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第108回常設展示 強い天狗 弱い天狗 −天狗の鼻はなぜ高い−

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第108回常設展示 強い天狗 弱い天狗 -天狗の鼻はなぜ高い-

キーワード:天狗;妖怪;信仰;修験道;民話  カテゴリ:歴史・地理・哲学・宗教      件名(NDLSH):天狗  分類(NDC):387.91;388.1

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期間: 平成12年4月24日~7月21日(展示期間を1ヶ月延長いたします)

里の者との賭けに負けて大事なアイテムを奪われてしまう「天狗の隠れ蓑」
牛若丸に剣術を教える「鞍馬天狗」
己が力にうぬぼれ、高慢になり増長する事を指す「天狗になる」…

このように天狗には、異なる様々なイメージが同時に付随します。あるときは、間抜けであったり、いたずらものであったりし、またある時は、強く頼れたり、恐ろしかったり、高慢で愚かだったりするのです。

今回の展示では、現代の天狗が持つ強さと弱さの歴史をひもとき、時代を経る毎に様々な意味付けをなされて変化した「山のもののけ」、天狗の姿を探ります。

展示資料一覧

【 】は当館請求記号

複雑な天狗

天狗は非常に身近な存在であるが故に、深く知ろうとする機会は少ないかもしれません。けれど、天狗の姿を見極めようすればするほど、実は一言では語り尽くせない複雑な存在だということがわかってきます。ここでは、天狗の複雑さに嘆息する記述を紹介します。

1)烹雑の記 / 日本随筆大成 第1期第21巻
滝沢馬琴 /吉川弘文館 /1994.4
【US1-E7】
「その好む所によりて、その説になづ泥み、天狗は如此々々のものなりなんどいはば、却天狗の天狗たる所以を解さざるに似たり」
2)妖怪談義
柳田国男 /修道社/1957
【388.1-Y529y】
「我々平地人にとつて、所謂天狗道の愈愈了解しにくくなつたことは亦事実である。語を変えていはば百年の昔に比べて不可測の範囲は却つて昔より大いに拡張した」
天狗の姿

天狗というと「長い鼻」「赤くいかつい顔」「高い下駄」の姿がお馴染みです。けれど、こうした姿の天狗が登場するまでには長い道程がありました。そしてその長い歴史の中で、天狗は姿の変遷と共に様々な性格も身につけてゆきました。

(1)姿のない天狗

天狗というと「長い鼻」「赤くいかつい顔」「高い下駄」の姿がお馴染みです。けれど、こうした姿の天狗が登場するまでには長い道程がありました。そしてその長い歴史の中で、天狗は姿の変遷と共に様々な性格も身につけてゆきました。

3)天狗考 /上巻
知切光歳 /濤書房 /1973
【GD38-14】
中国からの留学僧は、ある日、流星が「音を発して」落ちたところに着目し、それを「天(あまが)が狗(きつね)」の吠える声と捉えました。
4)現代民話考
松谷みよこ /立風書房 /1985.8
【KG745-189】
天狗に関する言い伝えには、山から聞こえる音を捉えて「天狗の仕業」とするものが多くあります。ここでは、木を切る音がしたが翌日には何も倒れていなかったり、誰もいないはずの山奥からにぎやかな笛の音が聞こえる、といった言い伝えが紹介されています。
5)日本精神病観史資料集成 /天狗編・河童編
金子準二/日本精神病院協会/1968
【385.1-Ka436n2】
「てんぐかぜ」「てんぐつぶて」「てんぐだおし」など、姿が見えないのに何か変化が起こる場合に、天狗の名前が使用されていることが伺われます。
6)現世妖怪絵図 /村上健司
月刊歴史と旅/26(14) /秋田書店 /1999.9
【Z8-990】
「本来の天狗とは姿を見せぬ山の精霊」
7)甲子夜話 /村上健司
松浦静山著 /平凡社 /1977.4
【GB391-82】
天狗による神隠しの話は多くあります。天狗に連れられて空を飛んだり、他の世界を案内してもらったりする話がそれですが、この話では天狗に連れ去られたものの、その姿に関しては何も言及されていません。

(2)弱かった鳥の天狗

次に、違った特徴を持つ天狗が登場するのは「今昔物語」です。そこで語られる天狗は、仏教の邪魔をする「魔」として描かれましたが、結局は、高僧によって調伏される弱い存在でした。

8)天狗——″魔″の精神史
阿部泰郎 /「国文学 解釈と教材の研究」44(8) /学燈社 /1977.4
【Z13-334】
仏教によって「魔」を体現するものとして形を与えられた「天狗」の登場を述べています。
9)天今昔物語
福永武彦編 /河出書房新社 /1976
【KG91-7】
原典は今昔物語巻第二十「天狗、現仏坐木末語(てんぐ、ほとけとげんじてこずえにいますこと)第三」。木の上に仏が出現したが、正体を暴いてみると鳥だったという話。
10)和漢三才図会
寺島良安著 /島田勇雄ほか訳注 /平凡社 /1987.3
【UR1-100】
天狗を「治鳥」として紹介。
11)説話の森
小峯和明 /大修館書店 /1991.5
【KG167-E7】
今昔物語巻第二十「天竺天狗、聞海水音渡此朝語(てんぢくのてんぐ、うみのみづのおとをききてこのてうにわたること)第一」。はるばる天竺から海を渡ってきても聖域を侵すことができず、所詮「厠」という俗な場所に辿り着くのがやっとという、無力な魔として描かれています。

(3)烏天狗と天狗信仰

しかし、もともと不可思議な山の出来事の主であった天狗。山の精霊として力は衰えません。やがて烏天狗は迦楼羅王や修験道と絡み合い、信仰の対象となっていきます。

12)天狗信仰の研究—迦楼羅炎からの考察
森田喜代美 /「山岳修験」19 /山岳修験学会 /1997.10
【Z9-851】
天狗の姿を「実体のないもの」「鳥形の烏天狗」「人型の天狗」にわけた上で、天狗の宗教性と烏天狗の図像から、「迦楼羅王」との結びつきを示します。
13)天狗と修験者
宮本袈裟雄 /人文書院 /1989.3
【HM241-E12】
中世に入り、天狗が山の霊から人間味を帯びて山伏と一体化することを述べ、修験道と天狗の関わりの深さを示します。
14)天狗草紙 /続日本絵巻大成  19
小松茂美編 /中央公論社 /1984.4
【YP14-741】
15)天狗百態
早瀬和幸 /村田書店 /1994.9
【GD38-E100】
珍しい女天狗が描かれています。現代では山伏と天狗の関係が深まったため、滅多に見ることのできなくなったものです。

(4)強さを示そうとした鼻高天狗

馴染みある鼻の高い天狗の登場は、室町時代。画家狩野元信が鞍馬大僧正を描いたのが最初と言われています。その際、従来の烏天狗より力強く、より威厳に満ちて表現することを意図した為にこの様な姿になったという説もあります。では、なぜ強さを表現する為に天狗の鼻は高くなったのでしょうか。鼻高天狗と「猿田彦神」との結びつきを紹介します。

16)天狗と天皇
大和岩雄 /白水社 /1997.3
【GD38-G30】
「天狗」と「猿田彦」の外見的特徴と、境界神としての共通点を述べています。
17)天狗飛来
千葉県立大利根博物館 /千葉県立大利根博物館 /1995.6
【GD38-E98】
「猿田彦面」と呼ばれるものは、まさに我々の持つ天狗のイメージそのものです。
18)天狗と天狗舞
佐藤源治 /獅子玩具館 /1984.7
【KD372-8】
「猿田彦神の舞は天狗道案内の舞とも呼ばれる」
19)ふる里天狗草紙
ふる里天狗草紙編集委員会 /坂出市 /1992.11
【GD38-E61】
20)図聚天狗列伝 /西日本編
知切光歳 /岩政企画 /1977.1
【GD38-30】
鼻高の鞍馬天狗の像と、それに従えられる烏天狗の姿が見られます。
21)天狗の研究 /西日本編
知切光歳 /大陸書房 /1975
【GD38-21】
烏天狗の姿はみすぼらしく、鞍馬の大僧正たる鞍馬天狗を表現するには不十分なため高鼻の天狗が誕生したと述べ「荒彫りで古怪なは九両があり、…格段の威厳がある」と述べています。

(5)鼻高天狗の信仰

鼻高天狗が信仰され親しまれるにつれ、鼻高天狗と烏天狗の二つの天狗が信仰や民具に登場するようになりました。そのため、両者のすみわけも起こり、優劣も生まれました。

22)日本妖怪博物館
草野巧、戸部民夫共著 /新紀元社 /1994.8
【GD38-E89】
ここでは、「大天狗」「烏天狗」「木の葉天狗」など、階級順に天狗が紹介されています。
23)天狗・獅子の民芸品
佐藤源治 /朝日村企画課 /1994.8
【GD38-E89】
右頁下。鼻高天狗を「大天狗」烏天狗を「小天狗」と呼び、奉っている像が紹介されています。
24)河童vs天狗
埼玉県立博物館 /埼玉県立博物館 /1993.6
【GD38-D67】
一つの民具に両方の天狗が一緒に描かれており、二つは別のものとして捉えられていることがわかります。
時を超えて

天狗は様々な歴史を経て、非常に身近な存在となると同時に、多様なイメージを身につけました。現在、天狗を登場人物としたお話は多く、そこには今迄培われてきた天狗の複雑な性格が、いろいろな形で反映されています。また、こうした天狗のイメージを自分に重ねる人々も存在します。天狗の変化は、まだまだ続くのかもしれません。

(1)天狗に関するお話

25)天狗のかくれみの
坪田譲治作 赤羽末吉え /平凡社 /1967
【388.1-Tu647t】
ありもしない遠眼鏡と交換に、里の男に大事な隠れ蓑を騙し取られてしまう天狗のお話。天狗の不思議な力と間抜けさがあらわれています。
26)てんぐのはなかくし
さねとうあきら ぶん きそひでお え /文研出版 /1967
【Y17-9699】
天狗が人間の娘に求婚したら「愚図でなんでもいいから人間の連れがいい」といわれ、なんとか鼻を着脱可能にしたら力がでなくなって結局人間に…というお話。
27)ダルマ天狗 かつらそうどう
日吉まるを /児童図書出版社 /1951
【Y16-506】
28)紅毛天狗
森村誠一 /文芸春秋 /1997.3
【KH372-G201】
29)碧眼天狗
沙羅双樹 /小説刊行社 /1960
【913.6-Sa634h1】
28と共に、外国人の剣士を天狗として捉えたお話。天狗の容貌の特殊さと「異界のもの」としての性格が、そうしたイメージを生んだのかもしれません。

(2)鞍馬天狗

30)宝生流袖珍謡本 /源九郎義経の巻
宝生九郎 /わんや書店 /1962
【768.3-H726.h7】
江戸時代、謡曲の鞍馬天狗の登場で天狗は一気に庶民の人気者となり、今でも随所で語り継がれています。
31)平家物語 3 /鞍馬天狗
生越嘉治文 佐藤やゑ子絵 /あすなろ書房 /1996.9
【Y9-2987】
32)鞍馬天狗 天狗廻状
大仏次郎 /光風社 /1964
【Y81-435】
差出人のわからない廻状を「天狗の廻状」と呼びます。謡曲鞍馬天狗のイメージから生まれた大仏次郎の「鞍馬天狗」と、姿が見えないといった古来からの天狗のイメージとが融合している部分です。

(3)自称「天狗」の人々

33)天狗党悲史
石井良一 /国書刊行会 /1983.3
【GB354-95】
天狗党は幕末、幕政改革を志した水戸藩士によって結成されました。
34)天狗の末裔たち
毎日新聞社 /1969
【GC367-1】
現代の修験者達を描きます。
35)快絶壮遊「天狗倶楽部」
横田順彌 /教育出版 /1999.6
【KG311-G134】
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