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第131回常設展示 記録の中の「幻獣」たち

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第131回常設展示 記録の中の「幻獣」たち

キーワード:幻獣;伝説  カテゴリ:芸術・言語・文学 件名(NDLSH):怪物  分類(NDC):388

 

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平成16年5月1日(土)~6月30日(水)

 

A 現在 −身近な存在へ−
B ドラゴンと竜 −悪と聖の間で−
C ユニコーンと麒麟 −獰猛なのか温厚なのか−
D フェニックスと鳳凰 −不死と雄大−
E セイレンと人魚 −魅力の違い−
参照資料一覧

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竜は想像上の動物です。しかし実在の動物よりも、かえって身近な存在と言えるかもしれません。子どもの頃に読んだ本、見た絵には竜がよく出てきました。近頃ではファンタジー作品が大人にも人気です。それ以外にも例えば、地名人名、寺社の装飾、ラーメンのどんぶりなど、様々な所に竜はいます。では、皆さんが思い浮かべる竜には、翼はありますか? あるいはその竜は火を吐きますか? そうであるなら、それは一般的には東洋の竜ではなく、西洋のドラゴンです。竜とドラゴンは、今ではあまり区別されずに用いられていますが、実は両者の間には、かなりの違いがあるのです。
今回の展示では、竜に加えて一角獣、フェニックス、人魚といった代表的な想像上の動物について、東西の相違を比較しつつ、それぞれの姿やイメージの源流をたどります。文章による記述だけでなく、博物誌や画集の中から選んだ図版や絵も展示しますので、皆さんが持っている竜や人魚のイメージと比べてみてください。

A 現在 −身近な存在へ−

現在、竜や人魚といった想像上の動物は、児童書やマンガ、さらにはビールのラベルなどにも登場し、我々にとって身近な存在になっています。これらは、いささか子どもじみているように思われるかもしれません。しかし例えば、日本のコンテンツ産業(マンガ、ゲーム、テレビ、映画、音楽、広告等に盛り込まれた情報の内容に関わる産業)の市場規模は今や鉄鋼業の2倍に達し、国際的にも高い競争力を有しています。実は大人のビジネスの世界にも、「幻獣」たちはたびたび登場しているようです。それはともかく、我々は竜や人魚といえば、それが大体どんなものかを思い浮かべることができます。つまり我々は、竜や人魚を実在しないとみなしつつも、そのイメージを共有しているということができるでしょう。 では、そのイメージは、どこから来たのでしょうか?

A-1 火の鳥
手塚治虫著 角川書店 1992年
【Y84-E3468】
手塚治虫(1928-1989)は、現在の日本のマンガ界を切り開いたといえます。『火の鳥』はそのライフワーク的作品と言えるでしょう。「黎明編」、「未来編」などの独立したエピソードからなり、各編で人類の過去と未来とを交互に描きつつ、回を追うごとに時代を現代に近づけていくことによって、ひとつの長い物語が浮かび上がるようになっています。永遠の命を与えるという火の鳥が、狂言回しとして各編に登場します。
A-2 エルマーとりゅう
ルース・スタイルス・ガネット作絵 渡辺茂男訳 福音館書店 1997年
【Y9-M97-20(国際子ども図書館所蔵資料)】
951年刊行のアメリカの児童文学で、『エルマーの冒険』、『エルマーとりゅう』、『エルマーと16ぴきのりゅう』からなる3部作。9歳の少年エルマー・エレベーターと、彼に救出された竜の子どもの冒険が描かれます。小学校の国語の教科書にも採用されています。
A-3 ドラゴンボール
鳥山明著 集英社 1992年
【Y84-E3471】
1984年から1995年まで週刊誌に連載。国内コミックス単行本総売上部数1億2600万部は、歴代1位。世界40カ国以上で出版され、アニメ放送もされました。ドラゴンボールと呼ばれる珠を7つ集めると竜が現れ、どんな願いでも聞いてくれるという設定の下、主人公・孫悟空の冒険と成長が描かれます。
A-4 ホビットの冒険
J.R.R.トールキン著 瀬田貞二訳 岩波書店 2002年
【Y9-N03-H75(国際子ども図書館所蔵資料)】
第76回アカデミー賞を11部門で受賞した「ロード・オブ・ザ・リング(指輪物語)」のプロローグに当たります。1937年に刊行されました。著者トールキンは、当時オックスフォード大学の古英語の教授でした。平和と食事を何よりも愛するホビット族(人間よりも小柄な種族)のビルボが、魔法使いガンダルフに誘われて、竜に奪われた宝を探す旅に出る物語です。
A-5 人魚姫(アンデルセンクラシック9つの物語)
ハンス・クリスティアン・アンデルセン著 山本史郎訳 原書房 1999年
【KS496-G12】
アンデルセンは19世紀のデンマークの作家。展示している本は、人魚姫を含む9つのアンデルセン童話に、アーサー・ラッカム、エドマンド・デュラックら著名な挿絵画家の作品を添えたものです。
A-6  一枚のラベルから
矢島鈞次監修 弘済出版社 1979年
【DH22-1053】
キリンビールの現行「麒麟ラベル」の原型は、明治22年6月まで遡ることができます。作者は、当時、東京美術学校(現在の東京藝術大学)の学生で、後に同校教授となる六角紫水といわれています。

B ドラゴンと竜 −悪と聖の間で−

一般に西洋(ヨーロッパ)のドラゴンは、キリスト教の影響もあり、悪の象徴として退治される存在でした。大天使ミカエルや聖ゲオルギウスに退治されるドラゴンがその代表です。ただし、『ニーベルンゲンの歌』のジークフリートや、北欧神話(ヴォルスンガ・サガ)のシグルトが、竜の血を浴びることで不死身になったり、鳥の会話を理解できるようになったりしたように、神秘的な力も有していました。一方、東洋(中国)の竜は、霊獣として畏怖される存在でした。竜は水を呼ぶ存在であるとも考えられていたため、雨乞いの際には竜の模型が用いられました。また、王権との結びつきも強く、天子の顔を竜顔、天子が怒ることを「逆鱗に触れる」などと表現してきました。なお、『古事記』に出てくる日本の八俣のおろちは竜ではありませんが、多数の頭を持ち、土地の王の娘が生け贄になるなど、キリスト教の竜に類似した特徴も見られます。

B-1 新約聖書(ヨハネ黙示録 第12章)
新訳聖書翻訳委員会訳 岩波書店 1996年 (pp.222-223)
【HP23-E60】
新約聖書の末尾を飾るヨハネの見たまぼろし。第12章には、悪の象徴として、七つの頭を持つ竜が出てきます。それは、「赤い巨大な竜で、七つの頭と十本の角を持ち、その頭には七つの王冠を被って」いて、「太古の蛇、悪魔とかサタンとか呼ばれる者、全世界を惑わす者」とされています(以下、「」内は、標記の展示資料からの引用です)。竜は、全ての民族の王となる子どもを呑み込もうとしますが、大天使ミカエルらにより、天上から地上に投げ落とされます。

B-2 ベアトゥス黙示録註解:ファクンドゥス写本
J.ゴンザレス・エチュガライ他解説 大高保二郎、安發和彰訳 岩波書店 1998年
【YP9-107】
11世紀スペインの王フェルナンド1世と王妃サンチャに献呈された『ベアトゥス写本』(マドリード国立図書館所蔵)の部分複製版。原本はリエバナのベアトゥスによる黙示録の注釈書で、写字生の名をとってファクンドゥス写本と呼ばれています。展示ページは、上記ヨハネ黙示録第12章の「太陽をまとう女と竜」の細密画です。当館では以下のように、ベアトゥス黙示録注解の精巧な複製版(ファクシミリ版)を数点所蔵しています。

Apocalipsis, Scriptorium, Valencia, 2000.
【YP51-A760】
El Beato de la Universidad de Valladolid, Testimonio Compania Editorial, Madrid, 2002.
【YP51-B9】
Beatus de Liebana Codex Urgellensis, Testimonio Compania Editorial, Madrid, 1997.
【YP51-A787】

B-3 黄金伝説(56 聖ゲオルギウス)
ヤコブス・デ・ウォラギネ著 前田敬作、山口裕訳 人文書院 1984年 (pp.76-77)
【HP122-42】
13世紀に書かれたキリスト教の聖人列伝。聖ゲオルギウス(聖ジョージ)はイングランドの守護聖人です。聖ゲオルギウスのドラゴン退治は人気のテーマで、デューラーやラファエロ、モローなどの絵にも取り上げられました。カッパドキア出身の騎士ゲオルギウスは、あるときリュビアの町シレナに立ち寄りますが、町の近くには海のように大きな湖があって、「毒をもった竜」が棲んでいました。竜が毒気を吐いて悪疫を蔓延させるため、町の人々は、くじで生贄を選んで竜に与えていました。そして王の一人娘がくじに当たり、ゲオルギウスの登場となります。
B-4 聖ゲオルギウスと悪竜(世界美術全集 7)
ラファエロ・サンツィオ画 集英社 1976年
【YP14-266】
イタリア・ルネサンス期の画家ラファエロによる16世紀初頭の作2枚。それぞれ、ルーブル美術館、ナショナルギャラリー(ワシントン)にて所蔵。
B-5 ベーオウルフ
忍足欣四郎訳 岩波書店 1990年 (pp.211-212)
【KS152-E218】
8世紀に成立したとされる古英語の英雄叙事詩。宝を守る竜という設定は、1937年の『ホビットの冒険』(A-4を参照)にも受け継がれています。べーオウルフは、王として即位して50年、国を平和に治めてきましたが、「高台の曠野にて秘宝を見張り、石を積み上げた高く聳ゆる奥津城を守る竜」が何者かに宝を盗まれて怒り狂い、民を襲うに及びます。老王ベーオウルフは竜と戦うことを決意します。これが彼の最後の戦いになりました。
B-6 ニーベルンゲンの歌(第3歌章)
相良守峯訳 岩波書店 1975年 (p.34)
【KS415-5】
13世紀初頭の成立とされる中世ドイツの英雄叙事詩。ニーベルンゲンの宝を守る竜の血を浴びて不死身となったジーフリト(ジークフリート)の悲劇的な死と、その妻クリエムヒルト(クリームヒルト)の復讐が描かれます。竜を退治したジーフリトは、「その血を全身に浴びて、そのため肌が不死身の甲羅と化した」とされています。
B-7 易経(鑑賞中国の古典 1巻)(一 乾)
三浦國雄訳 角川書店 1988年 (pp.65-70)
【KK412-E1】
儒教の経典である四書五経の一つで、予言の論理の書。紀元前700年頃の成立とされています。いわゆる占いですが、古代におけるその重要性は、現代からは想像もつかないほど大きかったと考えられます。陰と陽の2種類の記号を3つ組み合わせることにより、卦と呼ばれる8種類の基本図像が作られ、8×8の組み合わせにより、64の図像(64卦)が作られます。64卦中の「乾」の卦に竜のたとえが見られます。例えば、乾の「初九 潜み隠れた龍である。行動してはならない」。「用九 むらがっている龍の首が見えない。吉」。
B-8 山海経(第十四 大荒東経)
高馬三良訳 平凡社 1994年 (p.152)
【GE265-E31】
1世紀の『漢書』によれば作者不詳、尭舜の時代(半ば神話時代)に成立とのこと。各地の地理、動植物、産物等を記した地理書ですが、怪力乱神の類も多く語られ、中国古代の神話世界が描かれているとされています。次の『管子』と並んで、竜に水との結びつきが見られます。蚩尤と夸父を殺した応龍が天に復帰することができなくなったため、しばしば旱(ひでり)が起こるが、「旱したときに応龍の状(かたち)をまねると、やがて大雨がふり出す」とされています。
B-9 管子(新釈漢文大系 43)(第14巻 水地第三十九)
遠藤哲夫著 明治書院 1991年 (p.732)
【082-Si498】
管子は前7世紀の斉の宰相、管仲を指しますが、『管子』は後代、管子に仮託して書かれたとされています。その思想内容は多様かつ雑然としており、例えば、衣食足りて礼節を知るという言葉の源流はこの本にありますが、竜についての記述も見られます。竜は「水中に生まれ、青・赤・黄・白・黒の五色を身に帯びて遊泳する。すなわち神秘な能力を身にそなえた存在」であり、大きくも小さくも形態を変えられ、自由自在に天地を行き来するとされています。
B-10 史記(中国古典文学大系 10巻)(高祖本紀第八)
野口定男訳 平凡社 1968年 (p.120)
【KK412-1】
紀元前1世紀に司馬遷が編纂した歴史書。歴史を年代順に記述するのではなく、人物の伝記を積み重ねていく紀伝体と呼ばれる叙述スタイルをとります。歴代皇帝の伝記をまとめたのが本紀の部で、その8番目に高祖が登場します。高祖は農民から身を起こして中国を統一した漢の初代皇帝です。ここでは、竜が皇帝の象徴とされています。「武負・王媼は高祖が酔い臥すと、その身体の上にいつも竜がいるのを見て、奇怪に思った」。武負・王媼というのは、高祖が無名だったときにツケで酒を飲んでいた2軒の店の女将です。高祖が飲むときはいつも売上げが数倍になり、竜が現れるという奇怪なさまも見たため、両店はツケを棒引きにしたといいます。
B-11 史記(史記列伝 A)(老子・韓非列伝第三)
貝塚茂樹、川勝義雄訳 中央公論新社 2001年 (p.17)
【GE265-G57】
史記(前述B-10)の中で、皇帝や諸侯以外の人物の伝記をまとめたのが列伝の部です。その3番目に老子が登場します。老子は紀元前5〜4世紀頃の思想家で、哲学書『老子』を著したとされていますが、実在が疑問視されることもあります。孔子は、竜について、「いったいどうして風と雲とに乗っかって天に舞い上がるのか、さっぱり様子がわからない」と言い、老子を「竜のような人物」と述べています。
B-12 雲竜図屏風(日本美術絵画全集第22巻)
円山応挙筆 集英社 1977年
【YP14-314】
江戸中期の画家で円山派の祖、応挙による1773年の作。重要文化財。

C ユニコーンと麒麟 −獰猛なのか温厚なのか−

ヨーロッパのユニコーンは獰猛ながら、女性には弱かったといいます。その角を粉末にしたものは解毒作用があるとされ、長く薬屋の看板にも用いられてきました。また、スコットランドのシンボルとして、イギリス王室の紋章にも登場しています。一方、東洋でユニコーンに対応する生き物は麒麟でしょう。麒麟にも一本の角があります。麒麟は正道がおこなわれる時に出現する仁獣であり、孔子の誕生の際に出現したことなどが伝えられています。竜、鳳凰、亀とともに、最も神聖な動物である四霊の一つとされ、虫も踏まず、草も折らないように歩き、単独で行動することを常とするといいます。

C-1  プリニウスの博物誌(第8巻31)
プリニウス著 中野定雄他訳 雄山閣出版 1986年 (p.360)
【M71-61】
1世紀に古代ローマのプリニウスが書いた自然誌事典。天文、地理から人間、動植物、鉱物、芸術まで網羅した百科全書的な書物ですが、風聞、伝承に基づく記述もあり、真実と幻想がないまぜになった魅力があります。インドの陸棲動物の項の中に、一角獣が出てきます。性質は獰猛、捕獲は不可能であり、「身体のほかのところはウマに似ているが、頭は雄ジカに、足はゾウに、尾はイノシシに似ていて、…額の中央から突出している二キュービットもある一本の黒い角をもっている」とされています。
C-2 一角獣をつれた貴婦人:「マルテの手記」抄
R.M.リルケ著 塚越敏訳・解説 風信社 1981年
【KS419-25】
リルケはドイツの詩人。『マルテの手記』は1910年の作で、パリの下宿に暮らす28歳のデンマーク人詩人マルテの、手記の形式をとった小説です。パリの貧困と孤独、幼年期の追憶、死と愛についての省察などが記されています。作中に登場する「一角獣をつれた貴婦人(貴婦人と一角獣)」のタピストリ(つづれ織りによる壁掛け)は、パリの中世美術館(クリュニー美術館)が所蔵。展示している本は、『マルテの手記』から該当箇所を抜粋し、タピストリの写真を添えたものです。
C-3 Historiae naturalis
Heibonsya 1997年
【YP51-A553】
Johann Jonstonが1660年にアムステルダムで出版。江戸時代に日本にも伝わり、野呂玄丈訳の『阿蘭陀(オランダ)禽獣蟲魚和解』として知られています。ユニコーン以外にも、フェニックスやドラゴン、人魚など、多くの図版を収録しています。展示している本は、「荒俣コレクション復刻シリーズ:博物画の至宝」として、平凡社から刊行の復刻版です。
C-4 紋章学辞典
森護著 大修館書店 1998年
【GG8-G4】
ユニコーンは、スコットランド王のサポーター(紋章を支える動物)です。エリザベス2世の紋章には、イングランドのライオンとともに、ユニコーンが描かれています。
C-5 訓読説文解字注 匏冊(第10篇上 鹿部)
尾崎雄二郎編 東海大学出版会 1993年(pp.629-630)
【KK24-52】
説文解字は、紀元100年頃に後漢の許慎が書いた中国最古の字形字典。読解には、清の段玉裁が付した注釈(説文解字注)を用いています。「麒——麒麟は仁獣也、[ソ]の身牛尾一角、从鹿其聲」とあり、注釈では文献を引きつつ、仁獣とする所以を、角が肉に覆われ他に危害を加えないこと、「生蟲を履(ふ)まず、生艸(くさ)を折らざる」ことなどに求めています。東方の龍、西方の虎、南方の鳳、北方の亀に対し、「麟は中央也」とする文献の記載も見られます。
C-6 孔子画伝(第二図)
加地伸行著 集英社 1991年
【HB41-E32】
聖蹟図は孔子の生涯を描いた画伝で、今日まで残っているのは明代以降のもの。展示しているページは、孔子誕生の際に現れた麒麟の角に、孔子の母が布をかける場面を描いた「麒麟玉書図」です。

D フェニックスと鳳凰 −不死と雄大−

西洋のフェニックスは500年ごとに焼死し、その灰の中から若鳥が生まれるとされたことから、後に不死、再生のシンボルとなりました。一方、中国の鳳凰は竜、麒麟、亀と並ぶ聖獣であり、聖王が現れて天下太平の時に飛来するとされていました。さらに、鳳(おおとり)が鵬(おおとり)となると、雄大な哲学的存在へと転化します。

D-1 歴史(第2巻73)
ヘロドトス著 青木巌訳 新潮社 1968年(pp.122-123)
【230.2-cH55r-As】
紀元前5世紀に古代ギリシャのヘロドトスによって書かれた歴史書。ヘロドトスが伝聞したヘリオポリス人の伝説ということで、プォイニクスと呼ばれる聖鳥が出てきますが、不死のモチーフは、まだ見られません。「五百年ごとといったぐあいで、これはめったに彼等を訪れないというわけで、私も絵で見たかぎりを除いてはその実物を目撃したことが無い」が、「父鳥が死んだ時に必ず訪れるという事である」とされ、父鳥を没薬で塗り包んでエジプトのヘリオス神廟に運び、埋葬するという伝説が紹介されています。
D-2 年代記(第6巻28)
タキトゥス著 国原吉之助訳 岩波書店 1993年(pp.359-360)
【GA54-E24】
2世紀に古代ローマのタキトゥスによって書かれた歴史書。ポエニクスという鳥の寿命は500年で(「その寿命の長さについては、記録がまちまちで、一般に信じられている周期は、五百年である」)、父鳥の亡骸を太陽神(ヘリオス)の祭壇まで持って行って焼くという伝承が紹介されますが、タキトゥス自身は、「これは眉唾ものだ。物語めいた要素で潤色されている」と述べています。なお、同じ古代ローマでほぼ同年代に書かれたプリニウスの博物誌(前述C-1)にもこの鳥に関する記述があり、雛鳥は親鳥の死骸から生まれると伝えています。
D-3 神曲(河出世界文学全集 第1巻)(地獄編第24歌)
ダンテ著 平川祐弘訳 河出書房新社 1989年(pp.86-87)
【KE211-E23】
14世紀にイタリアのダンテによって書かれた叙事詩。人生の途中で暗い森に迷い込んだダンテが、古代ローマの詩人ウェルギリウスや天女ベアトリーチェに導かれ、地獄、煉獄、天国をめぐる話ですが、地獄めぐりの中で出会った焼死しては蘇る罪人の描写に、フェニックス=不死鳥のモチーフが見られます。「学者や詩人にいわせると、不死鳥(フェニックス)は五百年目が近づくと、死んでまた生まれ変わるというが、そのさまに似ていた」。
D-4 論語(中国古典文学大系 3巻)(巻第五子罕第九の九)
木村英一、鈴木喜一訳 平凡社 1970年 所収(p.46)
【KK412-1】
儒学の基本書である四書五経の一つ。現在伝わっている形になったのは2世紀頃とされています。鳳は鳳凰の牡です。孔子は、「鳳鳥も来ないし、黄河も図を出さない。私の希望もこれまでなのか」と述べます。鳳凰も黄河の図も、聖王出現と平和の瑞祥とされていました。
D-5 史記(史記4 世家下)(孔子世家第十七)
小竹文夫、小竹武夫訳 筑摩書房 1995年(p.107)
【GE265-E42】
紀元前1世紀に司馬遷が編纂した歴史書。前述B-10, B-11参照。諸侯の伝記をまとめたのが世家の部で、孔子は諸侯ではありませんでしたが、ここに含まれています。楚の狂接與が次のように歌いながら孔子のまえを通り過ぎます。「鳳や鳳や 何ぞその徳の衰えたる」。ここでは、孔子が鳳凰にたとえられています。
D-6 荘子(世界の名著 4)(第一 逍遥遊篇)
森三樹三郎訳 中央公論社 1968年(pp.153-154)
【080-Se1228】
現在伝わっている形になったのは4世紀頃とされています。「鵬」は、1世紀の字形字典「説文解字」(C-5を参照)では、昔の「鳳」の字に当たるものとしていますが、ここでは必ずしも同一の意ではありません。日本語の訓読みはいずれも「おおとり」です。北冥に棲む鯤という巨大な魚が化身して鵬という鳥になります。「鵬の背のひろさは、幾千里あるのかはかり知られぬほど」であり、「ひとたび、ふるいたって羽ばたけば、その翼は天空にたれこめる雲と区別がつかないほどである」とされます。この鳥は、やがて海が嵐になると、南の果ての暗い海に向けて飛び立ちます。あまりに高いところを飛ぶため、地上から見た空が青一色に見えるように、生物がひしめくこの地上も、この鳥には青一色に見えるだろうとされています。
D-7 鳳凰図(花鳥画の世界 10)
林良筆 学習研究社 1983年
【YP14-789】
現物は重要文化財で相国寺(京都)蔵。林良は中国明代の代表的宮廷画家。

E セイレンと人魚 −魅力の違い−

ヨーロッパのセイレンは、上半身が女性、下半身が魚(又は鳥)という生き物であり、その美声で船乗りを魅惑し、海中に引きずり込むとされていました。ポセイドンやトリトンら海の神が男の人魚として描かれることもありましたが、やはり女性の魅力がイメージの底流にあります。これに対し、日本の人魚はいささか複雑な魅力をもっています。例えば、人魚の肉を食べると不死になる(800歳まで生きる)という言い伝えが日本各地に残っています。

E-1 オデュッセイア(第12歌)
ホメロス著 松平千秋訳 岩波書店 2001年(pp.318-320)
【KP31-G27】
紀元前8世紀頃、古代ギリシャのホメロスによって書かれた叙事詩。トロヤ戦争の英雄オデュッセウスが苦難の末、帰国するまでの冒険を描きます。オデュッセウスは、セイレンの歌声を避けるよう女神キルケから忠告されていましたが、セイレンたちが歌い始めると、「わたしは心中、聞きたくて耐らず、…」。
E-2 ユリシーズ(11 セイレン)
ジェイムズ・ジョイス著 丸谷才一他訳 集英社 1996年(pp.32-33)
【KS161-G18】
1922年、アイルランドのジョイスによって書かれた小説。「ユリシーズ」は「オデュッセウス」の英語読みで、章立ても『オデュッセイア』を模しています。ダブリンの街を舞台に、非英雄的なレオポルド・ブルームというハンガリー系ユダヤ人の平凡な日常を描きます。ブルームが見たドアの煙草のポスターに、「美しい波間にゆれながら煙草をくゆらせる人魚(マーメイド)」の絵があります。
E-3 ニーベルンゲンの歌(第25歌章)
相良守峯訳 岩波書店 1975年(pp.108-109)
【KS415-5】
13世紀初頭の成立とされる中世ドイツの英雄叙事詩。ニーベルンゲンの宝を守る竜の血を浴びて不死身となったジーフリト(ジークフリート)の悲劇的な死と、その妻クリエムヒルト(クリームヒルト)の復讐が描かれます。ジーフリトの死後、クリエムヒルトはフン族の王エッツェルと再婚し、ジーフリトをだまし討ちにしたハゲネ(ハーゲン)らを自国に招きます。フン族の国に向かう途中、ハゲネは水浴している水の乙女たち(挿絵では半人半魚)に出会います。彼女たちが言うことには、「王室の司祭さん一人を除いて、ほかにあなた方だれも生きて帰れないことは、ちゃんと決まっていることなんです」。
E-4 怪物誌
荒俣宏編著 リブロポート 1991年
【KC521-E157】
セイレンの絵は、16世紀半ばに活躍したチューリヒ生まれの博物学者、コンラート・ゲスナーが記した『動物誌』(Historia animalium)の中の「魚編」に収録されています。
E-5 シレーヌの村(朝日美術鑑賞講座 10)
ポール・デルヴォー画 永田芳男編 朝日新聞社 1992年
【KC31-E9】
1942年の作。画面右奥に、海に入ろうとしている人魚が見えます。
E-6 共同発明(マグリット)
ルネ・マグリット画 マルセル・パケ著 Taschen 2001年
【KC16-G2751】
1934年の作。上半身が魚、下半身が女性というマグリット流の人魚。
E-7 本朝神社考(本朝神社考・神社考詳節)(下之六 都良香)
林羅山著 現代思潮社 1970年(正保2年刊の複製)(p.508)
【HL61-193】
林羅山は江戸初期の儒学者。1645年の『本朝神社考』では、神社の沿革や縁起・遺跡などを明らかにしました。人魚の肉を食べて長生きする八百比丘尼(800年生きる、A-1の『火の鳥』異形編にも登場)や、白比丘尼(色が白いため)の伝説は、今も日本各地に見られます。
「若狭の國に白比丘尼と号する者有り。其の父一旦山に入り異人に遇う。與倶(とも)に一処に到る。殆ど一天地にして別世界なり。其の人一物を與(あた)えて曰く、是れ人魚なり。之を食ふときは年を延べ老いずと。父携えて家に帰る。其の女子迎え歓びて衣帯を取る。因りて人魚を袖裏に得て、乃ち之を食う。蓋し肉芝の類か。女子壽四百余歳、所謂(いわゆ)る白比丘尼是れなりと。余、幼齢にして嘗て此の事を聞きて忘れず。」(標記資料から書き下し)
E-8 和漢三才図会(巻第四十九 魚類 江海有鱗魚)
寺島良安編 東京美術 1970年(正徳3年序刊本の複製)(pp.183-184)
【UR1-9】
大坂の医師寺島良安によって編纂された絵入り百科事典。1712年頃に完成。「人魚(ジンエイ) 綾魚——『和名抄』(鱗介部、竜魚類)に、『兼名苑』を引いて、人魚〔一名は綾魚〕とは魚身人面のものである、とある。…」頭や顔は婦女、以下は魚、鱗は鯉に似ており、両ひれの水かきは手のようである、オランダでは骨を解毒剤として使っている等の記述があります。
E-9 箱入娘面屋人魚(山東京傳全集 第2巻)
水野稔編 ぺりかん社 1993年
【KG235-E6】
寛政3年(1791年)刊の黄表紙。北尾重政の画とされています。浦島太郎とお鯉の(おりの)との間に生まれた人魚が登場します。展示しているページは、人魚を嘗めれば寿命が延びることを聞いた平二が、女房の人魚を使い「寿命の薬 人魚御なめ所」を開いて、金稼ぎをしている場面です。
E-10 江戸の大変 天の巻
稲垣史生監修 平凡社 1995年
【GB341-E93】
文化2年(1805年)のかわら版に載った人魚の絵です。

主要参考文献

『幻獣事典』
ホルヘ・ルイス・ボルヘス、マルガリータ・ゲレロス著 柳瀬尚紀訳 晶文社 1986年
【E222-19】
『字通』
白川静著 平凡社 1996年
【KF4-G7】
『空想動物園』
アンソニー・S.マーカタンテ著 中村保男訳 文化放送開発センター出版部 1976年
【KE185-15】
『一角獣・不死鳥・魔女——英文学の周辺』
船戸英夫 弓書房 1980年
【KS74-141】
『ドラゴン』
ウーヴェ・シュテッフェン著 村山雅人訳 青土社 1996年
【G189-G31】
『龍の起源』
荒川紘著 紀伊国屋書店 1996年
【G189-G13】
『一角獣』
リュディガー・ロベルト・ベーア著 和泉雅人訳 河出書房新社 1996年
【KE178-G4】
『心理学と錬金術』
C.G.ユング著 池田紘一、鎌田道生訳 人文書院 1976年
【SB35-90】
『世界大博物図鑑』
荒俣宏著 平凡社 全7巻 1987-1994年
【RA6-50】
『人魚の系譜』
笹間良彦著 五月書房 1999年
【KE178-G26】

 

 

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