昭和22年度石炭増産対策

昭和22年4月26日 閣議決定

収載資料:昭和財政史 終戦から講和まで 第17巻 大蔵省財政史室編 東洋経済新報社 1981 pp.323-325 当館請求記号:DG15-19

石炭生産は、昭和二十二年度(自昭和二十二年四月至昭和二十三年三月)において、三、○○○万屯を確保することを目標として、過般来其の達成のための諸施策を逐次講じて来たが、近く選挙後の政局安定と相俟って、更に具体的な増産施策を下記の通り明確にし、炭鉱経営者及び労務者並びに世論の支持によりその施策を最重点的に推進すると共にその実行を確保するため、之と同時に強力且つ徹底した総合的経済統制を断行するものである。尚以上の諸施策の実施に当っては、連合軍総司令部の全幅的な支持と協力を期待すること勿論であるが特に下記の懇請事項についてはその速かな実現を希望する次第である。

甲、現在実施中の事項
一、炭鉱向主食の確保
主食配給に関する現行制度を絶対確保するため、政府配給機関と炭鉱との直結、炭鉱における一定のランニングストックの常置等の措置を確実に実施すること。
二、炭鉱向副食物其他生活必需物資の確保
味噌、醤油、食塩、生鮮食品等の食糧、作業衣、地下足袋、石鹸等の作業用品その他生活用品の所定量を絶対確保するため、生産又は出荷と生産資材等とのリンク制の採用、供給者と各炭鉱又は炭鉱物資共同購入機関との直結を図る等の現行制度を確実に実施すること。
三、炭鉱住宅者の住宅確保
昭和二十二年度炭鉱住宅建設計画は概ね四万戸とし、之に要する資材を確保するため、政府において強力な現場斡旋をする現行制度を更に推進すると共に、必要に応じ運輸建設本部をして住宅の建設に当らせること。
四、炭鉱融資の確保
所要の炭鉱融資額は最優先的に確保すると共に特にその手続を迅速且つ円滑に行うよう措置すること。
五、石炭増産の国民運動を展開
石炭増産の国民運動を起こし、一般産業始め全国民をして石炭増産に対し積極的な支持協力を行わせる措置を更に拡大推進すること。
六、石炭関係の輸送及通信の確保
石炭及炭鉱向資材の輸送確保を更に推進するため要すれは輸送手続上特別の措置をとると共に、石炭関係情報の迅速確実化を期するため、通信施設の改善強化を図ること。

乙、今後実施する事項
一、炭鉱従業者の援護及厚生施設の確立
炭鉱労働の特殊性に鑑み、他産業従業者に対するものの外に、特別な援護及厚生施設を確立すること。
二、炭鉱従業者の労働能率増進及技能向上
炭鉱従業者に対する政府及炭鉱経営者の優遇措置に対応し、従業者全体が自らの責任を重んじて、職場規律の確立を図り、労働能率の増進、技能の向上を期するよう強力な措置を講ずること。
三、炭鉱災害の予防
炭鉱災害を可及的に少なくするため、保安係員養成講習所を設置して係員を再教育すると共に、国家試験を実施すること。尚瓦斯炭塵爆発予防等に関する指導監督を強化すること。
四、炭鉱用資材の確保
炭鉱用資材の確保についても炭鉱従業者住宅用資材と同様の強力な措置を講ずること。
五、坑木の確保
農林省及び地方庁に坑木供出責任機構を確立すると共に、坑木の確保につき強制伐採その他強力な措置を講ずること。
六、炭鉱物資施設協同組合(仮称)の設置
現在の炭鉱物資施設組合は之を廃止し、新たに制限会社以外の炭鉱よりなる協同組合を組織して、之に共同購入を便宜とする炭鉱用物資の確保斡旋事業を営ませること。
尚アウトサイダーである制限会社の必要資材も委託あるときは一括取扱わせること。
七、自作農創設特別措置法及農地調整法実施上の特別措置鉱害地、炭鉱事業予定地及び炭鉱住宅地に対する自作農創設特別措置法による自作農創設及び農地調整法による農地の他目的への転換許可については、石炭増産と農地関係法令の目的達成上遺憾のないように特別の指導措置を講ずること。
八、石炭生産価格の改訂
現在の生産者価格を一日も早く改訂して、炭鉱の増産意欲を増進すると共に、生産能率及品位向上につき一層工夫努力せしめ得るような適正価格を決定する必要あるが一般物価並びに賃銀の統制施策とも関連して目下慎重に研究中であること。
尚右価格の決定に当り、之を先き決めとして将来生産費に己むを得ない増嵩が起ったときは更めて直ちに生産者価格を将来に向って改訂し、赤字補償をしないこととしたいこと。
九、炭鉱設備の整備改善
炭鉱設備荒廃した現状に鑑み、採炭、運搬その他炭鉱機械の修理並びに新設に関する運動を展開すると共に炭車、人車、選炭機等の急速な修理、復旧等を行い併せて炭鉱機械化に関する技術的指導を行うこと。
一〇、石炭の品位向上
石炭の品位向上を図るため、選炭設備の急速な補修を実施し、検炭制度を整備すると共に、他方品位向上に関する運動を展開すること。
一一、鉱区の整理分合及新坑の開発
鉱区の整理分合、新炭田及び炭鉱の調査開発を促進することとし、その実施に当っては三人委員会のような機構を設置してその強力な推進を図ること。
一二、経営形態の改善
急速に増産を図り又は減産を防止するため必要と認めたときは之を国営又は国家管理とすること。但し国営又は国家管理の範囲については目下個々の具体的実情について真摯な検討を加えていること。
一三、石炭行政機構の拡充強化
石炭行政に関する中央及び地方の機構を拡充強化し、之に必要な人員を整備すると共に経費の充実を図ること。
一四、石炭増産用経費の一括計上
石炭増産に要する経費は、予め一括計上しておき、経済安定本部総務長官の承認を受けて随時之を使用出来るよう措置すること。
一五、責任体制の確立
石炭増産諸施策の実施については、適確且つ迅速にその実績を検討して計画の遂行確保を図ると共に、計画と実施とに齟齬を来たす場合に於ては常にその責任の所在を明確にするよう措置すること。

丙、連合軍総司令部への懇請事項
一、進駐軍設営用資材と競合する炭鉱用資材の確保
パイプ、鋳鉄管、セメント等の重要炭鉱用資材について、現在進駐軍設営用としての大量需要のため、その現物化極めて困難であって、増産上多大の支障を来しているから、極力進駐軍用需要を圧縮の上、炭鉱の所要量を一〇〇%確保し得るよう特に措置せられたいこと。
二、不足炭鉱用資材の輸入
坑枠レール、パイプ、油類(特に潤滑油)のような重要炭鉱用資材を国内の供給力極度に不足しているものの速かな輸入を実現せられたいこと。
三、九州発電所の賠償除外
九州地区においては、水力発電能力弱体のため、平時においても電力需給極度に逼迫化し、石炭増産の一大隘路となっている現状であるから、予て賠償指定を受けている戸畑、港及相之浦の三火力発電所は之を賠償対象から除外せられたく、尚、炭鉱の非常保安用自家発電所も之を賠償の対象としないよう保証せられたいこと。
四、休閉鎖工場の機械並びに附帯設備の転用
二月二十七日附ESSマーカット少将非公式メモランダムにより過般来保全管理工場等閉鎖工場の機械並びに附帯設備の調査をなし、その炭鉱への優先転用を図っているが、この場合、転用対象の機械並びに附帯設備については、管理指定から之を除外すると共に、その移設の実施に当っては現地軍が協力するよう措置せられたいこと。
五、炭鉱用資材指定生産工場制の拡充
炭鉱用資材の確実な現物化を図るためには、主要資材につきその主要生産工場を指定して、之に協力官を派遣、常時その生産指導に当らしめる必要があるから、本制度の拡充につき特に支持せられたいこと。
六、制限会社に対する許可手続の迅速化
全炭鉱会社中相当部分を占めている制限会社は、資金関係、鉱区の分合整理関係その他に付各種の制限を受けているため、石炭増産上とかく支障を生じ勝ちであるから、少くともこれら制限会社に関する各種の制限許可申請に対しては、その手続の簡易迅速化につき特段の措置を講ぜられたいこと。

備考
前記各項に関する具体的実施細目等に関する資料については追而提出する。