簡易生命保険及び郵便年金積立金の運用について

昭和24年9月16日 閣議決定

収載資料:昭和財政史 終戦から講和まで 第18巻 大蔵省財政史室編 東洋経済新報社 1982 pp.430-431 当館請求記号:DG15-19

第五回国会における衆議院及び参議院の決議の趣旨に鑑み、簡易生命保険及び郵便年金積立金は郵政省において直接に運用することとし、別紙の通り関係筋に懇請することとする。

〔別紙〕
宛先 連合軍最高司令部
件名 簡易生命保険及び郵便年金積立金運用再開懇請書
一、関連文書
〇〇四ESS/FI(一九四六、一、二九)
件名「預金部及び簡易保険局の投資計画について」
二、簡易生命保険及び郵便年金積立金は事業創始以来三十年間主管大臣たる郵政大臣が管理して公共の利益の増進の為に運用し来ったのであるが、一九四六年一月標記の指令に依り、郵政省における新規の投融資活動は一切之を停止して資金は悉く大蔵省預金部に預入すべき旨命ぜられ今日に至っている。この数年間本事業の経営を繞って経済界の変動其他諸般の情勢に急激なる変化があり、その結果我々は本事業現在の経営危機を打開して、国民経済生活の安定と社会福祉の増進を目標とする本事業の使命を完全に達成する為に、郵政省における積立金の直接運用の再開を御許可願いたいと存ずるのである。我々が敢えて閣下に斯く懇請申上げる理由の主要なるものは大約次の通りである。
(1)「日本経済安定の九原則」により、「必要と認められる思切った措置をとることによって一日も早く総合予算の真の均衡を図る」為には各特別会計の独立採算制が確保されなげればならないが、現在赤字状態に在る簡易生命保険及び郵便年金特別会計の収支状況を改善して、独立採算制を確保する為には新契約の大量獲得が絶対必要である。
然るに新契約の大量獲得は現在の経済情勢下非常なる困難が予想される。この絶対必要にして且至難の施策の遂行を容易ならしむる途は、積立金の郵政省における直接運用の再開である。郵政省が資金の地方還元の原則により地方公共団体に対する直接融資を再開すれば、地方公共団体が簡保事業の経営、殊に新契約の募集に対し熱意ある協力を為すことは既往の実績の示すところであり、一面一般大衆も積立金が保険年金経営当局の手により直接地方に還元されて、地方公共の福利を増進することを現認することにより、保険加入意欲を強め従って新契約獲得が容易となることは明白である。
(2)現在の経済情勢下事業経営費は甚しく昂騰し事業経営危機の最大要因を為している。この事業費の昂騰は、保険事業の本質上、積立金の直接運用の再開による運用収益の増大を以てカヴァーすることを要する。
(3)地方財政は目下深刻な窮乏状態に在る。簡保年金資金は其の本質及び沿革から見て、主として地方公共事業資金に放資せらるべきものであるが、郵政省における直接運用再開に依る新契約の増加はそれだけ積立金の蓄積増加となり地方資金の供給源を増大培養する結果となり、地方財政難の緩和が期待される。
(4)郵政省における直接運用の再開により、従業員の士気を振作し、勤労意欲を再び向上せしめ、事業の再建発展の為に充分な活動を為さしめることが出来る。
(5)第五回国会においては、衆参両院共本積立金の郵政省における運用再開を急速に実現すべき旨を要望し政府の善処方を決議した。
また貴司令部の承認を経て制定された郵政省設置法、簡易生命保険法及び郵便年金法においては本積立金の運用管理が本来郵政省の権限に属するものであることが明確に規定されている。
三、尚郵政省による簡保年金積立金直接運用を再開する場合、現下の財政金融事情に鑑み、本積立金の当面の運用範囲を地方公共団体に対する融資と現行契約者貸付に限定すると共に運用実行方針は一般財政金融政策に厳格に即応せしめるよう大蔵郵政両省の密接なる連繋については万全の処置を講ずることを申し副える。