今後に於ける昭和23年度の租税収入確保対策

昭和23年12月7日 閣議決定

収載資料:昭和財政史 終戦から講和まで 第17巻 大蔵省財政史室編 東洋経済新報社 1981 pp.1133-1134 当館請求記号:DG15-19

本年度租税及び印紙収入は、当初予算額二、六七七億円の処、今回の補正予算において更に四八七億円が追加計上されることとなり合計三、一六四億円の巨額に達することとなるが尋常の方法ではこの予算額の達成は、到底困難といわなければならない。
そもそも政府は昨年度の徴税経過に鑑み、本年度に於ては当初より租税収入の適時円滑な確保を図るため納税宣伝の強力な展開、数次に亘る滞納特別整理計画の実施等により、租税収入の早期確保に努める一方、国税査察官制度の新設、財務局税務署の増設等、税務機構を整備強化して極力インフレ利得の捕捉に努め、国民負担を公正化すべく努力して来たのである。
しかし乍ら本年十月末現在租税及び印紙収入の実績は一、〇二三億円で、収入歩合は予算額に対し三二・三%(当初予算に対し三八・二%)となり前年同期の二四・二一%に比し稍々改善されたとはいえ、尚低調を示して居り、特に租税収入の大宗たる申告納税分所得税について見れば、僅に二四四億円(収入歩合、予算額に対し二〇%、当初予算額に対し二二%)を収入し得たにすぎない。政府はすでに十月及び十一月に於て、農業所得の早期申告を指導勧奨し、農業以外の事業所得に対しては更正決定を行う等、所得税の早期収入確保に努めているのであるが、納税者側における相当の資金難、一部の者等による反税運動潜行の実情等に照しその徴収は容易ならぬものがあるのであり、今後における本年度租税及び印紙収入予算額の確保については非常な困難が予想されるのである。
しかしながらインフレーションを収束して速かに経済の安定を図ることは我国現在の最大の課題であり、これが第一要件たる健全財政を堅持するためには、いかなる困難を排除しても本年度租税及び印紙収入の予算額を確保しなげればならない。
これがため当面の税務行政としては、
(一)申告納税分所得税の課税の適正化及び徴収の促進
(二)法人税の課税の充実及び徴収の促進
(三)取引高税の印紙交付の励行徹底及び課税の充実
(四)酒類密造の取締
(五)各種租税の滞納の一掃
等に主力を集中して重点的に運営推進する必要があるのでその円滑な進捗を図るため必要な凡ゆる措置を講ずることとし、特に左記各項を急速に実施するものとする。

一、財政の均衡保持、特に租税収入確保の重要性を国民に理解せしめ、国民の自主的納税を促すため、納税宣伝を更に強力に実施し、国会その他各方面との緊密な連絡の下に、一大納税国民運動を展開する。
二、納税者の実態把握による課税の適正化に努めるとともに、地方公共団体、健全な経済団体等の積極的協力を得て、税務行政の円滑な運営を図る。
三、仮更正仮決定に伴う審査請求その他に対しては懇切迅速に処理すると共に、調査を一層充実徹底して更に確定的な更正決定を強力に実施し、税収の確保及び国民負担の適正化を図る。
四、納税督励を頻繁に実施して早期収入を図る一方、滞納特別整理計画を樹て特に強力に滞納の一掃を図る。
五、国税査察官制度の活発な運営により、インフレ利得の徹底的捕捉に努めると共に、検察庁及び警察方面との連絡を緊密にして、脱税者及び悪質な反税運動を徹底的に取締る。
六、税務職員の執務能率の急速な向上に資するため、税務職員中国税査察官並に間税監視、直税検査及び滞納処分に従事する官吏については、一定期間を限り職務執行上の所要熱量補填のため必要な推置を講ずる。なお、税務職員の特殊性に鑑みその福利厚生施設及び自転車等の機動力を整備強化する。
七、以上各項の実施に必要な経費の外、税務の適正円滑な遂行に必要な経費、特に旅費、通信費、備品消耗品費、印刷費等は、予算上優先的に之を確保する。