昭和31年度予算編成の基本方針

昭和30年12月25日 閣議決定

収載資料:資料戦後二十年史 2 経済 有沢広巳・稲葉修三編 日本評論社 1966 pp.280-281 当館請求記号:210.76-Si569

最近における国内経済情勢は、経済健全化政策の堅実な進展によって、漸次、経済正常化の方向が推進せられつつあり安定した基調のもとに、経済の拡大発展がみられるが、世界経済の動向等にかんがみれば、今後も経済健全化の基調を堅持し、インフレを避けつつ、経済の自立発展をはかることが必要である。
昭和31年度は以上の方針に則り、かつ、今回政府が策定した経済自立5カ年計画の初年度として、とくに生産基盤の強化、輸出の振興、雇用の促進等をはかるものとして、この目標を着実に達成するように財政金融政策の円滑なる運用を期するものとする。
昭和31年度予算はこれがため、通貨価値の安定、国、地方を通ずる健全財政の堅持、財政と金融の総合一体化の原則のもとに、地方財政の根本的再建を中心とし、当面とくに緊要なる諸施策を重点的かつ効果的に実行することを基本方針として、左記により編成する。

1.収支の均衡確保と税制の調整
公債を発行しない前提のもとに、租税その他普通歳入の確保に特段の努力を払うことにより、一般会計の歳入総額を最大限1兆300億円と見込み、その範囲内において重点的効率的に政府の重要施策を推進する。
税制については、給与所得の税負担は他の所得に比してとくに重いと認められるので、この際、間接税の一部の増徴、退職給与引当金制度の改正等により財源を調達して、給与所得控除の引上げを行い、これにより勤労者の税負担を軽減する。さらに昭和32年度を期して税制の根本的改正を行う。
なお特別会計および政府関係機関についても経費の重点的効率的使用等により収支の均衡を確保し、その運営の健全化をはかる。
2.地方財政の再建
地方財政についてはその根本的健全化をはかり、今後赤字の発生を見ざるよう根本的な施策を講ずる。これがため
(1)各種委員会の改廃、部局の整理等、機構の簡素化をはかる。
(2)地方公務員の定員および給与の適正化をはかる。
(3)各種の補助金等については、とくにその地方負担の増嵩が地方財政窮状の原因となっていることにかんがみ、その整理合理化、受益者負担制度の拡充等により地方負担の軽減をはかる。
(4)公債費の累増を抑制するため、起債の漸減等所要の措置を講ずる。
(5)財源偏在の是正、各種非課税規定の整理その他自主的財源の強化等につとめるとともに、なお収支の不均衡を生ずる場合には、国において所要の調整を行う。
3.財政金融の総合一体化
金融正常化の方向に沿い、財政投融資と民間資金との総合的活用により、経済自立に必要な資金を重点的に確保する。これがため
(1)財政投融資の原資をおおむね2450億円と予定し、質的補完の役割に重点をおき、市中金融に依存し難い部分に集中的に投下する。
(2)財政投融資の原資の減少と金融正常化の情勢にかんがみ、重点産業、公社、特定道路整備、住宅建設、北海道開発等の資金についてはできる限り民間資金の活用にまつ。
4.重要施策
(1)貿易の振興、産業基盤の強化
産業の近代化、合理化をさらに推進し、産業基盤を強化するとともに、輸出入銀行の資金を充実し、経済外交の強化と相まち、国際通商の改善をはかり、海外市場の開拓等貿易の振興を期する。
(2)失業対策の充実および民生の安定
失業対策に特段の措置を講じ、社会保障関係費の充実をはかるとともに、道路および住宅対策を継続強化する。
(3)新農村の建設、中小企業の振興
農山漁民、とくに青年の自主的活動を基調として、立地に応じ、土地条件の整備、経営の多角化、技術の改良、共同施設の充実等農山漁村の振興に必要な総合対策を強力に推進する。中小企業の共同組織力を強化し、設備の近代化、金融の円滑化等をはかる。
(4)文教および科学技術の振興
教育制度の根本的改革をはかるため調査機関を設けるとともに、教科書制度の改革等の文教の刷新充実をはかり、科学技術振興に特段の措置を講じ、とくに原子力の平和的利用研究を促進する。
(5)経済外交の推進
外交機構の充実をはかるとともに、対外債務問題の適正なる解決を期し、経済外交を推進する。