主要食糧の集荷および配給制度要綱

昭和22年11月28日 閣議決定

収載資料:食糧管理史 各論2 食糧管理史編集委員会 食糧庁 1970.4 pp.431-436 当館請求記号:DM173-3

目的
主要食糧の集荷および配給の確保は,国民生活の安定および産業再建の基盤である。政府は,先にその供出制度を根本的に改善するため,農業生産の調整および主要食糧の供出制度要綱を決定し,これに基いて臨時農業生産調整法案を国会に提出し,生産および供出割当の合理化,農民の生活および供出意欲の昂揚を図ることとしたのであるが,更に流通秩序確立対策要綱に基き,且つ経済民主化の一般的方針に従って主要食糧の集荷から配給にいたるまでの全流通機構を改革し適確な集荷および配給の実施により,日本経済の民主的な再建を速かに招来しようとする。
方針
1 農業協同組合法の施行に伴い,従来の独占的な農業会機構を排除して,主要食糧の集荷機構を民主化すると同時に供出の完遂を目途としてその株序化を行い,必要な集荷統制を行う。
2 配給機構の整備強化のため,地方食糧営団,日本甘藷馬鈴薯株式会社および日本澱粉株式会社を解体し,新たに政府機関として食糧配給公団を設置する。
3 現行商工協同組合法が経済民主化の方向に即しないものが少くないのに鑑み,従来全国的商工協同組合が政府の下に実質上一元的に行っていた製粉,精麦等主要食糧の加工に関する事務及び輸入食糧の国内輸送に関する事務を排除して政府自らこれを行うこととし,これに必要な政府機構の整備を図る。
4 その他,切符制度(通帳制度)を拡充する等の措置により,主要食糧の闇取引,横流れを絶滅し,配給の適確を図る。
領要
1 集荷機構の整備
(1)買入取扱業者の指定
1 農業者(農家世帯主をいう。以下同じ。)の委託により,主要食糧を,政府に売り渡す業を営む者(以下指定業者という。)の指定を受けるための申請をすることができる者は,左に掲げるものとする。
(イ)農業協同組合(出資組合であるものに限る。)
(ロ)その住所または営業所の所在する市町村の一において,原則として100人以上の農業者から,主要食糧の政府売渡を委託する旨の予備登録を受けた者(以下取扱者という。)
2 農林大臣は,予め都道府県知事と協議の上,指定業者指定申請書に基き,金融,保管,輸送その他業務に必要な施設の状況,予備登録農業者数,農業者の分布状況等に関し一定の基準を定め,指定業者の指定を行う。
第1項の農林大臣の権限は,必要により食糧事務所長に委任する。
同一の市町村の区域内において指定業者指定の申請をした2つ以上の農業協同組合または取扱者が前項の基準に合致するときは,そのいずれに対しても指定業者の指定を行う。
3 指定業者の事業区域は,農業協同組合については原則としてその事業区域,取扱者については郡を超えない範囲とする。
4 指定業者の指定は,農林大臣が,当該者に指定業者票を交付することによって,これを行う。
農林大臣は,前項の指定を行うに当って市町村農業調整委員会の意見を求めることがある。
前2項の農林大臣の権限は,食糧事務所長に委任する。
5 指定をされなかった指定業者指定申請者は,一定の期間内に経済安定本部総裁に不服の申立をすることができる。
(2)登録(予備登録および本登録)
1 農業者は,この要綱による制度を実施した場合における当初の指定業者を選定するため,農林大臣の定める期間内に,農業協同組合または取扱者に対し予備登録をしなければならない。
2 農業者が,予備登録をした農業協同組合または取扱者が,指定業者の指定を受けたときはその者の予備登録を本登録とし,当該農業協同組合または取扱者が指定業者の指定を受けなかったときは,その者は農林大臣の定める期間内に指定業者となった者に更めて本登録をしなければならない。
3 農業者は,米麦(雑穀を含む。)およびいも類の2種類別に予備登録または本登録をしてその他の種類別によっては登録先を異にすることはできない。
4 農業者は,その登録先を原則として毎年3月および9月の2回に限り変更することができる。
5 農業者の登録先の変更によって,農業協同組合または取扱者が指定業者の具備しなければならない条件を欠くにいたったときは,農林大臣は,その指定を取消すことができる。
6 農業者は,その本登録をした指定業者以外の者に主要食糧の売渡の委託をすることができない。
(3)指定業者の業務に関する指導監督
1 農林大臣は,集荷業務を適正に行わせるため必要があると認めるときは指定業者に対し,集荷に関し必要な事項を指示しまたは業務に関する報告を命ずることができる。
2 指定業者は,正当な理由がなくて,その者に本登録をした農業者よりの売渡の委託を拒むことができないものとし,且つ右農業者よりの委託は公正な条件でこれを受けなければならない。
3 指定業者が,集荷業務に関し法令に違反しまたは業務上不適格と認められる事由の発生したときは,農林大臣は指定業者の指定を取り消すことができる。
(4)本登録をしない農業者から買入農業者が特別の事情により指定業者に本登録をしないときは,政府に直接売り渡すことができる。
(5)主要食糧の買入代金の支払方法
1 食糧検査員は,指定業者から主要食糧を受入れたときは,その売渡を委託した農業者ごとに,その売渡した主要食糧の代金を請求し得る証票を発行し,当該農業者に交付する。
2 右の証票の交付を受けた農業者は,その選定する農業協同組合その他の金融機関から,その証票と引換えに売渡主要食糧の代金支払をうけられるような措置を講ずる。
3 農業者に対する代金の支払方法は,農業者がその選定する金融機関において有する自由預金口座に対する振替払の方法によるものとする。
4 政府はその買入代金の支払について農林中央金庫をして代理させることができる。
(6)農業協同組合連合会の集荷および代金支払業務に関する措置
指定業者の指定を受けた農業協同組合は,主要食糧の政府に対する売渡または売渡代金の受領を,その加入する連合会を通じて行うことも差支えないものとする。
(7)その他
1 現品の受渡は,何れの経路を通ずる場合を問わず,政府の指定する倉庫または場所渡でこれを行う。
2 政府は,指定業者に関して,その取扱数量に応じ一定の手数料を支払う。
3 主要食糧の保管用倉庫の拡充およびその用途転換の防止について必要な措置については,別途これを講ずる。
4 集荷を行う業者の多元化により政府の主要食糧の買入事務が複雑化するに伴い,食糧管理行政機関を整備する。
5 この制度実施の際現に存する市町村農業会は,その解散に至るまでは,指定業者とみなすものとし,特に昭和22年産米,雑穀および甘しょについては,機構の切替によりその集荷が不円滑になることを最少限度に止めるようにする。

2 食糧配給公団の設立
(1)食糧配給公団(以下公団という。)は昭和23年1月1日を目途として設立する。
(2)公団の基本金は,8千万円とし,政府が全額出資する。
公団の運営資金は,必要に応じ復興金融金庫から借り入れるものとする。
(3)公団の本部は,東京都に置き,これに総裁官房の外総務,配給業務,いも類,澱粉,監査等の部局を設ける。
各都道府県に支部を置き,前項に準じ必要な部課を設ける。
(4)公団の役職員は官吏その他の政府職員とし,官吏に関する一般の法令に従うとともに,主要食糧の加工,保管若しくは輸送を行う会社の株式を所有し,またはこれ等の業務に従事することはできない。
(5)公団は,経済安定本部総務長官の定める食糧配給の基本計画に基き,農林大臣の定める実施計画に従い,その監督下に左の業務を行う。
1 主要食糧の買入および売渡
2 主要食糧の保管,搗精または輸送
3 前2号に付帯する業務
即ち,食糧管理特別会計より主要食糧を買い取り,これを消費者に配給するために必要な業務を行う。
(6)公団の人件費および事務費は国庫の負担とする。
公団は,前項により,国庫の負担する人件費および事務費に相当する剰余金を生ずるよう経理しなければならない。
(7)公団の総合配給業務,いも類取扱業務および澱粉取扱業務に関してはそれぞれ別個に経理する。
(8)農林大臣は,原則として,公団の行う都道府県内の一般総合配給に関する業務に限り,その指導監督権を当該都道府県知事に委任することができる。
(9)地方食糧営団,日本甘藷馬鈴薯株式会社および日本澱粉株式会社は、公団設立に伴い解散し,その役職員は原則として公団に吸収する。
(10)公団設立の際における地方食糧営団の赤字については,価格平衡資金積立金の繰入および国庫からの補給金によって補填する。
日本甘藷馬鈴薯株式会社の剰余金は,公団に引き継ぐ。
日本澱粉株式会社の赤字は,公団設立後の澱粉取扱手数料から補填する。
(11)公団は昭和24年3月31日または経済安定本部総務長官の命令に因って解散する。
(12)その他公団の組織については,他の配給公団法の例による。

3 主要食糧の加工および輸入食糧の取扱に関する政府機構の整備
(1)製粉,精麦等の主要食糧加工関係団体が行って来た統制権能は,政府にこれを回収し,食糧管理局は,個々の加工業者に対し,直接加工を委託することとする。
右に伴い,原料割当を適正に行い,原料在庫高,原料および製品の入出荷等工場の状況を常時正確に把握するため,昭和23年1月1日を目途として,食糧管理行政機構を整備拡充するとともに,関係団体の役職員中適当な者を吸収する。
なお,加工数量,加工賃,加工歩留等の委託加工条件を決定する際,その公正を期するための措置を併せ善処する。
(2)輸入食糧取扱商業協同組合はこれを解散させ,食糧管理局は,個々の関係業者に直接運送を委託することとする。
右に伴い,一貫輸送の建前から,発地については港別に輸入業者の落札した業者をして当該貨物の国内輸送を取り扱わせるとともに,着地および中継地については,特別に,原則として発地商社の下請業者を利用することを認める。
なお連絡および実務遂行の円滑化を図るため,業者の希望により,委員会を組織し,これに常設事務局を設けることを認める。

4 主要食糧の配給切符制度の拡充
主要食糧の闇取引,横流れ等を絶滅し配給の適正を図るため,昭和22年2月10日内閣訓令第3号指定配給物資配給手続規程に従い,左により主要食糧の切符制度を拡充する。
(1)労務加配主要食糧については労務者に対し,受配通帳(個人別受配内容を明確にする。)を発給交付する。受配通帳には,職種および労働状況を公正に把握することのできる機関の管理の下に受配数量とともに職種および稼働日数(または稼働時間。)を記入せしめる。
(2)労務加配主要食糧の適正な配給を確保するため,公団は原則として,農林大臣の指示に基き,職域配給所を設ける等の措置を講じ,一般家庭配給用と区別して,これを配給する。なお,労務加配主要食糧の受配者は,極力共同的な購入をするものとする。
(3)最終消費者の委託を受けて,その主要食糧の加工を行うことを業とする者については,新な登録制を実施し,これに対する監督を厳重にする措置を講ずる。
備考 この要綱に基く措置を実施するため食糧管理関係法令の改正を行う。