EU(欧州連合)-EU法の立法過程

ここでは、EU法の立法過程及びその過程にある法案や関連資料の調べ方を紹介します。なお、【】内は当館請求記号です。

1. EU法とは

1-1. EU法の種類

EU法は、一次法、二次法、判例等に分けることができますが、ここでは主に二次法を対象にしています。EU法の種類の概要は、「EU(欧州連合):EU法について」のページをご覧ください。

1-2. 関係機関と立法

法案の内容により異なりますが、EU法の立法に際しては、欧州委員会(European Commission)が提出した法案を、欧州連合理事会(Council of the European Union、以下EU理事会)と欧州議会(European Parliament)[1]が審議して採択するのが一般的です。また、一部の法案では、補佐機関である経済社会評議会(Economic and Social Committee)及び地域委員会(Committee of the Regions)との協議が必要な場合もあります[2]。各機関の概要は「EU(欧州連合):欧州連合について」のページをご覧ください。

2. EU法の立法過程と調べ方

以下では、具体的にEU法の立法過程とその調べ方を説明します。

2-1. 法案の提出

EU法の法案は、原則として欧州委員会のみが提出できます[3]。欧州委員会は法案を決定すると、EU理事会と欧州議会に提出します。

2-1-1. Com documents final

Com documentsとは、欧州委員会が提出したドキュメントで、多くは法案説明文書(背景及び概説説明資料(explanatory memoranda)と法案(proposals)で構成)です。Com documents finalには刊行年度ごとに通し番号(COM(2003)92finalなど)が付けられています。
Com documentsについては「EU(欧州連合):ドキュメント・パブリケーション」のページをご覧ください。

2-1-2. 調べ方

Com documents finalは、以下のデータベースで検索して見ることができます。

  • EUR-Lex外部サイト(European Union)
    EUR-Lex内にあるPreparatory documents外部サイトでは、1960年以降のCom documents finalを刊行年度やドキュメント番号から検索して見ることができます。また、EUR-LexのAdvanced search外部サイトにおいてCollectionのプルダウンからLawmaking procedures、又はPreparatory documentsを選ぶことで、より詳細に、タイトル等のキーワード等からも検索することができます。
  • Register of Commission Documents外部サイト(European Commission)
    欧州委員会のドキュメントのデータベースです。2001年以降のCom documents finalを、刊行年度やドキュメント番号、タイトル等で検索して見ることができます。検索結果にはEUR-Lexでの検索結果へのリンクもあります。
  • Legislative Observatory外部サイト(European Parliament)
    欧州議会のドキュメントのデータベースです。Com documents finalをタイトル等で検索して見ることができます。

また、以下の紙媒体等の資料からCom documents finalを探すことができます。

2-2. 立法手続

EU法の立法手続には、通常立法手続と特別立法手続があります。通常立法手続では、欧州委員会が提出した法案をEU理事会と欧州議会が共同で採択します。一方、特別立法手続では、欧州議会の関与が同意(若しくは拒否)又は勧告的意見にとどまります。

2-2-1. 通常立法手続

EU法の立法手続では、多くの場合、通常立法手続が用いられます。通常立法手続では、「三読会制」が採られています。以下では通常立法手続の流れについて説明します。「図1:通常立法手続の流れ[PDF File:133KB]」とあわせてご覧ください。
(1)第一読会
欧州委員会がEU理事会と欧州議会に法案を提出すると、欧州議会で「第一読会」が開かれ、立場(position。「承認」、「修正」、「拒否」の三種類がある)が採択されます。それを受け、EU理事会は欧州議会の立場を承認するか否かを決定します。欧州議会が「承認」又は「修正」の立場を採択し、EU理事会が当該立場を承認した場合、そこで法案が成立します[4]
(2)第二読会
EU理事会が欧州議会の立場を承認しない場合、EU理事会は第一読会における自己の立場を採択して欧州議会に伝えます。欧州議会は「第二読会」を開き、EU理事会の立場を承認するか否かを決定します。
欧州議会がEU理事会の立場を承認する場合、又は決定を行わない場合は法案が成立します[5]。一方、欧州議会がEU理事会の立場を否決した場合、法案は成立しません。
欧州議会がEU理事会の立場に対して修正を提案した場合、同修正案はEU理事会及び欧州委員会に送付され、EU理事会は3か月以内に決定を行います[6]。EU理事会が欧州議会の修正案をすべて承認した場合、その修正のとおりに法案が成立します。
(3)第三読会
一方、EU理事会が欧州議会の修正案をすべて承認しなかった場合、6週間以内にEU理事会及び欧州議会の代表から成る調停委員会が招集されます。同委員会が招集から6週間以内に共同案を作成、承認し、かつ両機関の承認により共同案が採択された場合、法案が成立します[7]

2-2-2. 特別立法手続

特別立法手続には、さらに諮問手続と同意手続があります。以下では、これらの手続の流れについて説明します。「図2:特別立法手続の流れ[PDF File:127KB]」とあわせてご覧ください。
(1)諮問手続
欧州委員会がEU理事会と欧州議会に法案を提出すると、EU理事会は欧州議会に諮問します。欧州議会は「賛成」、「反対」、「修正」のいずれかの立場を採択します。ただし、欧州議会が表明した立場に法的拘束力はありません。EU理事会は「可決」、「修正のうえ可決」、「否決」のいずれかの決定を行い、可決により法案が成立します。
(2)同意手続
欧州委員会がEU理事会と欧州議会に法案を提出すると、EU理事会は「賛成」、「修正」、「反対」のいずれかの立場を採択します。それを受けて、欧州議会は、EU理事会の立場に「賛成」か「反対」のいずれかの立場を採択します[8]。EU理事会の立場が「賛成」又は「修正」で、欧州議会がEU理事会の立場に「賛成」した場合、法案は成立します[9]

2-2-3. 調べ方

通常立法手続及び特別立法手続の過程で作成されたドキュメントは、当該ドキュメントを作成した機関のデータベースで検索して見ることができます。各機関のドキュメントの検索方法については「EU(欧州連合):ドキュメント・パブリケーション」をご覧ください。
また、欧州議会の意見等、立法過程で出されたドキュメントの多くは、EU官報(C)に掲載されます。EU官報(C)については「EU(欧州連合):法令資料」のページをご覧ください。
なお、特に以下のデータベースでは、審議経過の一覧が提示され、各審議段階で作成されたドキュメントをまとめて検索でき、便利です。

  • EUR-Lex外部サイト(再掲)
    EUR-Lex内にあるPreparatory documents外部サイトでCom documents finalを検索して、検索結果より"Procedure"のページを表示します。同ページでは、当該法案の審議経過の一覧が提示され、各審議段階で出された関連ドキュメントへのリンクが掲載されています。
    また、Advanced search外部サイトにおいてCollectionのプルダウンからLawmaking procedures、又はPreparatory documentsを選び当該法案を検索すると、同様のページが表示されます。ここでは、当該法案の一連の審議過程で作成されたドキュメントに共通して付される"Procedure reference"(2003/0037(COD)など)より検索することもできます。
  • Register of Commission Documents外部サイト(再掲)
    Com documents final(2001年~)を検索すると、上記のEUR-Lexでの当該法案の検索結果へのリンクがあり、審議経過等を掲載した"Procedure"のページを見ることができます。
  • Legislative Observatory外部サイト(再掲)
    欧州議会から出されたドキュメントのほか、欧州委員会、EU理事会をはじめ各機関のドキュメントを検索することができます。また、ドキュメントを検索すると、当該ドキュメントが関係する法案の一連の審議経過や各審議段階で出されたドキュメントへのリンク等が表示されます。また、Procedure referenceで検索しても同様の結果が表示されます。

また、「EU(欧州連合):ドキュメント・パブリケーション」には掲載されていませんが、EU理事会が作成したドキュメントは以下のデータベースで検索することができます。

  • Search in the register外部サイト(European Council)
    EU理事会のドキュメントのデータベースです。上記3つのデータベースのように他の機関で作成されたドキュメントも含めて、各審議段階で出されたドキュメントをまとめて表示することはできませんが、EU理事会が作成したドキュメントは検索して見ることができます。ドキュメント番号のほか、Procedure referenceでも検索することができます。

2-3. 公布

採択された法案はEU官報Lシリーズ(EU官報(L))で公表されます。法案に発効日の定めがない場合には公表後20日目に効力が生ずることになっています。
EU官報(L)は、以下のデータベース又は紙媒体の資料で見ることができます。

3. 法案に関する情報

法案について調べたい場合は、次のサイトを参照することができます。

  • European Parliamentary Research Service Blog外部サイト(European Parliamentary Research Service)
    欧州議会調査局のウェブサイト。同局が作成したEUの重要な政策課題に関する調査報告書がアップロードされています。調査報告書の中には法案を扱ったものもあり、背景、概要、関係団体の反応、審議状況等がまとめられています。右上にサイト内検索用の窓があります。
  • European Parliament Think Tank外部サイト(European Parliament)
    欧州議会ウェブサイト内のページで、同議会の様々な政策課題に関する調査報告書をアップロードしています。上記の欧州議会調査局以外の報告書も含み、検索ページ外部サイトから報告書の種類、政策分野、発表期間等で絞った検索を行うことが可能です。

4. 参考資料

EU法の立法過程を調べる際の参考資料は、「EU(欧州連合):EU法について」をご覧ください。


[1]欧州議会は、リスボン条約によりEU理事会と共同で立法権限を行使できるようになりました。
[2]ただし、両機関の意見に法的拘束力はありません。
[3]EU理事会や欧州議会は、欧州委員会に法案を提出するよう要請することはできますが、提出するか否かは欧州委員会の裁量です。
[4]欧州議会が「修正」の意見を出し、EU理事会がこれを承認した場合、欧州議会の修正のとおり法案が成立します。また、欧州議会が「拒否」の意見を出し、EU理事会がこれを承認した場合、法案は成立しません。
[5]この場合、EU理事会の立場に沿った形で法案が成立します。
[6]ここで、欧州委員会が否定的意見を表明した修正案に対しては、EU理事会は全会一致により決定を行わなくてはなりません。
[7]なお、同委員会が招集から6週間以内に共同案を承認しない場合、法案は成立しません。また、同委員会が共同案を承認したものの、どちらか一方の機関が承認せず共同案が採択されなかった場合も法案は成立しません。
[8]ただし、EU理事会の立場に修正を求めることはできません。
[9]EU理事会が「反対」の場合、又はEU理事会が「賛成」若しくは「修正」でも欧州議会がEU理事会の立場に「反対」した場合、法案は成立しません。