西洋哲学の原典を探すには

西洋哲学の原典を探す際に役に立つツールや探し方を紹介します。
ここでいう原典とは、翻訳ではなく原語で書かれた著作(≒本ページでは西洋哲学を扱うため洋書)のことを指します。
原語で書かれているか日本語訳で書かれているかを問わず、ある文章の一節からその文章が収録されている原典を探す方法を本ページでは紹介します。

調べたい文章の著者名などの情報が一部でも判明している場合は「1-1.」「1-2.」を、手がかりが無い場合は「2-1.」「2-2.」をご参照ください。

哲学・思想分野の邦訳書を探したい場合には、リサーチ・ナビ「古典哲学の現代語訳・書き下し文を探す」、哲学・思想分野に関する日本語の研究書・研究論文を探したい場合にはリサーチ・ナビ「哲学・思想に関する文献を探すには(主題書誌)」が参考になります。

書誌事項末尾の【 】内は当館請求記号です。

1. 調べたい文章の情報が一部判明している場合

1-1. 全集・著作集から調べる

調べたい文章の著者が判明している場合、その著者の全集や著作集の各巻の巻末や最終巻・別巻などに掲載されている事項索引から、調べたい文章に出てくる哲学用語を調べることで出典が分かる場合があります。
また全集や著作集の場合、底本が記載されている場合が多いため、そこから原典に当たることができます。
邦訳から原典を調べる場合は、訳者によって訳語や表現が異なる場合がある点に注意が必要です。

<例>ソクラテスが「驚きこそが哲学の始まりだ」と言っていると聞いた。その出典を知りたい。

  • 田中美知太郎,藤沢令夫 編『プラトン全集 別巻』(岩波書店 1978 【HC14-12】)
    1. ソクラテスの対話篇を著したプラトンの全集を確認。プラトン全集の総索引である『プラトン全集 別巻』を確認すると、「驚き,驚異(驚嘆)」の項目(p.57)に「求知(哲学)の始まりは驚異の情」と書かれており、『プラトン全集 2』【HC14-12】に所収の『テアイテトス』155Dに該当するページ(p.220)に記載があることが判明。
    2. 『プラトン全集 2』の凡例を見ると、底本はJ. Burnet, "Platonis Opera", 5 vols., Oxford Classical Textsと判明。同全集の「155D」に該当する部分で、原典の文章を確認することができます。

また個別の哲学者の全集は存在しなくても、時代や流派ごとに断片集や集成が作成されている場合があります。体系的な断片集や集成には以下のようなものがあります。

1-2. 哲学者別・国別・分野別の事典類から調べる

哲学分野では哲学者別・国別・分野別それぞれに事典類が作成されており、調べたい文章の作者名・出版国・分野のいずれかが判明している場合、該当する事典にあたることで出典が判明する場合があります。

哲学に関する事典類を探したい場合は国立国会図書館サーチから以下のような手順で探すことができます。

(1) 絞り込み条件を開く

(2) 項目追加から「分類」を選択

(3)「NDC」の欄に、「10*」(哲学)、「11*」(哲学各論)、「13*」(西洋哲学)のいずれかを入力

(4)「事典」・「辞典」などのキーワードを入力

(5) 検索ボタンをクリック

哲学者別・国別・分野別の事典類の代表的なものとしては以下のようなものがあります。

哲学者別

国別

分野別

2. 調べたい文章の手がかりが無い場合

2-1. データベースから調べる

調べたい文章の手がかりがない場合は、その文章の一節や文章の中に出てくる哲学用語をデータベースで検索することで原典が分かる場合があります。また邦訳された文章の一節から原典を調べる場合は、訳者によって訳語や表現が異なっている場合があり、データベースでうまくヒットしないことがある点に注意が必要です。

全般

  • 国立国会図書館デジタルコレクション
    当館で収集・保存しているデジタル資料を検索・閲覧できるサービスです。一部資料は全文検索することができます。
  • 次世代デジタルライブラリー
    国立国会図書館デジタルコレクションで提供している資料の中から、著作権の保護期間が満了した図書及び古典籍資料を検索可能です。全資料を全文検索することができます。
  • Hathi trust digital library外部サイト
    アメリカの大学図書館を中心に、複数の図書館のデジタル資料をアーカイブしているウェブサイトです。多くの資料を全文検索することができます。
  • Europeana外部サイト
    EU加盟国の図書館・美術館・文書館などのデジタル資料をアーカイブしているウェブサイトです。全文検索の可否は資料の所蔵館ごとに異なります。
  • Google Books外部サイト
    書籍の全文検索ができるウェブサービスです。著作権保護期間が満了している書籍については全文を表示することができます。著作権で保護されている資料については、出版社および著者の許可が得られた場合のみ一部のページを表示し閲覧することができます。
  • Project Gutenberg外部サイト
    著作権保護期間が満了した書籍の全文を公開しているウェブサイトです。

哲学者別

  • Corpus Thomisticum外部サイト(Fundacion Tomas de Aquino)
    トマス・アクィナスの著作だとされている全著作を原文で閲覧することのできるラテン語のウェブサイトです。言語を英語などの他言語に切り替えることができます。全文検索機能はありません。Bibliographyからトマス・アクィナスに関する文献を調べることもできます。
  • Bornner Kant-Korpus外部サイト(Universität Duisburg-Essen)
    アカデミー版カント全集の全巻(volumes 1-23 of the Academy Edition of Kant's collected writings.)を閲覧することができるドイツ語のウェブサイトです。"Suche"から全集の文章を全文検索することが可能です。
  • Works from Hegel and 19th century Hegelians外部サイト(Hegel.net)
    ヘーゲルの著作と19世紀に活躍したヘーゲル学派の哲学者の文章をPDFとHTML形式で閲覧することができるドイツ語のウェブサイトです。言語を英語に切り替えることができます。
  • Nietzsche Source外部サイト(HyperNietzche)
    電子版ニーチェ全集eKGWB(Digitale Kritische Gesamtausgabe Werke und Briefe)を全文検索することができるドイツ語のウェブサイトです。言語を英語などの他言語に切り替えることができます。

時代別

  • Perseus Digital Library外部サイト(Tufts University)
    古代ギリシャ・ローマの著作やルネッサンス期の著作などを中心に、原文(一部英語対訳もあり)を閲覧することのできる英語のウェブサイトです。全文検索に対応しており、哲学に関する著作も多く収録されています。
  • The Latin Library外部サイト(George Mason University)
    ラテン語で書かれた著作を集めた英語のウェブサイトです。哲学に関する著作も多く収録されています。全文検索機能はありません。
  • AN ANALYTIC BIBLIOGRAPHY OF ON-LINE NEO-LATIN TEXTS外部サイト (University of Birmingham)
    大学図書館のデジタルアーカイブなど、インターネット上に公開されているルネッサンス期以降に書かれたラテン語文献を調べることができるデータベースです。本サイトから、資料を公開している外部サイトにアクセスすることで資料を閲覧することができます(全文検索の可否は資料を実際に公開している外部サイトによります)。

2-2. 用語辞典などから調べる

調べたい文章に関する情報が無い場合、その文章の中に出てくる哲学用語を用語辞典などで調べることで、著者や時代を推測することができ、原典の特定につながる場合があります。ここでは原典調査の際に使用する主な用語辞典類を紹介します。

  • 『哲学事典 改訂新版』(平凡社 1971 【H2-7】)
    古代から現代(1960年代頃)までの哲学用語を東洋哲学も含め、約8,000項目を収録しています。索引は邦文索引14,000項目、欧文索引11,000項目を収録しています。
  • 廣松渉 [ほか]編『岩波哲学・思想事典』 (岩波書店 1998 【H2-G12】)
    古代から現代(1990年代頃)までの哲学用語・人名・書名の約4,000項目を収録しています。巻末に「重要語索引」、「漢字人名索引」、「片仮名人名索引」、「欧文索引」が掲載されています。
  • 石塚正英, 柴田隆行 監修『哲学・思想翻訳語事典 増補版』(論創社 2013 【H2-L1】)
    各語に「原語の意味」という事項と「翻訳語の意味」という事項があり、「原語の意味」という事項では哲学用語の語源とその言葉を使用した代表的な哲学者などを解説しています。また「翻訳語の意味」という事項では該当の用語が日本語に翻訳された背景を解説しています。
  • "Historisches Worterbuch der Philosophie" Bd.1-13(Schwabe 1971- 【H2-B29】) 
    哲学に関する体系的なドイツ語の辞典です。哲学用語の語源や歴史的背景、哲学者による用語の使われ方の違いなどを解説しています。出典が明記されているため、用語が使用されている原典を辿ることができます。
  • Stanford Encyclopedia of Philosophy外部サイト(Stanford University)
    哲学分野の代表的なオンライン百科事典です。各記事はピア・レビューを経た後で掲載されています。哲学用語の歴史的な背景などを説明しており、各記事の末尾につけられている"Bibliography"などから文献を辿っていくことができます。

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