経済新体制確立要綱

昭和15年12月7日 閣議決定

収載資料:商工政策史 第11巻 通商産業省 商工政策史刊行会 1964.3 pp.445-447 当館請求記号:509.1-Tu783s

第一、基本方針
日満支ヲ一環トシ大東亜ヲ包容シテ自給自足ノ共栄圏ヲ確立シ、其ノ圏内ニ於ケル資源ニ基キテ国防経済ノ自主性ヲ確保シ官民協力ノ下ニ重要産業ヲ中心トシテ総合的計画経済ヲ遂行シ以テ時局ノ緊急ニ対処シ国防国家体制ノ完成ニ資シ依ツテ軍備ノ充実国民生活ノ安定国民経済ノ恒久的繁栄ヲ図ラントス
而シテ之ガ為ニハ (一)企業体制ヲ確立シ資本、経営、労務ノ有機的一体タル企業ヲシテ国家総合計画ノ下ニ国民経済ノ構成部分トシテ企業担当者ノ創意ト責任トニ於テ自主的経営ニ任ゼシメ其ノ最高能率ノ発揮ニ依ツテ生産力ヲ増強セシメ (二)公益優先、職分奉公ノ趣旨ニ従ツテ国民経済ヲ指導スルト共ニ経済団体ノ編成ニ依リ国民経済ヲシテ有機的一体トシテ国家総力ヲ発揮シ高度国防ノ国家目的ヲ達成セシムルヲ要ス
本要綱ノ実施ニ当リテハ現下ノ時局ニ鑑ミ其ノ緊急ナルモノニ重点ヲ置キ必要ニ応ジ逐次之ヲ実施スルモノトシ生産力ノ低下、配給ノ不円滑ヲ生ズルコトナク民心ノ不安ヲ来スコトナキヲ期ス
尚本体制ノ整備ニ即応シテ関係行政機構及其ノ事務ノ再編成ヲ行フ

第二、企業体制
企業体制ヲ確立シ各箇ノ企業ヲシテ国家目的ニ従ヒ其ノ創意ト責任トニ於テ之ヲ経営セシメ生産ノ確保増強ヲ期ス
一、企業ハ民営ヲ本位トシ国営及国策会社ニ依ル経営ハ特別ノ必要アル場合ニ限ル
二、企業ハ其ノ性質ニ依リ一定ノ基準ニ従ヒ之ガ設立等ニ付必要ニ応ジ制限ヲ加フ
三、企業ハ其ノ性質ニ依リ一定ノ基準ニ従ヒ生産計画並ニ技術的見地ヨリ見テ之ヲ分離結合セシムルコトヲ得
四、中小企業ハ之ヲ維持育成ス但シ其ノ維持困難ナル場合ニ於テハ自主的ニ整理統合セシメ且其ノ円滑ナル転移ヲ助成ス
五、企業ハ国家的生産増強ニ寄与セシメ又其ノ恒久的発展ヲ遂ゲシムル為適当ナル指導統制ヲ加フ
イ、主要物資ノ価格ヲ公定スルニ当リテハ中庸生産費ヲ基礎トシ適正利潤ヲ計上ス
ロ、国民経済ノ秩序保持ニ障害アル投機的利潤及独占的利潤ノ発生ヲ防止スルト共ニ適正ナル企業利潤ヲ認メ特ニ国家生産ノ増強ニ寄与シタル者ニ対シテハ其ノ利潤ノ増加ヲ認ム
ハ、企業利益ノ分配ニ当リテハ適当ナル制限ヲ加フルモ其ノ超過部分ハ公債其ノ他ヲ以テ留保シ一定条件ニ従ヒ一定期間後ニ於テ処分スルノ途ヲ拓ク
ニ、発明発見ニ依リ国家生産ノ増強ニ寄与シタル者ニ対シテハ特別ナル報奨ノ途ヲ講ズ
ホ、技術ハ之ヲ公開スルノ途ヲ拓キ其ノ優秀ナルモノニ対シテハ適当ノ報奨ヲ与へ以テ其ノ進歩ヲ促進ス
ヘ、企業ノ設備更新ヲ容易ナラシメ其ノ他企業ノ基礎ヲ強固ナラシムル為償却ヲ強化ス
ト、企業ノ国家的生産増強ニ対スル寄与ニ応ジ重点的ニ其ノ拡充発展ヲ助成ス
六、農業水産業経営ノ企業体制ニ付テハ別途之ヲ考慮ス
第三、経済団体
一、経済団体組織
イ、重要産業部門ニ付テハ企業及組合ヲ単位トシ同一業種ニ属スル業者又ハ同一物資ニ関スル業者ヲ網羅スル業種別又ハ物資別経済団体ヲ組織ス
其ノ基本条件左ノ如シ
(1) 経済団体ハ之ヲ特殊法人トス
(2) 経済団体ハ業者ノ推薦ニ基キ政府ノ認可スル理事者指導ノ下ニ之ヲ運営ス
ロ、其ノ他ノ産業ハ前項ニ準ジ必要ニ応ジ業種別又ハ地域別系統団体ニ組織ス
ハ、外地ノ企業ハ外地各地域ニ於テ前各項ニ準ジ夫々経済団体ヲ組織ス但シ内地トノ一元的統制ヲ特ニ必要トスルモノニ付テハ全国的統制ニ付適当ナル措置ヲ講ズ
ニ、経済団体ヲ組織スルニ付特ニ留意スベキ事項左ノ如シ
(1) 経済団体ノ編成ニ当リテハ重要ナルモノヨリ逐次必要ノ順序ニ依リ之ヲ組織ス
(2) 軍事上特ニ必要アル企業ニ付テハ別途之ヲ考慮ス
(3) 全産業ヲ統轄スル最高経済団体ハ必要アリト認メタルトキニ於テ之ヲ設置ス
二、経済団体ノ職能
イ、重要産業経済団体ノ職能左ノ如シ
(1) 政府ノ協力機関トシテ重要政策ノ立案ニ対シ政府ニ協力スルト共ニ実施計画ノ立案及其ノ計画実行ノ責ニ任ジ且必要アル場合ニ於テハ政府ニ意見ヲ具申ス
(2) 前項ノ計画実行ニ付下部経済団体及所属企業ノ指導ニ任ズ
(3) 必要ニ応ジ生産、配給等経営ノ実績調査ヲ為スト共ニ生産品ノ品質規格ノ検査ノ衝ニ当リ下部経済団体ヲ監督ス
(4) 共同計算其ノ他ノ方法ニ依リ犠牲事業等ニ対シ共助ノ実ヲ挙ゲ産業ノ発展ニ資ス
ロ、其ノ他ノ団体ノ職能モ概ネ右ニ準ズ
三、政府ノ監督及大政翼賛会トノ関係
イ、政府ハ経済団体ヲ指導監督ス
経済団体ノ整備ニ伴ヒ其ノ運営ハ之ヲ出来得ル限リ自主的ナラシメ指導監督ハ大綱ニ止ム
ロ、政府ハ経済団体ノ組成発達ヲ図ル為大政翼賛会ト協力ス
四、農林水産業ニ関スル経済団体組織ニ付テハ別途之ヲ考慮ス