北支那交通株式会社設立要綱

昭和14年4月14日 閣議決定

収載資料:国立公文書館所蔵公文別録 80 ゆまに書房 1997.5 245-252 当館請求記号:YC-98

第一 方針
北支那ニ於ケル鉄道、自動車運輸、水運等ノ諸事業ヲ総合的ニ経営セシメ其ノ発達統制ヲ図リ以テ国防用兵上ノ要機タラシムルト共ニ経済開発ノ根幹タラシメ日、満、支三国ノ共存共栄ノ実現ヲ期スル為速ニ北支那交通株式会社ヲ設立ス
第二 要領
一、名称(仮称)
華北交通股□有限公司(訳名、北支那交通株式会社)
二、目的
(1)鉄道事業ノ経営
(2)自動車運輸事業ノ経営
(3)内国水運事業ノ経営
(4)前各号ニ附帯スル事業ノ経営
本会社ハ前各号ノ事業ト関連ヲ有スル事業ニ投資ヲ為シ又ハ政府ノ認可ヲ受ケ之カ経営ヲ為スコトヲ得
国有鉄道及他政権ヨリ委任ヲ受ケタル鉄道並ニ其ノ附帯事業ハ別ニ定ムル所ニ依リ本会社ヲシテ之カ経営ニ当ラシムルモノトス
三、資本金
参億円
内訳
中華民国臨時政府    三千万円
北支那開発株式会社   一億五千万円(現物出資一億五千万円)
南満洲鉄道株式会社   一億二千万円
但シ南満洲鉄道株式会社出資額中二千万円ハ適当ノ時期ニ一般ニ開放スルモノトス
現物出資ハ全額払込、現金出資株ハ第一回五分ノ一ノ払込トス
四、国籍及本店ノ所在地
臨時政府ノ特殊法人トシ本店ヲ北京ニ置ク
五、役員
本会社ノ役員ハ総裁一人、副総裁二人、理事五人以上、監事三人以上トシ其ノ任期ハ総裁及副総裁ハ五年、理事ハ四年、監事ハ三年トス
六、特典
政府ハ本会社ニ対シ左ノ特典ヲ付与スルモノトス
(1)会社ノ財産、所得及営業、会社ノ為ス契約、登記及登録並ニ会社ノ事業ニ要スル物件ニ対スル租税其ノ他一切ノ公課ノ免除
(2)事業経営上必要トスル土地其ノ他ノ物件若クハ権利ノ収用、使用又ハ同種事業ノ買収等ニ関シ必要ナル一切ノ特権又ハ便益
(3)事業ニ属スル土地其ノ他ノ物件並ニ権利ニ対スル徴収免除
(4)専用電信、電話ノ施設
(5)株式全額払込前ニ於ケル資本ノ増加
(6)払込株全額ノ三倍迄ノ社債発行
七、政府ノ監督
政府ノ認可事項ハ概ネ左ノ通トス
(1)定款中重要ナル事項ノ変更
(2)合併並ニ解散ノ決議
(3)総裁、副総裁ノ選任及解任
八、借款ニ対スル処置
鉄道借款ニ対シテハ将来政府ト債権者トノ間ニ借款整理協定ノ成立スル事アルヘキヲ予期シ本会社ヨリ政府ニ対シ別ニ定メラレルヘキ金額ヲ納付スル如ク措置スルモノトス

備考
(1)政府ハ本会社以外ニ主要ナル鉄道ノ建設及経営、主要路線ニ於ケル自動車運輸事業並ニ主要内国水運事業ノ経営ヲ認メサル如ク措置スルモノトス
(2)天津下流ニ於ケル水運事業ハ別途処理セラルル所ニ依ルモノトス
(3)本会社ノ自動車運輸事業ニハ原則トシテ都市(其ノ近郊ヲ含ム)ニ於ケル乗合自動車事業ノ経営ヲ包含セサルモノトス但シ本会社ノ地方交通及都市連絡自動車ノ都市乗入レハ此ノ限ニ在ラス
(4)本会社ノ経営スル内国水運事業ハ主要河川ニ於ケル小蒸気船、発動汽船並ニ曳船ニ依ル運輸事業ノ程度トス
(5)本会社ノ専用通信施設ニ関シテハ華北電信電話株式会社ト緊密ナル連携ノ下ニ之ヲ実施スルモノトス
(6)本会社ハ之ヲ急速ニ設立セシムル為発起設立ニ依リ成立セシムルモ将来適当ナル時期ニ於テ一般国民カ本会社ノ株主タリ得ルノ途ヲ拓クモノトス、其ノ際出征者及其ノ家族等ニ対シ特別ノ考慮ヲ払フモノトス
(7)本会社ノ従業員ノ採用ニ就テハ出征者及其ノ家族等ニ対シ事情ノ許ス限リ特別ノ考慮ヲ払フモノトス

諒解事項(其一)
一、本会社ニ対スル日本政府ノ国防上ノ要求
北支那開発株式会社法第二十五条ニ依ル日本政府ノ開発会社ニ対スル命令ニ基キ国防上必要トスル事項ヲ本会社ヲシテ実施セシムル件ニ付テハ右規定ノ趣旨ニ則リ別途関係庁間ニ於テ研究ノ上決定スルモノトス
二、本会社ト開発会社トノ関係
(1)本会社ノ総裁 副総裁ノ選任及解任ニ付テハ開発会社総裁ノ承認ヲ得シムル如ク措置スルモノトス
(2)本会社ノ定款ノ変更、利益金ノ処分、事業計画其ノ他事業上ノ重要事項ハ予メ開発会社ノ承認ヲ得シムル如ク措置スルモノトス
諒解事項(其二)
北支那交通株式会社設立要綱実施ニ当リテハ資金物資ノ関係ニ付左記ニ依ルモノトス

一、本邦側ノ引受株式ノ払込ハ本邦ニ於テ之ヲ為シ資金必要ノ都度之ヲ現地ニ送金スル様措置スルモノトス
二、本事業遂行ニ要スル諸物資ハ能フ限リ之ヲ本邦ニ於テ調達スルモノトス
三、本邦ヨリ既ニ積出済ノ貨物ノ代金ノ決済ハ之ヲ本邦ニ於テ為スモノトス
四、外国資本(支那資本ヲ含ム)ノ買収ハ極力之ヲ避ケ現物出資ノ方法ニ依ルコト、已ムヲ得ス買収ノ要アルトキハ契約締結前ニ日本政府ト協議スルモノトス
五、起業費、運転資金ノ送金及設備用物資ノ無為替輸出ニ関シ今後ノ為替情勢及物資需給関係等ニヨリテハ当初ノ資金物資計画ヲ変更スル要アルヘシ