新長期経済計画について

昭和32年12月17日 閣議決定

収載資料:内閣制度百年史 下 内閣制度百年史編纂委員会 内閣官房 1985.12 pp.348-350 当館請求記号:AZ-332-17

第一部 総説
I 計画策定の意義
この計画は五年後における望ましい日本経済の姿をえがき、それに到達するために果さねばならぬ政府、企業、国民の努力に目標と手がかりとを提供するものである。国によって計画性の濃淡に差はあるが、将来の経済についての構想や計画をたてて政策の指針とすることは現代の世界各国における一般的な要請となっている。わが国の場合はとくに以下に述べるようないくつかの事情から、経済計画の作成に重要な意義が見出される。
その第一は雇用面からの要請である。今後五年間のわが国人口の増加は年平均○・八%で、そのすう勢は過去の日本の実績にくらべてもかなり低く、また国際的にみても低い水準にあるが、満一五歳以上五九歳以下のいわゆる生産年齢人口は年平均一・九%という高い率で増加する。このような新規労働力の吸収にあわせて、現在農業や中小企業の中に潜在する相当多数の不完全就業者を漸次正常な雇用に吸収するためには、経済の成長率を極力引上げ、経済規模の拡大によって雇用機会の増加をはからねばならない。生産年齢人口の増加率は昭和四〇年以降顕著に低下することが予想されるので、その後においてはかなり急速な雇用状態の改善が期待され、やがては西欧的な完全雇用に到達することも可能とみられるが、それまでの期間においてとくに経済成長率引上げのためにあらゆる努力を傾けなければならない。このような努力に具体的な手がかりを与えるためには、将来の日本経済の総合的な構図をえがき、望ましい成長率達成の上に解決を要する問題点を明かにする必要がある。
第二には基礎部門の計画的拡充の必要性である。すでに過去においても経験されたように経済規模の拡大にともない輸送力やエネルギー等経済活動の基礎となる部門に隘路が生じ、経済発展の障害となるおそれがある。これから基礎部門は元来長期の計画に従って設備の拡充を進めてゆくべきものであって隘路を生じてから短期にそれを解決しようとしても間に合わない。これらの基礎部門にどの程度の投資と設備拡充をなすべきかを判断するためにも、将来の経済全般についての構図をえがいてみることが必要となる。
第三の要請は景気変動の防止である。経済の動きを自然の流れにまかせておけば景気の変動はさけがたく、好況と不況の波よって倒産や失業がくりかえされ、社会的経済的に大きな摩擦と損失を生ずることは過去において幾度か経験されたところである。このような景気変動の幅をできる限り小さくして、経済の着実な発展を可能とするためには、将来に向って経済の望ましい安定的な成長の姿をえがき、経済の行きすぎや下りすぎを調整するための手がかりとする必要がある。
以上にあげた問題のほか、国民の食生活の動向について長期的な変化のすう勢を明かにし、これに対応する農業生産のあり方について今後の指針を与えることも長期経済計画の重要な役割の一つである。また技術革新と生産の拡大に対応する科学技術者の計画的養成や、大企業と中小企業との間に存在するひらきを次第に縮めてゆくことや、社会保障の諸施策を充実して貧困と病苦の軽減をはかることなども長期の経済計画との関連のもとに対策を樹立すべき事項である。
政府は長期経済計画作成の必要性を認め、さきに昭和三〇年一二月「経済自立五カ年計画」を作成公表したのであるが、この計画の経済成長率の選定が低きにすぎ、また不況から好況に向う景気上昇も加わって、その後二年間におけるわが国経済の拡大テンポは計画に想定された成長率を大幅に上まわり、計画にあげられた目標のかなりの部分がすでに到達されるにいたった。しかも経済拡大の行きすぎは国際収支の不均衡を招来し、急激な引締め政策を必要ならしめた。このような事情にもとずき、経済の安定的成長のための新たな指針を必要とするにいたり、今回、新長期経済計画を策定することとなったのである。
(以下項目のみ掲載)
II 計画の課題
III 計画の性格
IV 計画の実現の方策
第二部 計画の内容
I 計画の目標
II 経済成長率
III 最終年度の経済規模とその構造
IV 資本蓄積の推進と財政の役割り
V 輸出の伸長と国際収支の改善
VI 産業構造の高度化
VII エネルギー供給の確保
VIII 中小企業の育成強化
IX 食糧構成の変化と農水産業の発展
X 輸送力の増強
XI 資源の開発確保と国土保全
XII 科学技術の振興
XIII 雇用の増大と就業構造の近代化
XIV 生活水準の向上と民生の安定