経済安定9原則の実施に伴う物価政策の方針

昭和24年4月5日 閣議決定

収載資料:経済安定本部戦後経済政策資料 第17巻 総合研究開発機構(NIRA)戦後経済政策資料研究会 1995.1 pp.72-79 当館請求記号:DC55-E831

第一 基本方針
経済安定九原則及び企業三原則の趣旨に則り、物価を可及的に低い水準において安定せしめることを以て基本方針とする。

第二 具体的措置
一、為替レート設定に伴う措置
(1)為替レート設定に際しては、輸入物資中食糧その他特定の重要基礎物資に対し、昭和二十四年度において一般会計より総額八三三億円の輸入補助金を支出することとし、国内物価に及ぼす影響を可及的に緩和する措置を講ずる。
(2)輸入補給金を交付しない輸入物資の払下価格はレート換算価格とする。なお、為替レート設定迄、暫定的にその払下価格を改訂する。
(3)輸入品及びこれと同種の国産品の国内公定価格については
(イ)輸入補給金を全額交付する物資は原則として現行公定価格に据置く。
(ロ)輸入補給金の全部又は一部を支給しない物資については当該物資の(a)輸入数値と国内産量、(b)輸入価格と国産価格、(c)重要度(d)需給状況(e)価格統制技術上難易等を勘案し、次の区分によりその価格を定め又は廃止する。
(a)レート換算価格を基準とする公定価格を定める。
(b)現行公定価格に据置く。
(c)輸入品と国産品とをプールした価格を公定価格とする。
(d)輸入品についてはレート換算価格を基準とする公定価格を定め、国産品の価格は現行公定価格に据置き、二本建価格とする。
(e)以上の何れにも属しない新調整価格を定める。
(f)公定価格を廃止する。
(4)輸出品の輸出価格は為替レート設定を期として、自由価格とする。為替レート設定に伴い輸出困難となる輸出品に対しても輸出補給金は支給しない。
(5)輸出品と同種の生産品の国内公定価格については
(イ)現行公定価格がレート換算価格より低いものは原則として現行公定価格に据置くが、特に重要物資の生産及び生計費に重大な影響を及ぼさないものは、これをレート換算価格に近ずけるか又はその価格統制の廃止を考慮する。
(ロ)現行公定価格がレート換算価格よりも高いものは漸次公定価格をレート換算価格に近ずける。
二、重要基礎物資に対する措置
重要基礎物資等については操業度の上昇その他によるコストの引下げを見込み、その生産者価格は極力これを引下げるよう努めると共にその消費者価格は特定のものを除き原則として現行公定価格に据置き、その差額に対して価格調整補給金を支出する。
三、その他の物資に対する措置
(1)輸入補給金を交付しない輸入原材料物資の値上りその他の事由に基く価格の引上は真に必要已むを得ないものに限る。この場合においてもその影響は、各生産段階における操業度の向上、企業努力その他企業合理化により極力これを吸収せしめることとし、高次製品の段階においては価格引上とならないよう努力する。
(2)需給バランス、操業度等の諸條件が著しく改善向上する物資等については積極的に価格の引下げを行う。
四、価格形成方式
(1)鉱工業品の価格形成に当っては、従来通り原価計算を基礎とする。ただし
(イ)原価計算の実施に当っては従来の方式に再検討を加え、原単位の改善操業度の上昇、企業努力、集中生産、企業合理化等を適正に見込むこととする。
なお、企業三原則により賃金の上昇に因る価格の改訂は行わない。
(ロ)原価計算の結果算出された価格についても、需給関係及び物資の重要度等を勘案して総合的再検討を加えてこれを調整し、特に効用に応ずる適正な価格を設定するよう努める。
(ハ)なお鉱工業品の価格につき、従業個別価格又は集団価格を採っていたものは成可くこれを集団価格又は単一価格に改めるよう考慮する。
(2)農産物等の価格については、従来通りパリテイ計算方式による。但し、その基礎資料等については再検討を加えることとする。なお米及び麦については我国農業の特殊性及び現在の供出制度に鑑み従前通り調整措置を講ずる。
五、価格調整補給金に関する措置
(1)価格調整補給金については国際価格の現状及び国内物価水準との関係を考慮し、従来の支出種目に再検討を加え、これを削減すると共に操業度の上昇等によるコストの低下を見込み補給金単価の減額に努め、昭和二十四年度分として総額一〇〇二億円を予算に計上する。
(2)価格調整補給金支出産業については常にその実績を検討し、極力価格調整補給金の節減を図る。
六、価格統制の簡素強力化に関する措置
価格統制の励行確保に一段の努力を傾けると共に、生計費及び重要物資、生産に影響の少ない物資等の価格統制にしてその実益の乏しいものはこれを廃止する。