水質汚濁防止対策要綱

昭和33年9月9日 閣議了解

収載資料:通商産業関係法令集 公害編 3-2 通商産業大臣官房文書課 東洋法規 1971.10現在 pp.510-512 当館請求記号:328.519-N683t

条文
近年における都市人口の増大、鉱工業の発展にもかかわらず、都市下水道の整備が著しく立ち遅れ、工場事業場においても汚水処理施設の整備に欠けるところがある等のため、河川、海面等の水質は、年々汚濁され各種の問題が随所に発生するにいたつている。
よつて、政府としては、単に、目前の紛争のみとらわれることなく、国土保全の見地から、水質汚濁防止のための方策を進め、差し当り、河川等の水質がこれ以上に汚濁されることを防止するとともに、更に長期的な計画の下にその積極的な改善を図ることとし、これがため、下水道の整備と併行して以下述べるような諸施策を講ずることとする。
一 水質許容基準について
1 新たに「水質汚濁の規制に関する法律(仮称)」を制定し、これに基き各水域ごとに下水道、工場事業場等からの放流水について水質許容基準を設定する。
2 右の水質許容基準に基き、下水道については下水道法により、鉱業については鉱山保安法によりその放流水の規制を行なうものとするが、このほか、新たに「工業汚水等の処理に関する法律(仮称)」を制定して、鉱業以上の工場事業場の放流水についても、それが水質許容基準に適合しない場合には、汚水処理施設の整備等必要な措置を講ぜしめうることとする。
3 放流水の水質許容基準は、流水(湖沼、海面を含む。)自体の汚濁度の目標を想定して定めるものであるから、流水自体が、その目標に比し、更に汚濁する場合には、水質許容基準そのものについて再検討を加えるものとする。
4 水質許容基準を設定するに当つては、流水の汚濁度の現実の実態から出発し、下水道の敷設計画、施設整備の経済性等をも考慮し、可及的すみやかな期間内に問題のある河川等にすべて基準を設定し終ることを目途として作業を進め、事後、実施の状況をも勘案して更にこれが改善を図るものとする。
5 工場事業場等の放流水の水質が水質許容基準に適合している場合においても、その放流水により被害が生じたときは、工場事業場等は、民事上の責任を免かれることはできないものとする。
6 汚水は、地下水を汚濁し、水道源としての利用を阻害する方法で地下に浸透させてはならないこととする。
二 工場事業場に対する規制及び指導の措置について
1「工業汚水等の処理に関する法律」には左の事項を規定することとする。
(イ) 特定施設(汚水等を排水するに至る工場事業場施設をいう。)の設置若しくは変更の工事をしようとする者は、事前に主務大臣に届け出ることとし、その届出に係る工場事業場の放流水の水質が水質許容基準に適合しないときは、主務大臣が汚水処理施設の設置若しくは変更、又は特定施設の設置若しくは変更の工事の中止若しくは変更を命ずることができるものとすること。
(ロ) 法律施行の際、現に特定施設を設置し、又はその設置若しくは変更の工事を行なつている者は、それを主務大臣に届け出でるものとし、その工場事業場の放流水の水質が水質許容基準に適合しないときは、主務大臣がまず特定施設の使用の一時停止、汚水処理施設の設置又は変更その他の措置をとるべき旨を勧告し、その勧告に従なわない者に対しては、主務大臣は、期限を定めてこれらの措置をとるべきことを命ずることができるものとすること。
(ハ) 右の届出をした者は、届出に係る工場事業場の放流水の水質を測定し、その結果を記録しておかなければならないこととすること。
(ニ) 主務大臣の権限は、必要に応じ、都道府県知事に委任することとすること。
2 なお、水質許容基準の設定の以前においても、法施行後すみやかに、各主務省は、工場事業場の放流水の状況、汚水処理施設の内容等に関する調査の結果に基き、各工場事業場に対し、通常設置すべき汚水処理施設を整備せしめるための行政指導を積極的に開始するものとする。
三 紛争処理について
1 工場事業場等の放流水の水質に関する紛争に関し、当事者からの申出がある場合は、都道府県知事がそのあらかじめ用意する仲介員候補者名簿のうちから指命する仲介員により紛争の和解の仲介を行なわしめることができるよう途を開くこととする。この場合、紛争が二以上の都府県にわたるときは、申出をうけた都道府県知事が関係都道府県知事と協議のうえ、仲介員を指名しうることとする。
2 右のほか、水質に関する紛争については、民事調停法による民事調停により処理するものとする。
四 行政機構について
1 水質汚濁防止に関する諸施策の実施に当つては、関係各省の責任分担を明確にし、その行政機能の総力を活用するものとする。これがため、下水道法、鉱山保安法、「工業汚水等の処理に関する法律」の対象となる下水道及び工場事業場からの汚水等の放流の取締の責任は、すべてこれらの法律の主務大臣が負うものとし、河川等の主務大臣は、工場事業場に対して直接その権限を発動することはしないが、河川等の立場から所要の措置について関係大臣に意見を述べることとする。
2 水質許容基準の設定と水質汚濁防止に関し関係各省の行う行政の大綱に関する総合調整及び技術的判断に関する各省意見の調整は、経済企画庁がこれを行なうこととし、これがため同庁に水質審議会を附置するとともに、技術的スタッフの充実整備を行なうこととする。
3 なお、水質に関する各種の試験研究は、各省さん下の試験研究所に分属して行なわれているので、今後水質汚濁防止に関する行政の推移に即応し、科学技術庁がこれら試験研究の調整を強化し、来年度予算とも関連して慎重な検討を行うものとする。