経済緊急対策に基づく食糧緊急対策(第1次食糧緊急対策)

昭和22年6月30日 閣議決定

収載資料:食糧管理史 V 制度篇 各論(上) 食糧庁食糧管理史編纂室・統計研究会食糧管理史研究会編 統計研究会 1958 pp.110-113・142-148 当館請求記号:611.31-Sy9576s-T

当面の危機をのりきるためさきに発表した経済緊急対策の根本は、国民生活特に国民の勤労の基礎である食糧を確保することにあるが、二十一年産米の供出は、その全国的な完遂を見るに至つていないし、二十二年産の麦および馬鈴薯の収穫は、必ずしも良好でなく、食糧の輸入もまた決して楽観を許さない情勢であつて、今後の食糧需給は主食配給量の節減をも考慮しなければならないほど実に切迫した事情の下にある。
この事態に鑑み、政府はさきに新麦および新馬鈴薯の政府買上価格の改正を改訂物価水準にあわせて決定し、労務加配についても既に勤労を重視して基準を特に維持しながらその合理的な圧縮を一応実施したが、今般つぎのような諸施策を総合して速かに且つ確実に実施することとする。
政府は、農村と都市との協力の下に国民の自主的な努力を期待し、この施策に今後更に各種の対策をあわせ講じて食糧事情が最も悪いと予想せられる消費都市の市民および勤労者の食糧をできるだけ実質的に確保し、分配の公正化を格段に徹底して、国民が窮乏に堪えて、且つ希望ある将来の発展へ前進するための生産活動に支障ないようにあらゆる努力をつくすものとする。
第一 麦および馬鈴薯の供出集荷を早適期に確実に行い、本米穀年度内にできるだけ大量を消費するようにする。
一 肥料のリンクの配給の方法を供出の促進とその完遂とに役立つように改善する。これがために原則として割当の九〇パーセントの供出をした場合に一般基準量の配給をすることとする一方供出を完遂した者に対しては、供出数量に応じ特に厚く配給量を増加する。
二 酒五万石、煙草一五、〇〇〇万本、塩一五、〇〇〇トン、綿布三〇〇万ヤード、地下足袋三〇万点、作業衣二五万着を含む繊維雑貨約二〇〇万点を供出に対し報奨として特配する。
三 報奨物資は、物資の種類により早期供出力と供出完了分とに区別して供出完遂および早適期集荷と報奨との目的に適合せしめる。
四 報奨物資は必要により政府の買上を行う外配分を適切にして敏速確実に配給する。
五 表の脱穀調整用資材を適期に必要量を確保するため万全の措置をする。
第二 農村の食糧弾力性を公正な経路によつて都会地に移し流して食糧の需給逼迫を緩和することに資するため縁故米制度を創設し、臨時短期間特別な米の移動を容認する途をひらく。
一 送出の条件
二十一年産米の供出割当数量の一一〇パーセントを完納した農家が、つぎに掲げる条件に該当する宛先に対し米を贈与する場合に限る。
二 宛先の条件
食糧事情が最も悪いと予想せられる京浜地区、京阪神地区、中京地区および北九州地区の主要都市に居所を有し且つ送出農家の縁故先である住民を宛先とする場合に限る。
右の主要都市は、別に明かにする。
三 送出の期間
送出のできる期間は、七月十日より八月三十一日までとする。
四 輸送の方法
つぎの輸送方法に限ることとし送出農家の選択に委せる。
(一)書留小包便 重量四キログラム以内
(二)小口扱貨物 重量三〇キログラム以内
五 送付の手続
(一)送付農家は、輸送の方法に適するよう送出米を堅固に包装し、これを所属の農業会に持参する。その宛先は、当該受領者の属する食糧営団配給所気付氏名として記載することを要する。
(二)当該農業会は、供出と宛先の条件に適合することを確認した上その証票を添付し、郵便局または最寄駅に託送する。
(三)特に鉄道小口扱貨物の場合は適宜この種荷物の集散所を設け、一定期間ごとに宛先方面別に整理の上仲継輸送する方途を講ずる。
六 受配の手続
(一)食糧営団配給所は、現品が到着したとき直ちにその旨を当該受領者に通知する。
(二)受領者は、右食糧営団配給所に米穀配給通帳を提示し荷物を開封秤量の上本制度の許容期間を通じ一人当り一〇キログラムの範囲内で受領数量の記入を受け現品を受領する。
内容物が米以外の主食であつた場合は、正規の手続によつて押収せられる。右の受領数量が、受領当時に当該世帯に対し配給を必要とする数量を超える場合は、その超過部分について一般配給を停止せられる。
七 政府米による立替輸送
輸送の簡易化を図るため、政府米の手持状況など県の主食事項により可能な場合に、食糧事務所において立替輸送の方法を講ずることとし、この場合の諸手続は別に速かに決定する。
八 手数料の徴収
受領者は、荷渡しその他配給事務処理費用として現品を受領するとき、別に定める手数料を当該食糧営団配給所に支払う。
九 その他
(一)食糧管理法関係法規を改正するとともに、郵便、運輸関係告示などに所要の措置を講じこの制度による実行を適法ならしめる。
(二)なお縁故米の送出は、送出農家が、自家保有米の一部を割いて縁故先に贈与するのであるから、これに伴つて農家配給の増加または農家配給の開始時期の繰上げなどによる補填は、いかなる形においても行なわないこととしその旨を周知徹底させる。
第三 食糧の配給操作が、今後特に敏速且つ合理的に行はれることを要するから、輸入食糧の殺到と麦及び馬鈴薯の出荷との調整を図り、その輸送及び加工を最も計画的且つ能率的に行う。
一 中央及び主要輸入港所在地において夫々輸送関係機関より成る協力機構を整備し海陸一体となり計画的且つ機動的に輸送力を確保する。
二 中央協力機構は、できるだけ早期に港別、船別に輸送機関別、仕向先別の輸送計画を決定し出先協力機構をして計画輸送を遂行させる。
又特に横浜については、機構を強化して関係機関の責任担当者を常駐せしめ、極力その責任において敏速に仕向先の決定、配車及び配給の実施をすることができるようにする。
三 機帆船輸送については、食糧管理局のチャーター船制を拡大強化しこれに必要な重油を確保する。
四 内麦について特に早期加工を徹底するため、生産者の庭先から直接製粉、精麦工場へ搬入することを励行しこれに要する小運送用飼料を麦類加工の際生ずる副産物から優先確保する。
五 麦類及び玉蜀黍については、真にやむを得ない場合の外は必ず加工の上配給して国民食生活の合理的な確保に努める。
六 各種製粉設備を最高度に利用できるよう必要な資材を速かに確保する。
第四 主食の遅配をできる限りくいとめることに全力を傾注するが、配分の公平を期し消費地域間における遅配の平均化を行い、生産者、消費間の消費の公平化をはかる。
一 輸入食糧その他政府操作食糧の放出払下げを適切にして消費地における配給の公平化を計画的に行う。
二 情況に応じて農家に対しても特別措置を行い、都市及び農村の乏しきを分ちあう体制を整える。
三 配給の公平化のため行う中央の措置については、都道府県知事の特段の協力により確実な実施を期する。
第五 消費大都市においては、当面の主食の遅配を回復することが困難な上に主食内容に変化がある事態に対処して、鮮魚介の配給を資材の確保などの措置を講じて更に確実に励行する外重点的に加工水産物、蔬菜、味噌、醤油及び塩の現在における実行配給量を増加し且つ国産缶詰の放出を行い配給食糧総体としての栄養量を保持することに努め、これを契機として将来における合理的な食糧構成による総合栄養配給に備える。
又今後当分の間は、粉食化を必然とする傾向に対応して加工調整の合理化を普及徹底する措置を講ずる。
増加する食品は、主食の配給状況に照応して機動的にこれを配給する。
増配後の配給量の目標は、概ね、つぎのような基準とする。
一 鮮魚介
七月から十月まで三日に一人当り
京浜地区、中京地区及び京阪神地区   三五匁
二 加工水産物
七月から十月まで一カ月一人当り
京浜地区、中京地区及び京阪神地区   九〇匁(鮮魚換算二七〇匁)
農村を含むその他の地域        三〇匁(鮮魚換算九〇匁)
三 蔬菜
京浜地区、中京地区、京阪神地区、北九州地区及び広島、呉両市
七月は三カ日に一人当り       六〇匁
八月から十月まで二カ日に一人当り  六〇匁
四 味噌
七月から十月まで一カ月一人当り
京浜地区及び中京地区       一〇〇匁
京浜地区             六五匁
五 醤油
七月から十月まで一カ月一人当り
京浜地区及び中京地区       二合七勺
京阪神地区            三合七勺
六 国産缶詰
七月から十月までに総量約一、〇〇〇万ポンドを重点的に特配する。
七 塩
七月から十月まで一カ月一人当り
京浜地区及中京地区         三〇〇グラム
京阪神地区             二七五グラム
その他の都市            二五〇グラム
なお、さきに決定せられた炭鉱向け各種食糧品の特配については、特にその確保を期する。
第六 第五による加工水産物、蔬菜、味噌、醤油の増加配給を可能ならしめるため、速かに緊急特別増産及び集出荷の確保上必要な特別措置を行い、このために必要な資材などの確保を確実に実施する。
一 加工水産物
(一)加工水産物の集出荷目標を六月から十月までの間に約五百万貫とする。
(二)加工水産物の供給を確保するため、加工水産物の生産者に対しては原料魚の公認出荷機関を通ずる割当制を実施するとともに、割当られた原料魚の生産者に対しては、一般鮮魚介のリンク率によつて重油のリンク配給を行う。
(三)加工水産物の生産に必要な資材を確保し、その資材のリンク配給により加工水産物の集荷を確実に行うとともに、輸送の重点的計画的な実施により出荷の円滑化を図る。
二 蔬菜
(一)特産地を再興育成してさし当り大消費都市向け蔬菜の増産を行うこととし、このため特産地に対して肥料及び農薬の先渡しによる特配を行い且つ右特産地と大消費都市の関係者間に特約栽培を行はせる。
右措置を実施するため、さし当り京浜地区、中京地区、京阪神地区向けのものについて硫安一、〇〇〇トン及び農薬一〇〇トンの特配を行う。
(二)大消費都市などに対する出荷を計画的に確保するため、肥料(一ヵ月硫安五〇〇トン以上)を出荷にリンクして配給する。
三、味噌
六大都市向けの供給を確保するため、原料大豆などの優先割当を行うとともに、増量用馬鈴薯の増配を行う。
四、醤油
六大都市向け供給のものの藷味を補充するため、主として県外出荷をする生産者に対してコプラミール、醤麦及び国内産脱脂大豆などを優先割当する。
第七 乳児食糧の最低必要量の確保を図るため、つぎのような牛乳及び乳製品の供給確保並びに育児食の特別計画生産を行う。
一 人工及び混合栄養児に対する乳児食糧の現行配給量は、平均して一人一日当り牛乳換算一合五勺であるが、八月以降においては、これを二合五勺に引き上げ配給する。
二 飼料の供給力を合理的、計画的に増加することに努める一方、牛乳の年間生産目標を九〇万石として、速かに乳牛に対する飼料の優先割当を行うとともに、麦類約一四九、〇〇〇石に相当するものを特別に確保してこれを原料牛乳及び大消費都市向け飲用牛乳の出荷とリンクして配分する。
三 牛乳の不足を補填するため、優良な育児食の年産約一、三六〇万ボンド(牛乳換算約一九万石)の緊急計画生産を行い、大豆、小麦、砂糖などの原料資材を確保する。
四 各乳児食糧の総合配給を適正に実施する。
第八 食糧の正常な配給を確保して横流れを絶滅するため現行制度を刷新して、消費者に奉仕する理念に徹し、独占の弊を避けた新たな流通秩序を確保する。
一 食品(味噌、醤油、煉粉乳、育児食、缶詰など)
油糧、酒類及び飼料については夫々配給公団法案を第一回国会に提出しその速かな設立を期し、厳正且つ徹底した統制を行う。
二 加工水産物について速かに指定配給物資配給手続規程に基づく割当切符制度を整備実施することとし、臨時物資需給調整法に基づいて加工水産物配給規則を制定するとともに、鮮魚介の場合に準じた輸送統制の方法を採用する。
(一)農林大臣又は都道府県知事が指定した生産地域における集荷機関は、所定の最低責任数量を完遂する能力を有する生産者団体などであることを要するが、その数は限定しない。
(二)集荷機関は、農林大臣又は都道府県知事の出荷先別数量に関する指示に従つて出荷しなければならない。
(三)消費地域における荷受機関は、所定の最低集荷責任量を完遂する能力のあるものでなければならないが、その数は限定しない。
(四)荷受機関の荷受した加工水産物の分荷に関する指図は、都道府県知事がこれを行う。
(五)末端の小売店舗の選定に当つては、消費者の意向を忠実に反映する方法を講ずる。
(六)消費者は、都道府県知事の発給する加工水産物の購入票と引換えに購入の予約をした公認小売店舗で購入することができる。
(七)従来の自由販売店舗はこれを廃する。
三 蔬菜について速かに割当切符制度を整備強化し、青果物配給規則を制定するとともに輸送統制を強化する。
(一)大消費都市などに対する蔬菜の計画出荷を行はせるため、農林大臣の定める中央計画に従い都道府県知事は、出荷機関に対して月刊、品目別の出荷を指示することとし、その責任の所在を明かにさせて、特に大消費都市におげる蔬菜の確保をはかる。
(二)出荷団体及び荷受機関は、一定の資格基準に適合したものでなければならないが、その数は限定しない。
(三)一般消費者に対する配給は、一定数以上の消費者の購入希望により選定せられた登録小売店舗をして行はせるものとする。登録は一定期間ごとに更新する。登録小売店舗の選定は、購入希望を都道府県知事又はその指定する地方公共団体に届け出させてこれを行う。
(四)輸送の確保のため、左の措置を講ずる。
1 大消費都市などの公認荷受機関に必要なトラックを専用させ、近在物の確実な集荷に資する。
大消費都市内における配給の均分化と輸送の円滑を図るため、適当な機関を設置してこれに専用トラックを配属させる。
2 大消費都市などにおいては、近在物を運んで来たトラックに対し輸送数量に応じた燃油(一ヵ月約一六六キロリットル)のリンク配給を行う。
3 主要産地よりの青果物の輸送については、必要に応じて都道府県知事の発給する輸送証明がなければ輸送できないこととし、輸送の統制を行う。
四 乳児食糧については、食品配給公団の運営と末端における割当切符制度とを速かに実施して必要な配給秩序を整備する。
第九 都会地における家庭農園による食糧の自給増産を一層徹底させるため、つぎの措置を講ずる。
一 東京都を始め六大都市などにおいて戦災跡地、宅地その他の空荒地をできるだけ広く活用して、個人又は協同による自給農園を拡充強化する。
二 作物の種苗を廉価に購入できるよう政府及び都市で協力斡旋する。
三 自給農園に関する企画及び実施上の措置は、当該都市が行う。
四 都市は趣旨の普及徹底に大いに努力するとともに、学校職員その他専門知識のある者を動員して適確な技術指導をするよう措置する。
五 必要がある場合は生徒、学童などに作物休暇又夏期休暇の繰上げ及び延長を与え増産に寄与せしめることとする。
六 土地の使用の簡便化に関しては速かに別途必要な法的措置を講じ、この措置の恒久化をはかる。
第十 以上の施策の適確な実施を期するため、農林省に関係庁及び関係団体の協力を得て食糧緊急対策本部を設置するとともにその実施の推進及び監査に当るため、経済安定本部内に所要の機関を設ける。