東亜海運株式会社設立要綱

昭和13年12月16日 閣議決定

収載資料:現代史資料 9 みすず書房 1964.9 pp.646-649 当館請求記号:210.7-G29

第一 方針
昭和十三年十二月十六日閣議決定の趣旨に基き対支海運強化に関する暫定的措置として東亜海運株式会社を設立す。
第二 要綱
一、名称  東亜海運株式会社
二、国籍  日本法人とし本店を東京に置く。
三、事業
(イ) 日支間、支那沿岸、支那内河並に支那比律賓間、支那南洋間等支那外国間に於ける海運業
(ロ) 中南支主要港並に天津港、塘沽港に於ける碼頭倉庫業(天津港及塘沽港に於ては内地船舶会社の出資したる碼頭倉庫に限る)
(ハ) 前各号に附帯する事業並に関係事業に対する投資
四、資本
(イ) 資本総額  約一〇〇、〇〇〇、〇〇〇円
内訳
現金出資約  一五、〇〇〇、〇〇〇円
現物出資約  八五、〇〇〇、〇〇〇円(別表参照)
(ロ) 株式は全額払込とす。
(注)(一) 本会社は発起設立に依るものとす。
(二) 資本総額は出資財産の評価を俟ちて確定するものとす。
(三) 現金出資は関係各社の現物出資額の割合に応じ之を割宛つるものとす。
五、役員
本会社に社長一名、副社長、取締役及監査役若干名を置くものとす。
六、政府の助成
本会社の経営する主要航路に対しては航路補助金を支給すると共に本会社が航路の拡充並に海陸施設の整備の為必要とする資金の一部に対し低利融通の途を講ずるものとす。
七、政府の監督
本会社の役員の選任、定款の変更、事業計画其の他事業上の重要事項に付ては予め政府の承認を受けしむるものとす。
備 考
一、本会社の経営すべき支那内河航路は差当り白河(天津迄)揚子江、珠江及西江に於けるものとす。
二、天津下流(塘沽沖錨地を含む)に於ける艀運航の経営に関しては別途処理せらるる所に依るものとす。
三、本会社に出資せらるる海陸施設にして北支主要港湾に在るものに付ては差当り本会社に於て経営するも将来之が本格的経営主体の決定に応じ調整せらるるものとす。

別 表
一、出資予定航路
長崎上海線   日本郵船
横浜上海線   同  右
阪神上海線   同  右
阪神青島線   同  右
大阪商船
原田汽船
京浜青島線   川崎汽船
山下汽船
神戸天津線   近海郵船
大阪商船
京浜天津線   近海郵船
大阪商船
川崎汽船
阪神天津線   三井物産
川崎汽船
岡崎汽船
西鮮天津線   阿波共同
仁川山東線   同  右
大連青島線   同  右
大連芝罘線   同  右
高雄上海線   大阪商船
高雄天津線   同  右
基隆厦門線   同  右
基隆広東線   同  右
基隆香港線   同  右
支那沿岸航路  日清汽船
揚子江航路   同  右
二、前号各航路に付随する土地、建物
三、第一号の各会社の所有に係る支那に於ける海陸施設(対外航路に専用する小蒸汽船等を除く)
四、上海内河汽船株式会社の株式にして内地船舶会社の所有に係るもの。
(備考)
未占領地域内に於ける土地、建物及海陸施設は前記内地船舶会社の所有に係るものと雖も差当り之を本会社に出資せしめざるものとす。
諒解事項(其の一)
一、上海に於ける碼頭、倉庫の出資に関しては対外航路船の上海寄港に当り適当なる碼頭及之に付随する倉庫の使用並に之が使用料に付外国船との対抗上特に有利ならしむる方針の下に本会社と当該設備出資会社との間に契約を締結し主管庁の承認を受けしむるものとす。
二、本邦に於て拿捕又は抑留したる支那側船舶並に占拠したる支那側海陸施設は支障なきものに限り特定条件の下に本会社をして使用せしむる如く措置するものとす。
三、支那に於ける産業開発計画の実施に伴ふ物資は主として本会社をして国策的見地に於て円滑且可及的低廉に運送せしむる如く措置するものとす。
四、本会社の監督に当りては関係庁間緊密に連繋を保持するものとす。
五、北支主要港湾の本格的経営主体に関しては別途研究審議せらるべきものとす。
諒解事項(其の二)
支那に於ける本邦航権を確立すると共に在支航運事業を東亜新秩序に即応する如く調整する為本会社の設立と併行し左記要領に依り維新政府の特殊法人たる日支合弁の航業会社(以下単に同社と称す)を速に設立すると共に之が業務に付ては本会社と緊密なる関係を設定し克く之が連環的一翼たらしむる如く諸般の措置を講ずるものとす。

(一) 同社の事業は差当り揚子江を中心とする各種水陸施設の経営及地方的航運事業並に其の付帯事業とし本会社の事業に対する培養的勢力たらしむるものとす。
(二) 招南局所属又は支那人所有の船舶及漢口(漠口を含む)より下流に在る各種水陸施設にして可能なるものは之を同社の経営に移管するものとす但し右船舶及各種水陸施設にして軍事上会社経営に移管し得ざるものは適当の時期迄現状の儘とす。
(三) 本邦側よりは本会社及中支那振興株式会社其の他より所要の現金又は船舶を同社に出資するものとす。
(四) 同社に対する本会社及中支那振興株式会社の統制其の他諸般の関係に付ては日支両国当事者間に所要の取極を行ふものとす。
(五) 同社に対する軍事上の要求及監督に関しては別に定むる所に依るものとす。
(六) 招商局所属財産に関する借款処理に関しては別に定むるものとす。
(七) 同社の経営に移管せらるる招商局所属財産が帝国臣民の損害補償等の目的として処理する如く決定せられたる場合は之に適合する措置を講ずるものとす。
諒解事項(其の三)
本要綱の実施に当りては資金、物資の関係に付左記に依るものとす。

一、本事業遂行に要する諸物資は能ふ限り之を本邦に於て調達するものとす。
二、船舶の建造及海陸施設の整備の為必要とする物資は能ふ限り優先的に之を配当するものとす。
三、外国資本(支那資本を含む)の買収の要あるときは契約締結前に日本政府の承認を受けしむる如く措置するものとす。