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第155回常設展示 すし-ふるさとの味-

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第155回常設展示 すし-ふるさとの味-

キーワード:寿司;発酵ずし;なれずし;早ずし;郷土料理  カテゴリ:歴史・地理・哲学・宗教 件名(NDLSH):すし  分類(NDC):596.21

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はじめに

「米」と「魚」。日本の食文化を代表する二大食材が結びついた「すし」は、ハレの行事食として、また日常食としてわたしたちの食生活に根付いており、各地に郷土料理として伝わっているすしからはその歴史と多様性をうかがい知ることができます。

「すし」のルーツは東南アジアにあると言われ、現在も日本の「なれずし」に似た料理が、タイや中国雲南省の一部に見られるそうです。日本で最古の「すし」の文字を確認できるのは、8世紀半頃に出された「養老律令」です。この頃のすしは魚を米と塩で発酵させた「ホンナレ(本成れ)」で、味よりも保存性を重視し、発酵後の米は捨てていました。やがて、まだ魚が発酵しきらないうちに飯ごと食す「ナマナレ(生成れ)」が誕生、魚を野菜とともに発酵させる「イズシ(飯ずし)」も出現し、安土桃山時代以降、酢を当てて熟成を早めた「早ずし」が誕生したと言われています。

今回の展示では、握りずしの誕生以前から、ふるさとの味として親しまれてきた日本各地の「すし」を、そのレシピとともにご紹介いたします。展示にあたり、できる限りご当地出版の資料を選びました。あなたのふるさとの味は、国立国会図書館にこうしてしっかり保存されています。いつでも会いに来てくださいね。

資料をご覧になる場合のご注意

  • 展示資料には1〜20までの通し番号を、パネルにはA〜Gまでのアルファベットをつけています。
  • 本文中【 】内の記号は、国立国会図書館の請求記号です。
  • 【YDM】【YD】から始まる請求記号の資料は、マイクロフィッシュでの閲覧となります。
    マイクロフィルム、マイクロフィッシュは展示期間中もご利用になれます。
  • 資料名のあとに近デジとあるものは、当館のホームページ内「近代デジタルライブラリー」、国立国会図書館デジタルコレクションとあるものは「国立国会図書館デジタルコレクション」で画像をご覧になれます。
  • 記事を引用するに当たっては、原文をそのまま引用しましたが、新字・旧字の判読が困難な文字及び変換が困難な文字については、新字で記述しています。
 
 
A. 展示すしマップ(都道府県別)<クリックすると地図が表示されます>
今回の展示で紹介しているすしを、都道府県別に日本地図上に示しました。地図上の数字、アルファベットはそれぞれ展示資料・パネルに対応しています。また、「押しずし文化圏・いずし文化圏・なれずし文化圏」の図は、「ふるさとのすし・都道府県別マップ(作図 奥村彪生)」(すし・なれずし 東京 : 農山漁村文化協会, 2002.12 pp.240-241【EF27-H46】)をもとに作図しました。
 

第1章 発酵ずし

●なれずし-すしの起源-

すしの最も古い調理の形態で、蛋白質としての魚を保存する技術として東南アジアで生まれ、稲作とともに日本に伝来したと考えられています。ご飯の粒がとけてなくなるホンナレ(本成れ)の形態が最も古く、室町時代にナマナレ(生成れ)が派生したと言われています。

B. 令義解(りょうぎのげ) 巻三 賦役令国史大系. 第12巻 / 経済雑誌社編
東京 : 経済雑誌社, 1900
【YDM492】 近デジ)

養老2年(718)成立の「養老律令」は現存していませんが、注釈書である『令義解』により原文を復元することができます。賦役令には朝廷に納める各地の特産物が記載されており、その中に「鰒鮓二斗。貽貝鮓三斗。」「雑鮨五斗。」という記述がみられ、少なくとも奈良時代には「鮓」「鮨」が作られていたことがうかがえます。
1. 延喜式国史大系 第13巻 / 経済雑誌社編
東京 : 経済雑誌社, 1900
【YDM492】 近デジ)

式は律令の施行細則をまとめたもので、「巻第二十四 主計上」にはすしを貢納すべき国々とその種類が挙げられています。また、「巻三十九 内膳司」にもすしについての記述があります。
●ホンナレ

魚をご飯と塩とともに漬け込み、長期間乳酸発酵させたもので、チーズのような強烈な匂いがあります。充分に発酵するとご飯はペースト状になり、食するときにはご飯をこそげ落として魚だけを食べます。すしの原始的製法を伝えるもので、現在滋賀県を中心に残っています。

ふなずし(滋賀)
2. つくってみよう滋賀の味 : 山の幸野の幸湖の幸 / 滋賀の食事文化研究会著
彦根 : サンライズ出版, 2001.10
【EF27-G4543】

日本に現存するホンナレの代表的存在で、滋賀県の無形文化財にも指定されています。地元の人々にとって正月や祝い事には欠かせない保存食品で、県内の多くの地方で神社の神饌に供されます。
●ナマナレ

漬け込む期間を短くし発酵を浅く止めたものです。ご飯の粒がのこっており、魚と一緒に食べるのもホンナレとの大きな違いです。改良型として、あらかじめご飯に酢をあてたり、発酵促進剤として 糀(こうじ)を加えたりするものもあります。

あゆずし(岐阜市)
3. すし・なれずし
東京 : 農山漁村文化協会, 2002.12
【EF27-H46】

岐阜市内の数軒の鵜匠宅でのみ作られているもので、魚・塩・ご飯のみを用い、約1ヶ月発酵されます。鵜匠宅では知人へのお歳暮として用いられ、一般にはほとんど出回ることはありません。

さばずし漬け(滋賀県湖北町)
4. 湖北町の伝統食・地産食 : 忘れぬうちに伝えたい / 湖北町食事文化研究会編
湖北町(滋賀県) : 湖北町食事文化研究会, 2007.10
【Y73-H3187】

湖北地方では、さばずしはおおむね行事食で、祝宴や打ち上げの際などによく食べるようです。この資料には、塩サバと酢飯を用いたなれずしの作り方が紹介されています。材料に用いられる塩サバは、かつて敦賀・木之本を通って湖北へもたらされました。
サバのなれずしは滋賀県の他の地方や、岐阜県、富山県、福井県、京都府、兵庫県、和歌山県等に広く分布していますが、作り方はその地方によって異なります。たとえば、福井県小浜市では塩抜きしたへしこ(ぬか漬けのサバ)と糀を混ぜたご飯で作ります。
(参考)関係地図<クリックすると地図が表示されます>
滋賀県で漬けられている代表的ななれずし [表]

滋賀県では、ふなずし、さばずしのほか、以下のような淡水魚を用いてなれずしが作られてきました。「琵琶湖の魚は塩漬けさえしておけば何でもおいしくたべられる」といわれているほどです。発酵期間は魚の大きさや季節によって異なるようです。
滋賀県で漬けられている代表的ななれずし

<クリックすると表が拡大されます> (資料2.『つくってみよう滋賀の味』p.43)

●イズシ

「魚+塩+ご飯+糀+野菜」で構成される発酵ずしで、北陸から東北の日本海側、及び北海道に分布(パネルA参照)しています。なれずしの一種とも、また朝鮮半島にある発酵食品との共通性が指摘されることから、なれずしとは別系統に日本へ伝わったとも考えられています。糀を加えるのは、寒い地方でも発酵がすすむように入れたのが始まりといわれています。

ハタハタずし(秋田)
5. 大潟の味食のみち / 大潟の味食のみち編集委員会編. 改訂版.
〔大潟村(秋田県)〕 : 大潟村婦人会, 1990.2
【EF27-E1243】

ハタハタは秋田県民にとって特別な魚で、長い冬の貴重な蛋白源としてさまざまな保存食に加工されてきました。このハタハタずしは秋田のお正月には欠かせない存在です。漬け込んでから完成するまで20日以上かかるため、正月の1ヶ月位前から準備をします。資料では切り身を漬ける切りずしを紹介していますが、頭を落とさないで一尾まるごと漬ける姿ずし(一匹ずし)もあります。材料や漬け方、熟成期間など、作り方は各地域、家庭によって異なります。

かぶらずし(石川)
6. かが・のと・かなざわ四季の料理 / 北国新聞社出版局編
金沢 : 北国新聞社, 1993.1
【EF27-E2229】

石川県の正月料理で、かつては裕福な家の料理であったといわれています。東北地方にみられるイズシに比べ野菜(カブ)の比重が多く、漬物に近いものといえます。この資料にはニンジンを花形あるいはせん切りにするとありますが、花形にするのは金沢市周辺のかぶらずしに特徴的で、これには加賀藩が工芸を奨励したことに由来しているという説があります。

にしんのすし(福井県敦賀市、旧三方郡)
7. ほっとするねふるさとの味 : アレンジレシピ110選 : 福井県の伝承料理再発見! / 福井県食生活改善推進員連絡協議会編
福井 : 福井県福祉環境部健康増進課, 2003.3
【Y73-H364】

正月や祭礼のご馳走です。用いる材料はニシン、塩、糀、野菜で、ご飯は加えません。材料の身欠きニシンは、かつては北前船により北海道から大量に輸入されました。宝暦14年(1764)に刊行された料理書『料理珍味集』にも「若狭ニシン鮓」として製法が紹介されていますので、そのころにはすでに知られた郷土料理だったのでしょう。
資料4.『湖北町の伝統食・地産食』のp.54-55にも同様の材料の「大根とにしんのこうじ漬け」が掲載されています。ニシンは、塩さば同様に湖北へも送られました。
一方、資料6.『かが・のと・かなざわ四季の料理』のp.202-203には、「大根ずし」が掲載されています。福井のニシンのすしに比べこちらは大根が主で、前述のかぶらずしより廉価な材料でできるため、庶民の味とされています。

◆おすしあれこれ その一 〜鮨と鮓〜

食文化研究者、篠田統(しのだ おさむ;1899-1978)氏によると、「・・・「旨」の方は、魚と塩。あるいは時に豆がはいることがありますが、いずれにしてもタンパク質と塩だけ。一方、「乍」の方は、タンパク質と塩と澱粉がはいる・・・」(『鮓・鮨・すし』p.347 ※参考文献一覧参照)とのこと。現在よく見かける「寿司」の字は、江戸時代の当て字だそうです。

 

第2章 早ずし

発酵させて酸味を出す「なれずし」とは異なり、酢で酸味をつけるのが「早ずし」です。現在、私たちが口にする多くは、この早ずしの分類に入るでしょう。

●姿ずし

仕上がりが一尾の姿になっている早ずしで、基本的に発酵期間がなく、尾頭付きが原則です。しかし昨今では頭を取ってしまったものも、「姿ずし」と呼ばれる場合が多く、ここでも「姿ずし」として扱っています。「丸ずし」「魚ずし」の名でも知られ、西日本に多く、中国・四国・九州地方の沿岸部ではごく一般的な形態です。内陸では塩サバの使用が目立ち、淡水魚では鮎ずしが際立って多いのが特徴です。

鮎の姿ずし(栃木)
8. 栃木ふるさとの味四季の味 : 作って食べよう郷土の味
宇都宮 : 下野新聞社, 1999.5
【EF27-G2463】

鮎の姿ずしといえば、長良川の鵜飼で有名な岐阜県を思い浮かべる方も多いかと思いますが、栃木県喜連川の鮎ずしは、十返舎一九の作品にも登場する名産品です。当時のものは恐らく今とは製法が異なっていたでしょうが、鮎は栃木の食文化になくてはならない存在のようです。 C. 方言修行金草鞋.第2巻(5〜8編) / 〔十返舎一九〕〔原著〕 ; 今井金吾監修. 解説:丹和浩
東京 : 大空社, 1999.10  複製および翻刻
【KG237-G11】

「常陸道中」の一幕。向かって右上の欄外に「喜連川」、左図中の看板に「名物あゆの寿し」の文字が見えます。
●棒ずし

すし飯を棒状に固め、上に魚の身を貼り付けて布巾や巻きすで成形したものをいいます。ひとつのすしには一種類の具をのせるのが主流ですが、複数の具を並べる「手綱ずし」も、棒ずしの一種といえるでしょう。

鯖ずしと手綱ずし(京都ほか)
9. 我が家でおすし : ちらしずし/巻きずし/押しずし/箱ずし/棒ずし/いなりずし
東京 : 鎌倉書房, 1991.3
【EF27-E1428】

サバの姿ずしは日本各地で見られますが、主に北陸地方と京都が有名です。同じサバずしでも、上に白板昆布を載せる大阪名物バッテラは、箱ずし(または押しずし)として区別されているようです。
●箱ずし

箱にすし飯と具を詰め、押しをかけ、一塊にしたものを抜き出して切り分けるものです。 箱ずしの前身はコケラずしです。「コケラ」とは漢字で「柿」と書き、屋根板用の薄く削り取った木片のことで、この木片で葺いた屋根を柿葺(こけらぶき)といいます。柿葺のように薄く切ったすしダネを箱詰めした飯の上に並べ、重石を載せて押したものが「柿ずし」です。江戸では寛永20年(1643)刊の『料理物語』※にその記述が見られることから、江戸では古くから箱ずし様のすしがあったと思われます。郷土料理としては、北陸と近畿以西、中部地方の濃尾平野に多く見られる形態です。
(※参考文献一覧参照)

ますずし(富山市)
10. 味のふるさと.14
東京 : 角川書店, 1978.3
【EF27-465】

今は年間を通して人気の富山名物ますずしも、昔はマスが神通川に上ってくる4月から7月の間に限り製造していました。享保2年(1717)、富山藩士吉村新八なる人物が考案したもので、8代将軍徳川吉宗に献上され、富山名物として知られるようになったと伝えられています。酢を使う点では早ずしに入りますが、丸い容器を使い、押して作る製法は、なれずしにも似ています。 田子ずし(静岡県西伊豆町田子)
11. ふるさとの食 / 西伊豆文化財保護審議会調査・編集
西伊豆町(静岡県) : 西伊豆町教育委員会, 1990.3
【GD51-E59】

ヤマミョウガの葉を敷いた寿司枠の中にすし飯を入れ、シイタケ、かんぴょうなどを砂糖醤油で煮た具をのせ、さらに上からすし飯とヤマミョウガの葉を重ねるサンドウィッチ形式の箱ずしです。船おろしなどの祝事や年忌の際に食され七五三祝いのお返しとしても作られていたそうです。静岡県内では珍しい形のすしで、江戸時代、関西方面から海を介して伝わったといわれています。ヤマミョウガの葉を使うのは田子独自のやり方で、腐り止めの意味があるようです。 ハチノコずし(岐阜東濃)
12. ぎふのすし / 日比野光敏編著
岐阜 : 岐阜新聞社, 1993.9
【EF27-E2602】

通常はジバチ(クロスズメバチ)の幼虫を使います。東濃地方では「ヘボ」と呼ばれ、佃煮風に煮たものを、春には朴葉ずし、秋には箱ずしの具にします。ハチノコといえば信州が有名ですが、そちらではあまりこうした食べ方は見られないそうです。 押しずしの箱(三重)
13. 三重県の食生活と食文化 / 大川吉崇著
東京 : 調理栄養教育公社, 2008.2
【GD51-J7】

すし箱を重ね、上部のくさびを締めて押しずしを作ります。濃尾地方以外ではあまり見られない道具だそうですが、香川県の一部でも、「カンカンずし」と称する郷土すしに同様の箱を使っています。箱の底にはハラン(葉蘭:バランともいう)の葉や竹皮を敷きます。ハランも竹皮も抗菌作用があり、昔から料理の飾りなどに使われてきました。今でもその名残が、寿司折や弁当の中に見られますね(緑色のプラスチック製の仕切り・・・あれです)。
●押しぬきずし

すし飯と具を底板のない型枠に詰めて押しをかけ、抜き出す、という点では箱ずしと同じですが、型枠に底板がないのが特徴です。箱ずしよりもサイズが小さく、抜き出した後で切り分ける必要のないものが多いようです。西日本でよく見られる形態で、単に「押しずし」と呼ぶこともあります。

物相寿司(もっそうずし) (大分県三光村 現:大分県中津市三光)
14. 大分の伝統料理 / 大分合同新聞文化センター企画編集
大分 : 大分合同新聞社, 1988.9
【EF27-E1776】

稲荷祭(2月初午)、西の宮祭(3月9日)、金比羅祭(4月10日)のほか、家族の祝い事の際に作るすしです。シイタケ、油揚げ、ゴボウ、ニンジンを炊き、すしめしに混ぜ、すし箱に詰めて押し出します。「物相(もっそう)」とは飯を盛って量を計る器のことで、米が貴重だった江戸時代、みんなが同じ量を食べられるように、と作られたのが始まりだったとか。押す作業には相当力が要るため、住民の高齢化が進んだ現在、地区での物相寿司作りは残念ながら途絶えてしまっているそうです。

◆おすしあれこれ その二 〜11月1日は“すしの日”〜

由来の一つは「新米の季節で、山海の幸がおいしい時期」だから。もう一つは歌舞伎狂言(元来は浄瑠璃ですが)「義経千本桜」。源氏に追われた平維盛が、吉野下市ですし屋を営んでいた弥左衛門のもとに逃げ込み、その娘お里と一緒になって、すし屋の弥助と改名した日が11月1日であったから、と言われています。全国すし商環境衛生同業組合連合会が1961年に制定しました。

●まぜずし

調製から食用に至るまでに「押圧」という工程をもたないものをいいます。

手こねずし(三重県伊勢志摩地方)
15. 美し国みえの食文化 / 三重県著 ; みえ食文化研究会, 三重県健康福祉部健康づくり室編
津 : 三重県, 2007.3
【Y73-H3049】

みりん醤油で漬けたカツオを青ジソやショウガと一緒に温かいすし飯に混ぜたもの。漁師が漁の合間に船上で捕れた魚と持参したすし飯とを手で混ぜて食べたのが起源と言われており、古くから祭り、正月などのお祝い事には欠かせない料理でした。現在では祝い事のときだけでなく日常的にも作られ食されています。また材料の魚はカツオが一般的ですが、他の種類の魚を使って作られることもあります。 ばらずし(岡山県)
16. 岡山の米料理 : 郷土料理から世界の米料理まで / 田口田鶴子,淵上倫子著
岡山 : 山陽新聞社, 1988.4
【EF27-E438】

正月、節句、彼岸、田植え後の祭り、盆、結婚式、出産、棟上などハレの行事の際に作られるちらしずしです。下味をつけた野菜を加えるほか、酢じめにした魚(サワラがよく使われます)を使うのが特徴です。ひっくり返してお皿に出しても具材が表に見えるように底にも具を敷きつめ、きれいな重箱に入れ近所や親類に配る習慣があります。江戸時代前期、備前岡山藩主池田光政が倹約令を公布し、「食膳は一汁一菜にする」と取り決めましたが、豊かな町民がこれに対抗して魚や野菜など食材を豊富にすし飯に混ぜ込み、汁物を添えて、「一汁一菜」としたそうです。これが具材豊かな岡山のばらずしの始まりと言われています。
●巻きずし

すし飯と具を筒状に成形し、側面を別の食材で巻きつけるものです。

飾り巻きずし(千葉県)
17. 母と子の楽しい太巻き祭りずし作り方教室 : 素敵な作品46選 オール図解・私にもできる手順の本 / 龍崎英子著
東京 : 東京書店, 1990.11
【EF27-E1541】

由来について、明確に書かれた文献は見つかっていませんが、昔、この地域で葬式の際おむすびを振舞う習慣があり、それが巻きずしに転じ、祝儀、祭りの際にも振舞われるようになり、徐々に装飾性を増していったと言われています。現在では祭り、結婚式、葬式、法要、正月、節句などの行事の際に作られています。切り口に花や文字など美しい図柄を表すこと、他の郷土料理と異なり千葉の特産物を具材に用いることに特にこだわっていないことが大きな特徴です。
●にぎりずし

すし飯と具材を手で握って押し固めるものです。

江戸前ずし(東京都)
D. 守貞謾稿 後集巻1 / 喜田川季荘編 写
【YD-寄別13-41】
E. 東京名家繁昌図録.初編 / 吉田保次郎編
東京 : 吉田保次郎, 明16.10
【YDM43846】 近デジ

F. 家庭鮓のつけかた / 小泉清三郎(迂外)著
東京 : 大倉書店, 明43.7
【YDM68789】 近デジ

G. 偲ぶ与兵衛の鮓 / 小泉清三郎著 吉野昇雄〔解説〕
東京 : 主婦の友社, 1989.8
【W435-17】

文化年間(1804〜1818)のころから少しずつ握りずしが作られ始めていましたが、流行するにはいたりませんでした。それを文政年間(1818〜1830)のころ、華屋与兵衛もしくは堺屋松五郎が現在のような形に完成させたと言われています。江戸時代の風俗を記した『守貞謾稿』によると、江戸前ずしは屋台で提供される場合もありましたが、華屋与兵衛の与兵衛ずしや堺屋松五郎の安宅松のすしなど有名なすし屋は、屋台ではなく立派なお店を構えていたそうです。それらは残念ながら現在まで残ってはいませんが、明治時代の東京の有名な商店の銅版画を集めた『東京名家繁昌図録』に往時の姿を見ることができます。昔も今も職人が作るのが一般的なため、家庭向けの料理本は少ないのですが、明治時代に華屋与兵衛の子孫によって書かれた『家庭鮓のつけかた』には、握り方やネタ選びのコツなどが書かれております。またその復刻版である『偲ぶ与兵衛の鮓』扉絵では、明治期の江戸前ずしの姿をカラーで垣間見ることができます。

柿の葉寿司、朴の葉寿司(奈良吉野地方、和歌山県紀ノ川上流)
18. 大和の食文化 : 日本の食のルーツをたずねて / 冨岡典子著
奈良 : 奈良新聞社, 2005.9
【GD51-H84】

奈良・和歌山の土産物として一年中売られていますが、本来は家庭で夏祭りのご馳走として作られるものです。握ったすし飯とサバの切り身を殺菌効果があると言われる柿(朴)の葉でくるみ、桶に敷き詰め重しをかけ一昼夜おいて食べます。江戸時代に重い年貢を課せられた紀州の漁師が生計を助けるため、熊野灘でとれた夏サバを塩で締め、吉野川筋の村に売りに出かけるようになりました。その時期が吉野川筋の村の夏祭りの時期と重なったため夏祭りのご馳走となったとも言われております。現在ではサバ以外にもサケやコダイ、アナゴなどさまざまな魚を使って作られています。

謙信ずし(長野県飯山地方)
19.おふくろの味ふるさとの味 / 石坂里子著
長野 : 信濃毎日新聞社, 1996.1
【EF27-G390】

海に面していない長野県でも山の幸を用いてすしが作られています。笹の葉の上にすし飯をのせ、その上に味噌や醤油で味付けしたゼンマイなどの山菜やシイタケの煮物、錦糸卵、紅ショウガなどをのせます。川中島合戦への道中にあった上杉謙信に、飯山地方の住民が献上した野戦食に由来すると言い伝えられています。現在はハレの行事の際に作られています。

●おからずし

ご米を節約するため、ご飯の代わりにおからを用いたものです。

あずまずし(広島県因島地方)
20. 広島ふるさと味探検 / 広島テレビ編
広島 : 広島テレビ放送, 1992.3 発売:広島県教科用図書販売(尾道)
【EF27-E1977】

因島では昔、米が十分に採れなかったため、手に入りやすいオカラを米に見立てておすしを作りました。オカラに細かく刻んだ野菜を混ぜ合わせ酢で味付けし、ママカリ、コノシロなどの小魚の酢漬けをのせます。昔は祭りや正月の際に作られ大勢に配られたそうです。

◆おすしあれこれ その三 〜文学作品の中のすし〜

すしは、粋、江戸情緒、庶民の憧れなどを象徴する小道具として文学作品の中にもしばしば登場します。ここではすしが登場する文学作品をいくつかご紹介します。

●仁勢物語(作者不詳)

仁勢物語 / 小林祥次郎編
東京 : 勉誠社, 1984.3
KG216-32】

江戸時代に作られた、『伊勢物語』のパロディです。その中に、「をかし、生熟(なまな)りを漬けける女ありけり。」で始まる項があります。

●義経千本桜鮓屋の段(竹田出雲、三好松洛、並木千柳)

浄瑠璃傑作集 / 竹豊散人編
大阪 : 博多成象堂, 明43.12
【YDM88251】 近デジ

人形浄瑠璃、歌舞伎の演目。現在は作られなくなってしまった釣瓶ずしというアユのなれずしのお店が物語の舞台となる段があります。このすしは釣瓶型の桶で発酵させることが特徴でした。歌川豊国の『俳優似顔東錦絵』にこの演目を描いたものがあり、背景に釣瓶ずしの桶が描かれています。

俳優似顔東錦絵 / 歌川豊国
【寄別2-4-1-1】 国立国会図書館デジタルコレクション

俳優似顔東錦絵国立国会図書館デジタルコレクションより

 

 

 

 

 

 

 

●陰翳礼讃(谷崎潤一郎)

谷崎潤一郎全集 第20巻
東京 : 中央公論社, 1982.12
【KH592-12】

吉野へ遊びに行った友人から柿の葉ずしの作り方を聞き、試しに作った著者は「なるほどうまい。鮭の油と塩気がいい塩梅に飯に滲み込んで…」と賞賛し、「今年の夏はこればかり食べて暮らした」そうです。作り方が詳しく書かれています。また、サバではなくサケを用いています。

●小僧の神様(志賀直哉)

小僧の神様 他十編 / 志賀直哉著 改版
東京 : 岩波書店, 1967
【913.6-Si283k-(s)】

屋台のすし屋に小僧が入ってきて一度すしを手に取るが、値段を聞いて手に取ったすしを置き店から出て行ったのを、偶然著者が見て着想を得、書いた短編小説です。すしという題材を通して主人公Aの細やかな心情が描かれています。

●冷笑(永井荷風)

冷笑 / 永井荷風著
東京 : 岩波書店, 1951
【913.6-N128r2】

すしの話題が出てくる場面は少ないですが、主人公とその友人が東京の名物はてんぷらと握りずしで、すしを食する環境は魚河岸の朝が良いという会話があります。

●鮨(岡本かの子)

岡本かの子全集 第4巻 / 岡本かの子著 復刻
東京 : 日本図書センター, 2001.2
【KH464-G4】

すし屋の娘ともよが主人公です。また、湊という登場人物の偏食を治すために彼の母が自宅の軒先で自らすしを握る場面があります。すしネタのイカを「象牙のような滑らかさがあって、生餅よりよっぽど歯切れがよかった」と表現するように、すしの味の描写が細やかです。

 

主要参考文献

 

<全体> (五十音順)
ザ・すし : 知らなきゃ損するすしの話 / 全国調理師養成施設協会編;大前錦次郎著
東京 : 調理栄養教育公社,1985.4
【EF27-E1934】
鮓・鮨・すし : すしの事典 / 吉野昇雄著
東京 : 旭屋出版, 1991.3
【EF27-E1529】
すし通 / 永瀬牙之輔著
東京 : 四六書院, 昭和5
【602-1】
すしの事典 / 日比野光敏著
東京 :東京堂出版, 2001.5
【GD51-G156】
すしの本 : 新装復刻版 / 篠田統著
東京 : 柴田書店, 1993.3
【EF27-E2077】
日本の味覚すし : グルメの歴史学 特別展 / 岐阜市歴史博物館編
岐阜 : 岐阜市歴史博物館, 1992.7
【EF27-E1919】
ふなずしの謎 / 滋賀の食事文化研究会執筆・編

彦根 : サンライズ印刷出版部, 1995.9
【GD51-G11】
<第1章> (解説順)
魚醤とナレズシの研究 : モンスーン・アジアの食事文化 / 石毛直道,ケネス・ラドル著
東京 : 岩波書店, 1990.4
【G185-E16】
県の魚ハタハタ : 平成14年12月6日制定
秋田 : 秋田県農林水産部水産漁港課, [2003]
【Y121-H1851】
<第2章> (解説順)
江戸時代料理本集成 : 翻刻.第1巻 [料理物語 他] / 吉井始子編
京都 : 臨川書店, 1978.10
【EF27-540】
お米紀行 : 郷土の味と文化を訪ねて / 石原健二著
東京 : 三樹書房, 1992.9
【EF27-E2073】
料理山海郷 : 江戸時代の珍味佳肴を知る / 博望子著 原田信男訳
東京 : 教育社, 1988.8
【EF27-E399】
食の風俗民俗名著作集成 第2巻/ 篠田統
東京 : 東京書房社, 1985.3
【GD51-126】
偲ぶ与兵衛の鮓 / 小泉清三郎著 吉野昇雄[解説]
東京 : 主婦の友社, 1989.8
【W435-17】
古事類苑 / 神宮司庁古事類苑出版事務所編
東京 : 神宮司庁, 明29-大3
【YDM101840】 近デジ
三重の郷土食「てこねずし」--地域別による検討 / 岡野節子 堀田千津子
鈴鹿国際大学短期大学部紀要25巻2005 p.1-7
【Z22-1561】
てこね : 志摩地方
伊勢志摩 19巻1号 通号108号 1999年4/5月 p.24-25
【Z8-3454】
千葉の巻きずし--その現状と伝承についての一考察 / 川嶋由美 衛藤君代
実践女子大学家政学部紀要 通号22号 1985.6 p.89-97
【Z6-625】
<ウェブサイト>

大分合同新聞の動画サイト!oitatv.com おおいた逸品;甘くてさわやか 物相寿司(2005年4月16日掲載)
【URL】 http://www.oitatv.com/ippin/index.php?id=58外部サイトへのリンク

 

 

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