理会社といふ)。
(2)勘定の分離に当っては、会社の資産中爾後の民需経営に必要なものを新勘定に移管し新勘定はこの移管資産に付旧勘定に対して適当なる利子を負担するものとすると共に、爾後の民需経営に必要でない資産及従来の債務は旧勘定に属せしめるものとする。
(3)従来の債務に関する物上担保権を制限又は消滅せしめ又会社に対する従来の債権の実行を停止せしめる等の措置を講ずる。
(4)新勘定に依って爾後の民需経営を行ふ。
(5)会杜は資産の保全、新勘定に移管すべき資産の決定等の為会社側及債権者側を以て構成する特別管理人会を設ける。
(6)本措置は特殊会社及営団に対してもこれを適用する。
(7)本措置に関する特別の法律を制定する。
(二)金融機関の経理に関する応急措置
(1)金融機関は本措置に関する法律施行の日を以て新勘定、旧勘定を設け資産及負債を区分整理する。
(2)勘定の分離に当っては次のやうにする。
(イ)資産に付ては現金及金融機関に対する金銭債権を新勘定に属せしめる。
(ロ)負債に付ては、先づ現行封鎖預金に付根本方針に従ひ支払を確保せらるべき範囲を確定し、此の範囲の封鎖預金、自由預金等必ず履行を要するものを新勘定に属せしめる。
(ハ)右(イ)及(ロ)以外の資産及負債を旧勘定に属せしめる。
(ニ)新勘定の負債超過は新勘定の旧勘定に対する貸付金、資産超過は借入金として整理し、適当の利息をつける。
(3)従来の債務に関する物上担保権を制限又は消滅せしめ又金融機関に対する従来の債権の実行を停止せしめる等の措置を講ずる。
(4)新勘定に依って爾後の業務を行ふ。
(5)本措置は特殊銀行及金庫に対しても之れを適用する。
(6)本措置に関しては、金融緊急措置令の改正を行ふの外、特別の法律を制定する。
(三)公益法人及個人に関する応急措置
(1)本件に依って影響を受ける公益法人又は個人に付ては、債権者に依る債権の実行を停止せしめ得る等適宜の措置を講ずる。
(2)本措置に関する特別の法律を制定する。
三、再建整備に関する措置
(一)企業(金融機関を除く)の再建整備に関する措置
(1)整理会社の特別管理人会は新旧勘定分離の日現在に於て、旧勘定に付て特別決算を行ひ、その債務超過額(以下特別損失と称す)を確定する。
(2)特別損失の処理に付ては、根本方針の率に従ひ、先づ積立金及評価益を以てこれを消却し、次に払込費本金に及び、最後に外部負債に及ぶ。
(3)整理会社中一定規模以上のもの及所謂制限会社の特別管理人は爾後の再建整備の計画を立案し主務大臣の認可を受けるものとし、会社は認可せられた整備計画に従って再建整備を行はねばならない。
(4)整備計画の認可を受けた整理会社は、他の法令の規定、定款の定め又は既存の契約の条項に拘らずその整備計画を実行することが出来るものとし又その計画の中に決定されてある事項に付ては法令の規定又は定款の定に拘らず株主総会その他の会議を省略することが出来るものとする。
(5)整備計画に掲げるべき重要事項は大要左の通りである。
(イ)存続するか解散するか
(ロ)存続する場合の措置(減資の方針、存続後の事業計画及資金計画)
(ハ)解散する場合の措置(第二会社を設立し又は既存会社の新勘定の資産負債を包括的に譲渡する等)
(ニ)資産の処分方針
(ホ)第二会社を設立する場合にはその事業計画及資金計画
(ヘ)従業者の整理方針
(6)整理は次のやうにして結了する。
(イ)存続する整理会社に付ては、整理完了のとき新旧勘定を合併して単一勘定とする。
(ロ)第二会社を設立し又は既存会社に新勘定の資産負債を包括的に譲渡する整理会社に付ては、譲渡完了のとき新勘定を打切って単一勘定とする。
(ハ)右(ロ)の方法を採ることなく清算、特別清算又は破産の手続に入る整理会社に付ては、整備計画認可の日、清算に入った日、特別清算開始命令の日又は破産宣告の日新旧勘定を合併して単一勘定とする。
(ニ)右(イ)の場合にはそれで整理が結了し、右(ロ)及(ハ)の場合には清算、特別清算又は破産の手続が完了することに依って整理が結了する。
(7)本措置の合理的且民主的な運営を図る為産業再建整備委員会(仮称)を設置し主務大臣が整備計画の認可を行ふ場合等にその審議を経ることとする。
(8)特殊会社及営団に付ては整理手続等に特別の定を要するかも知れぬ。
(9)本措置に関する特別の法律を制定する。
(二)金融機関の再建整備に関する措置
(1)金融機関は旧勘定に属する資産及負債の整理を行ふ為整理担当者を任命する。
(2)金融機関は旧勘定に属する資産及負債の整理計画を樹立し、主務大臣及後述の金融機関整備委員会(仮称)の承認を受ける。
(3)整理の方法は次のやうにする。
(イ)旧勘定に属する資産の整理に依って生じた現金及確定評価額の決定した資産を順次新勘定に移し換へ、新勘定の旧勘定に対する貸を控除整理する。
(ロ)旧勘定に属する資産の全部を新勘定に移し換へるも尚新勘定の旧勘定に対する貸を整理し得ぬ場合には、保証せられる範囲の封鎖預金、自由預金等の支払を確保する措置を講ずる。
(ハ)新勘定の旧勘定に対する貸を整理し終った後尚旧勘定に残余財産がある場合には、残余財産に付て取立てた現金及確定評価額の定まった資産の範囲内に於て、資産と負債とを新勘定に移し換へる。
(ニ)右((ハ)の場合の負債移し換へ順序の定め方に依り、金融機関の損失の処理に付ては、根本方針の率に従ひ、先づ積立金及評価益を以てこれを消却し、次に払込資本金に及び最後に外部負債に及ぶ。
(4)今後の情勢に応じ新勘定に属する資産及負債を譲り受け新に金融機関を設立せしめる。
(5)資産の評価基準の設定其の他金融機関の債権債務の処理等に関する重要事項を処理する為金融機関整備委員会を設ける。
(6)特殊銀行及金庫に付ては整理手続等に特別の定を要するかも知れぬ。
(7)本措置に関する特別の法律を制定する。
(三)公益法人及個人の整理に関する措置
(1)本件に依って影響を受ける公益法人又は個人に対しては当分の間破産の申立をすることを得ないものとする。
(2)債務超過の処理に付ては強制調停の如き措置に依り、支払可能の限度に債務を整理し得る等の措置を講ずる。
(3)本措置に関する特別の法律を制定する。