国際収支改善対策

昭和36年9月26日 閣議了解

収載資料:資料戦後二十年史 2 経済 有沢広巳・稲葉修三編 日本評論社 1966 pp.335-336 当館請求記号:210.76-Si569

最近におけるわが国経済は、高度の成長をとげ、国民生活水準の向上、雇用面の改善、産業の近代化など顕著な成果を収めている。しかしながら、一面その成長のテンポが予想以上に急速なため、国際収支が悪化を来たしている。
国際収支の均衡を回復し、政府の所期する速度で経済の成長を達成していくためには、投資、消費の各面にわたって、政府自ら措置できる施策は卒先して行なうとともに、産業界、金融界の自主的規制や国民の自発的協力を期待しなければならない。
よって、既に実施中の金融引き締め、設備投資抑制、輸入担保率の引き上げ、輸出振興策等の一連の措置のほか、次のごとき各種の施策を講ずることとする。その実施に当っては一律的抑制はつとめて避け、貿易自由化及び輸出振興のため緊急を要する合理化投資、中小企業へのしわよせ防止等については、周到な配慮を加えることとする。
なお、本措置は臨時的なものであり、事態の好転に応じ再検討するものとする。
1.輸出の振興
(1)税制面の措置
(イ)輸出所得控除制度につき、その簡素化のため控除額算定基準を所得基準に一本化する。
(ロ)輸出産業面に対する特別償却制度を検討する。
(2)輸出短期金融の優遇の強化
(イ)為替銀行が融資した輸出貿手につき、日本銀行の優遇措置を強化する。
(ロ)輸出貿手について、メーカーが確実に輸出前貸資金の優遇を受けうるよう改善を図る。
(ハ)日本銀行が市中銀行の貸出わくの査定を行なうに当っては、日本輪出入銀行協調融資の円滑化を図る等輸出金融について優先的配慮を行なう。
(3)プラント類、農産物及び技能輸出の促進
日本輸出入銀行資金源の確保(さしあたり出資80億円、融資120億円の追加)を図るとともに、農産物及び技能の輸出の促進を図る。
(4)輸出保険制度の改善
保険金の支払その他業務運営の能率化を促進するとともに、現行保険料率の引き下げ(さしあたり3割程度)及び担保範囲の拡大を図る。
(5)輸出取引の増大についての行政指導
貿易商社、貿易関連生産業者に対して最近における国内、国外取り引きの実績の報告を求める等の方法により、輸出取り引き比率低下の実態につき各業界の認識を深めることとし、今後の輸出取り引きの割合の増加改善につき努力を要請する。
(6)経済外交の強化と海外市場の開拓
経済外交を強化するとともに、米国に対し域外調達の買付制限を緩和するよう要請するほか、海外市場開拓に役立つ諸般の助成措置を講ずる。
(7)貿易外収支の改善
邦船積取比率の低下の防止、観光収入の増大等貿易外収支の改善に役立つ諸般の措置を講ずる。
2.財政面の施策
内需抑制措置の一環として、財政面において次の措置を講ずる。
(1)一般会計、特別会計及び政府関係機関を通じ、官庁営繕系統工事については、新規着工の抑制、工事施工期間の調整等の措置を講じ、原則としてその経費の10%を繰り延べる。
(2)財政投融資及び公共事業費等についても、その一部を繰り延べる。
(3)上記(1)及び(2)の措置について、関係各省と大蔵省との間で10月10日までに実施計画を作成する。
(4)地方公共団体に対しても、上記の趣旨に沿い積極的に協力することを要請する。
3.金融面の施策
従来講じて来た各種の金融引き締め政策の効果と今後における各般の情勢を勘案しつつ、産業面の行政指導の強化等と相まって、金融引き締め強化する。
4.投資面の施策
(1)各企業に対し、生産に直結しない工事の新規着工を繰り延べるとともに、その継続工事についても極力その工事テンポを遅らせるよう勧告する。また、生産に直結する工事ならびに産業関連施設及び研究施設の建設工事の実行についても、緊要度を考慮しつつ極力繰り延べるよう行政指導を強力に行なう。
(2)特にビル建築については、不急投資抑制の見地から、関係官庁で構成する建築投資等調整委員会を設け、緊急と認められない一定規模以上のビル建築について、建築規模の縮少又は施工の延期を勧告するとともに、これに対する融資を抑制するよう大蔵省において金融機関に対し行政指導を行なう。
(3)設備投資のための農地の転用許可についても、上記(1)及び(2)の趣旨に沿って運用するよう配慮する。
5.中小企業への配慮
中小企業の輸出振興に資するため、中小企業金融公庫、商工組合中央金庫等の輸出産業に対する貸出の増強、中小の商社、メーカー等に対する輸出金融円滑化の措置等を一層強化する。また、金融引き締めに伴う中小企業へのしわよせを極力防止し、特に年末における資金の需要に対処するため、国民金融公庫、中小企業金融公庫及び商工組合中央金庫に対する財政投融資の追加の措置を早急に実施する。
6。消費の抑制等
(1)消費節約と貯蓄奨励=最近の消費の実情は行き過ぎの感をまぬがれないので、この際、社用消費を含む消費一般の節約につき国民の関心を強く喚起するとともに、貯蓄増強のための国民運動を推進する。
(2)国産品愛用と輸出振興のための国民運動=輸入品の消費を節約するため、舶来品偏重の弊風を打破し、国産品愛用についての国民運動を展開する。特に官公需については、国産品使用の趣旨を徹底させる。また、輸出マインド高揚のため、関係民間団体との協力の下に輸出振興国民運動を展開する。
(3)海外渡航の自粛=国際収支の現状にかんがみ、緊急を要しない海外渡航の自粛を要請する。