<中国語>『政府部門間の協力における行動論理:メカニズム、動機と戦略』:アジア情報室の社会科学分野の新着資料紹介(2023年1月公開)

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アジア情報室 作成

刘新萍 著『政府部门间合作的行动逻辑 : 机制、动机与策略(政府部門間の協力における行動論理:メカニズム、動機と戦略)』 上海 : 復旦大學出版社, 2021.3, 5, 305 p【AC9-321-C100

キーワード

中国、政府機構、組織連携、組織的関係論

著者情報[1]

本書著者の劉新萍は、現在は中国・上海理工大学管理学院の副教授を務めるほか、中国・復旦大学DMG(Digital & Mobile Governance)ラボ[2]の執行副主任も兼任している。主な研究分野は政府データのオープン化、複数部門間でのデータ共有と協働、シェアリングエコノミー、ソーシャルメディア、デジタル公共サービスである。

出版の背景・目的[3]

政府が直面する政策課題は複雑多様であり、単一の政府組織・部門のみでの解決が難しいものもしばしば含まれる。このような状況下で重要となるのが、複数部門間の協力である。中国では、地方政府間の競争・協力、中央政府と地方政府との利益関係については研究の蓄積がある一方で、中央・地方政府内部の部門間協力に焦点を当てた研究は比較的少ない状況にある。これらの事情を背景とし、本書では「政府部門間の協力における行動論理」の分析が行われている。

本書のポイント

中央政府・地方政府間のような「タテ」の協力関係では、命令や権威による強制力が働くことが多いものの、政府内の各部門という、同じレベルにある組織同士による「ヨコ」の協力関係では異なる状況がみられるのではないか。本書ではこのような仮定に基づき、「ヨコ」の協力関係に焦点を当てた分析を行っている[4]。本書の特徴として挙げられるのは、組織的関係論に関する分析フレームワーク(資源依存理論、ゲーム理論等)を活用し、中国の政府機構における具体的協力例を分析していることである。中央政府の部門間、単一の地方政府内の部門間、複数の地方政府間という3つの異なった協力パターンを切り口として、食品安全管理や大気汚染防止といった課題をめぐる協力関係を取り上げている。本書を通じ、中国の政府機構への知見を深めることが出来るだけでなく、年来「縦割り行政」の弊害打破が課題となっている日本の政府機構について考える際の示唆も得られるように思われる。

目次

第1章 緒論
 第1節 部門間協力はなぜ重要か
 第2節 部門間協力とは何か
 第3節 研究レビュー
 第4節 本書の理論的基礎と研究デザイン
第2章 部門間協力のメカニズムの歴史的変遷と種類
 第1節 部門間関係の歴史的変遷
 第2節 部門間協力の組織的ルート
 第3節 部門間協力の技術的ルート
第3章 部門間協力の制度的空間と影響要因
 第1節 部門間協力の制度・ルール
 第2節 部門間協力の影響要因と作用メカニズム
第4章 部門間協力の動機
 第1節 部門間協力における資源交換、利益均衡と責任共有
 第2節 資源交換領域における部門間協力
 第3節 利益均衡領域における部門間協力
第5章 部門間協力の戦略的選択
 第1節 部門間協力における行動主体
 第2節 部門間協力における戦略の組合せ
 第3節 同一政府内の部門間協力:部門横断的な食品安全規制問題を例に
 第4節 行政区域を越えた部門間協力:長江デルタの大気汚染防止における協力を例に
第6章 結論
 第1節 部門間協力の論理
 第2節 部門間協力のメカニズムの違いと適用性
 第3節 政府の部門間協力の最適化と発展
参考文献

関連する国立国会図書館刊行物収載の文献

原田光隆「行政機関における情報連携をめぐる議論」『調査と情報』No.1196(2022.6)
https://dl.ndl.go.jp/pid/12297726
福田健志「市町村の広域連携 : 連携中枢都市圏構想・定住自立圏構想を中心に」『調査と情報』No.1127(2021.1)
https://dl.ndl.go.jp/pid/11606190
遠藤真弘「諸外国における環境行政組織の再編 : イギリス、ドイツ、フランス」『レファレンス』No.817(2019.2)
https://dl.ndl.go.jp/pid/11242224

(アジア情報課 木下 雅弘)


[1] 「刘新萍」復旦大学DMGラボ
http://www.dmg.fudan.edu.cn/?p=396外部サイト

[2] 2010年6月に設立された組織であり、デジタル時代の政府が直面する機会・課題に関する学術研究等を行っている。詳細は以下のウェブページ(中国語)に詳しい。
「DMG简介」復旦大学DMGラボ
http://www.dmg.fudan.edu.cn/?p=20外部サイト

[3] 本書「内容提要」及び「第1章 緒論」の記載による。

[4] 本書p.43の記載による。