富貴の花・牡丹
牡丹は中国原産の花です。『全唐詩』巻26で「あまねく花を看るも、此の花に勝るものなし」と絶賛しているように、隋から唐時代にかけて牡丹を愛玩することが流行しました。「花王」と呼ばれた牡丹は、李白が玄宗皇帝と楊貴妃のロマンを牡丹にたとえ、白楽天も『白氏文集 巻2』で都をあげて花が咲くのを待ったと記しています。
唐の時代に牡丹は熱狂的に愛玩され、宋に入っても愛され続けました。特に黄色の「姚黄」と呼ばれる牡丹は、中国では五行思想により最も高貴な色の花として尊ばれました。
日本には奈良時代に薬木として中国から渡来しました。平安時代に宮廷や寺院で観賞用に栽培され、深見草、二十日草と呼ばれました。『和名類聚鈔』の中に牡丹の名が記され、『枕草子』の143段には牡丹についての記載があります。

江戸時代になると鑑賞や栽培は庶民に広がり、特に元禄から宝永(1688~1711)に流行し、牡丹の専門書まで出版されました。この時期に刊行された園芸書『花壇地錦抄』には、300種以上の牡丹が掲載されています。



園芸ブームの中で、牡丹は多くの人々に鑑賞されました。錦絵にもその様子が描かれています。





また、牡丹は富貴の花として、幸運・繁栄・名誉の象徴ともされ、着物や工芸デザインにも用いられました。



様々に描かれた美しい牡丹の姿をお楽しみください。




参考文献
- 徳川美術館編『王者の華牡丹:名古屋開府四〇〇年徳川美術館・蓬左文庫開館七十五周年記念春季特別展』徳川美術館 2010【KB16-J699】
- 西山松之助『西山松之助著作集 第8巻(花と日本文化)』オンデマンド版 吉川弘文館 2013【K97-L9】
- ジェーン・イースト著、ジョージア・レーン撮影、倉重祐二監修、ダコスタ吉村花子訳『暮らしを彩る美しい牡丹と芍薬』グラフィック社 2021【RB197-M10】