<中国語>『新たな発展戦略 : 国内の大循環を主体とし、国内と国際の2つの循環を相互に促進する』:アジア情報室の社会科学分野の新着資料紹介(2022年2月公開)

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アジア情報室 作成

王昌林 著『新发展格局 : 国内大循环为主体国内国际双循环相互促进(新たな発展戦略 : 国内の大循環を主体とし、国内と国際の2つの循環を相互に促進する)』北京 : 中信出版集团, 2021.1, 7, 314 p 【DC157-C729

キーワード

中国経済、制度改革、双循環

編集者・著者

著者の王昌林は、政府系シンクタンク中国マクロ経済研究院[1]の院長であり、中国社会科学院大学の博士課程の指導教官も務めている。本書は、王昌林が率いる同研究院の研究者が中心となって執筆したものである。

出版の背景・目的[2]

米中貿易戦争や新型コロナウイルス感染症の流行により、世界のグローバル化の流れが逆回転しはじめ、中国ではこれを「百年に一度の局面の大きな変化[3]」と呼称している。「双循環[4]」は、この背景下で打ち出されたスローガンである。このスローガンで提唱される戦略を具体化し、制度改革をはじめ、政策面で提言することが本書の出版目的である。

本書のポイント

本書において、「双循環」の提起は、中国の発展方式が改革開放初期の委託加工貿易、WTO加盟後の輸出主導経済など国外依存型経済から大きく転換することを意味するとされている[5]。中国は日本にとって最大の輸出先、輸入元[6]であると同時に、近年では、安全保障貿易管理において懸念される対象となっている[7]。著者が代表を務める政府系シンクタンクによる政策提言は一定の影響力を持つと思われ、今後の中国の経済環境の変化を予想するのに本書は役に立つ。

目次

推薦の序 新たな発展戦略を構築するカギは改革の深化にあり 
第1章 「双循環」の新たな発展戦略の構築を加速する:理論ロジック、発展条件と主な力点
第2章 「双循環」の新たな発展戦略が打ち出された時代背景
第3章 「双循環」の新たな発展戦略の内なるロジックと主な方向
第4章 供給側の構造改革を深化させ、供給と需要の循環を円滑化する
第5章 質の高い所得分配体制を作り、国民経済の分配を整える
第6章 現代的な交通と物流体制を作り、流通を整える
第7章 国内の大規模統一市場の完成を急ぎ、市場の循環を円滑化する
第8章 地域重要戦略の実施をさらに推進し、都市-農村の地域内循環を円滑化する
第9章 ハイレベルな対外開放を推進し、新たな発展戦略の構築に強い後押しを提供する
後記

関連する国立国会図書館刊行物収載の文献

廣瀬淳哉「デジタル時代の半導体産業と各国の政策―経済安全保障の観点を含めた考察―」『レファレンス』No.849, 2021.9
https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_11723354_po_084902.pdf?contentNo=1

(アジア情報課 中山 正義)


[1] 中国マクロ経済研究院(中国宏观经济研究院)は、1995年に設立された、国家発展改革委員会に直属するシンクタンクであり、マクロ経済の政策決定や国家発展改革委員会の業務などに対し助言を行っている。

[2] 本書の推薦の序より。

[3] 百年未有之大変局

[4] 不安定な国際経済に依存せず、中国国内で生産、分配、流通、消費の自立したサイクルを作り出す(国内の大循環)。一方、国際経済とのリンクを断ち切るのではなく、むしろ対外的により開放することにより、国内の循環と両立させる(国内と国際の2つの循環)。安定した国内環境を用いて、不安定な国際経済において主導権を握ることを目指す。

[5] 本書第2章より

[6] ジェトロ「2020年の日中貿易、日本の貿易に占める対中比率は過去最高に」
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2021/114272012ce2ba22.html外部サイト

[7] ジェトロ「中国の安全保障貿易管理に関する制度情報 専門家による政策解説(2021年8月)」
https://www.jetro.go.jp/world/reports/2021/01/e92a59e82865d470.html外部サイト