昭和33年度経済計画の大綱

昭和33年1月31日 閣議決定

収載資料:国の予算 昭和33年度 財政調査会編 同友書房 1958 pp.927-930 当館請求記号:344.1-Z11k

政府は、昭和33年度の経済計画の大綱を次のとおり策定する。
1 計画の基調
32年度におけるわが国の経済は、31年度以来の高度な成長のあとをうけて、緊急総合対策を中心とする調整段階に入り、最近までの過程においては、とくに対策の主目標である国際収支の均衡回復について顕著な効果があらわれてきている。しかし、33年度の内外経済情勢をみると、国際的には、米国景気の低迷、西欧経済の調整継続、後進国経済の悪化等の事情があり、米国経済について何らかの景気対策が講ぜられるにしても、年度内に世界経済全体として再上昇を見込みうる確実な基礎に乏しいものと考えられ、国内的には、経済活動の調整の余波が残るため、年度を通じてみれば、徒来のような高度な成長率を期待することは困難である。このような内外の経済情勢のもとに、単に国内的な面で経済諸因を過度に刺激すれば、ふたたび対外均衡を失するおそれなしとしない。したがつて、当面わが国経済計画としては、対内対外の均衡をはかりつつ、着実な経済成長を実現し、この間において、さきに決定した新長期経済計画(昭和32年12月17日"閣議決定)の要請を極力充足することを基調としなければならない。この見地から、33年度における主要な経済指標と重点施策とを、つぎのとおり定めるものとする。なお、当面の微妙な経済動向にかんがみ、内外経済情勢の適確な把握と施策の弾力的運用をはかり、国民経済の安定を確保するよう措置するものとする。
2 主要経済指標
33年度における主要経済指標は、おおむねつぎのとおりである。
主要経済指標
(表省略)
(1)輸出および特需
33年度においては、米国、西ドイツを除いた大多数の自由諸国家においては、ドル不足に対処して、デフレ政策が継続され、輸入の縮少と輸出の増強に全力を傾注する結果、輸出競争は一段と激化するものと予想されるが、わが国においては、とくに、鉄鋼、機械、化学製品等の輸出を伸長せしめることによつて、32年度の実績見込額28億3千万ドルに対し31億5千万ドルと約11.3%程度の増加を期待するものとする。特需は、米地上兵力の撤退によつて駐留軍消費の減少をみることは避けられず、32年度の実績見込5億4千万ドルに対し4億8千万ドル程度が見込まれる。
(2)民間資本形成
33年度の設備投資は、32年度の設備投資調整の政策が継続され、一般投資水準はやや低下するうえに、在庫投資の伸びも32年度を下廻るものと予想されるので、民間資本形成額としては、前年度にくらべ11.4%程度の減少をみるものとする。
(3)個人消費支出
消費活動はかなり底固いが、経済成長率の鈍化にともなう雇用、賃金の伸びの鈍化、平年作を前提とした場合における農家所得の停滞等の事情もあるので、消費支出は、32年度にくらべ5%程度の増加にとどまるものと見込まれる。なお、国民1人当りの実質消費支出(消費水準)は、消費者物価の微落を考慮すれば、32年度に対し4.3%程度の上昇となる。
(4)鉱工業生産
以上のような有効需要の状況を反映して、33年度の鉱工業生産は、主として下期において上昇し、年度を通じ32年度にくらべ約4.5%程度の増加となり、9~11年基準指数で265.9程度に達するものと予定する。
(5)農林水産生産
33年度の農産は、平年なみの天候を前提とすれぱ、31年度実績に対して103.8、林産は100.2、水産は106.4、農林水産総合では、103.7程度と見込まれ、これは豊作であつた32年度の水準にくらべ1.4%程度の増加となる。
(6)国内輸送
33年度においては、経済成長の鈍化を反映して輸送需要の伸びは貨客ともに減少し、32年度にくらべ貨物においては3.4%、旅客においては4.1%程度の増加にとどまるものと見込まれる。
(7)国際収支
上記のような輸出を達成し、特需の収入が見込通りであるとすれば、33年度の外国為替受取は総額39億6千万ドルに達するものと見込まれる。輸入は、鉱工業生産の上昇を考慮しても、製品輸入の減、輸入価格の低下等の要因がひびき、32年度の32億2千万ドルから32億4千万ドル前後に微増する程度と見通されるので、外国為替実質支払総額は、38億1千万ドルにとどまり、この結果、国際収支バランスは実質収支で1億5千万ドルの黒字になるものと期待する。
(8)雇用
33年度においては、32年度にくらべて、総人口で約80万人(0.9%)、生産年令人口で約137万人(2.1%)の増加が見込まれる。これに対し、産業諸部門の活動からみれば、就業者数は前年度にくらべ110万人(2.5%)の増加が見込まれ、雇用者数は前年度にくらべ65万人(3.4%)の増加が期待される。
(9)物価
33年度の卸売物価については、海外における主要輸出競争国の物価動向に配慮し、若干の不均衡調整を見込みつつ、おおむね本年当初程度の水準にこれを安定せしめ、年度平均としては、32年度にくらべて1.4%程度の低落を見込むものとする。また、33年度の消費者物価は、国民生活の安定と向上に配慮し、すくなくとも32年度末頃に予想される比較的低い水準でおおむね横這いに推移するものと見込む。
(10)国民所得および国民総生産
以上の諸要因をもとに、33年度の分配国民所得を推計すると、32年度の実績見込8兆2,930億円に対し8兆4,750億円と、約2.2%程度増加する見込である。また、国民総生産は、32年度の10兆170億円から10兆2,470億円へと約2.3%(実質では約3%)程度増加する見込である。この水準は、新長期経済計画について想定される33年度総生産目標と対比すれば、ほぼ同程度のものである。
3 重要施策
(1)財政金融の役割
33年度経済の着実かつ均衡的な発展をはかるため、財政金融政策は、通貨価値の安定を堅特することを施策の基本として健全な運営をはからなければならない。このため、33年度の財政は、民間経済に過度の刺激をもたらさないよう堅実な基調を維持しつつ、下記の諸重要施策の重点的な拡充をはかるものとする。
民間投資についても、これを適正な規模にとどめ、投資は蓄積の範囲内でまかなう方針を維持するものとするが、他面、物価を低位に安定せしめることによつて、一層貯蓄の増強と資本の蓄積をはかり、金融機関の日銀依存の状態を改善し、金融の正常化につとめるものとする。また、適正規模における民間投費を最高限に効率化するよう、金融機関の自主的資金調整を一段と活発化して、経済発展上緊急と目されない部門への資金の流入を極力排除し、財政投融資の補完的、誘導的機能の活用とあいまつて、重点部門の資金を確保するものとする。
(2)輸出の振興
世界経済の動向に照してみると、輸出の拡大はかならずしも容易ではないが、経済目標達成の鍵は、輸出の伸長にある事実にかんがみ、産業政策の重点を、品質、価格両面における輸出産業の競争力の強化と、輸出品の価格安定におくほか、あらゆる施策を、輸出振興に集中し、国を挙げて輸出目標31億5千万ドルの達成に邁進するものとする。
これがため、とくに、優秀新規商品の育成および新市場の開拓について必要な助成を行うとともに、プラント類等重化学工業品の輸出を促進するよう、金融、技術およびサービス面における格段の改善をはかるほか、内需の動向により輸出意欲を左右することの多い商品については、安定的な輸出を確保するよう輸出責任体制を確立するものとする。
また、海外市場の維持開拓については、海外宣伝市場調査を一層活発化することとし、なかんずく海外事業推進の中核体を飛躍的に刷新強化し、これによつて、輸出の環境を改善する反面、わが国の輸出が過当競争により大きく阻害されている点にかんがみ、これを排除し、取引秩序を確立するため、所要法令の画期的な改正措置を、講ずるものとする。
如上の諸施策に基いて輸出の拡大を円滑に行うため、経済外交を積極的に推進して、当面する諸障害の排除につとめるとともに、東南アジア等の諸国に対する経済協力の促進について格段の措置を講ずるものとする。
さらに、貿易外収支の改善に資するため、ひきつづき外航船腹の拡充をはかるとともに、国際航空の整備および国際観光事業の振興につとめるものとする。
(3)道路の近代化を中軸とする輸送力の増強
輸送力不足の現況にかんがみ、鋭意輸送施設の増強につとめる必要があるが、とくに、従来経済発展におくれる傾向にあつた道路整備については、今後の輸送需要の急増と車両の大型化、行動範囲の伸長に対応し、道路整備特別会計の新設、適路整備資金の充実等により、1級国道の整備をはじめ、あい路化するおそれのある区間を重点的に整備するとともに、名古屋、神戸間の高速自動車道路の建設を促進する等、道路事業5カ年計画の初年度事業を推進するものとする。
さらに、輸送需要の増大に応じて、国鉄については、東海道、北陸等主要幹線の重点的整備、山陽、東北線等の電化、ならびにその他支線区の、デイーゼル化を促進し、港湾については、船舶の大型化、専用化に対応するため、外国貿易港ならびに原油、鉄鋼、石炭等の取扱港をとくに整備の対象とするものとする。
(4)エネルギー基盤の強化と産業構造の高度化
最近におけるエネルギー需要の増加はきわめて顕著であり、そのための外貨負担も急増する傾向にあるので、可能なかぎり国産エネルギー源の開発をはかり、エネルギー需給の緩和と価格の安定、外貨の節減を期する必要がある。
これがため、新長期経済計画にかかげるエネルギー供給計画にのつとり、33年度においては、電力については、710万キロワツトの継続工事のほか、所要の新規工事を追加し、電源開発の強力な実施をはかるとともに、電力事業の広域的効率運営により、需給状態の改善を期するものとする。また、石炭は、その供給を確保するため、積極的増産と新炭田の開発を推進し、能率の向上、コストの低下を通じ、エネルギー価格の総合的安定につとめるものとする。
如上のエネルギー基盤の強化のうえに立つて、鉄鋼、機械、化学等の基幹産業の充実と、合成化学、エレクトロニツクス等の新規産業の培養につとめ、産業構造の高度化を一層促進するものとする。これらの産業基盤の強化に要する資金を充足するため、財政投融資の重点的運用、外資導入、民間資金の確保等の措置を講じ、必要な設備投資の遂行をはかるものとする。
さらに、以上の産業構造高度化を実現するための前提条件として、産業立地条件の整備を行う必要があるので、鉱工業地帯における工業用水道その他の産業関連施設の増強をはかるとともに産業の合理的配置のための施策を一層推進するものとする。
また、国土を保全し、経済活動の基礎をととのえるため、国土保全事業としては、治山治水事業および海岸保全事業の促進をはかり、事業の遂行に当つては、事業効果を考慮しつつ、治水、利水を総合して計画的かつ重点的にこれを行うものとする。
(5)科学技術の振興
最近の世界的な技術革新の飛躍的な発展動向にかんがみ、産業発展の根幹とされる科学技術の振興は、さらにこれを一段と促進する必要がある。しかしながら、この方向は、長期的配慮のもとに、広汎な基盤のうえに立つて、はじめて効果が期待せられるものであるから、この際、産業部門、教育部門の全般にわたり、あくまで科学技術水準の着実な向上をはかることにつとめるものとする。
これがため、小、中学校および高等学校における理数科、産業教育の拡充強化、理工系学生の増員、ならびにこれに要する教職員、施設の充実等により、今後とも不足を予想される科学技術者、技能者の養成をはかり、科学技術者の待遇改善、研究施設の整備等、研究環境の改善につとめ、さらに、試験研究の促進を目的とする税制上の優遇等により、新技術の開発に即した企業環境の造成をはかるものとする。
さらに、わが国の資源、労力、資本等の条件に適した独自の技術の育成、ならびにわが国の技術水準の向上と国際収支の改善に資する新技術の培養については、国立試験研究機関の機能の充実と民間の技術研究の助成等により、官民協力のもとに、体系的かつ効率的にこれを行うものとする。
(6)農林水産業の近代化の推進と食糧総合自給力の強化
農林水産業においては、拡大する国民経済に対し十分な食糧と原材料とを供給するという使命を遂行するため、長期的観点に立つて、その生産構造の近代化と、食糧の総合的自給力を強化することが必要である。
これがため、農地および草地の改良開発による生産基盤の強化を基礎として、機械および畜産の導入、耕種の改善および試験研究の推進等によつて生産構造の近代化をはかり、水産業についてはとくに、漁港の整備とあいまつて沿岸漁業を保護振興するものとする。さらに、あわせて乳価安定等の流通改善生産資材の円滑な確保等の措置を構(国立国会図書館注:収載資料ママ)じ、生産者所得の安定をはかるものとする。
林業については、木材需要の増大に対処し、植伐の均衡をはかるため、林道の開発、造林の拡大等を推進するものとする。
(7)中小企業の振興
中小企業については、その近代化、合理化を促進し、健全な発展を期するとともに、当面の経済情勢よりみてその経済的社会的安定の確保をはかる必要がある。
これがため、中小企業専門金融機関の資金源の充実、中小企業信用補完機構の整備等により、中小企業金融の円滑化、設備の近代化、合理化を促進するとともに、診断指導制度の活用および公設試験研究機関の設備充実等により、経営の合理化の推進および技術の改善向上をはかり、特産的輸出品を中心とする輸出適格企業の指導助成につとめるものとする。
また、中小企業の組織制度の整備強化をすすめ、共同事業による経営の合理化、調整事業による過当競争の防止、取引条件の適正化につとめるものとする。
(8)失業対策の拡充
雇用対策の推進に当つては、基本的には雇用構造の近代化に重点を置くものとするが、また一方、経済調整の過程において過渡的に発生を予想される離職者に対する失業対策および新規の要雇用者に対する雇用対策については、随時、直接、間接に強力な措置を講ずるものとする。
これがため、道路整備事業等の公共事業による就業機会の造出に格別の考慮をはらうとともに企業における超過労働時間の調整、中小企業振興施策の推進等によつて、雇用の安定と失業の防止につとめるものとする。また、新規の学校卒業者および離職者については、職業安定機能の強化、職業訓練制度の整備充実等によつて、労働市場における労働力需給の結合を促進するものとする。
以上の施策によつてもなおやむをえず発生する失業者に対しては、失業保険事業の機動的運用によつて一時的にこれを救済するほか、一般失業対策事業の枠を拡大するとともに、特別失業対策事業、臨時就労対策事業、公共事業等、政府施策による建設事業に極力これを吸収するものとする。さらに、駐留軍撤退等により失業者の多発する地域については、政府施策による建設事業の総合的かつ重点的運用による特別の措置を講ずるものとする。
(9)民生の安定
国民生活の安定と向上をはかるため、とくに、消費者物価の安定と社会保障諸施策の充実につとめるものとする。これがため、国民皆保険の推進とその基礎的条件の整備および診療報酬の合理化等による医療保障の充実をはかり、また、生活保護、児童福祉、母子対策等社会福祉施策を強化し、さらに、上下水道の整備等環境衛生の改善をはかるものとする。
また、国民年金制度については、財政面における諸要請との調整をはかりつつ、制度創設の準備を本格的に推進するものとする。
また、住宅については、32年度にひきつづきを民間建設を促進し、政府による住宅建設は、低所得階層向け公営住宅の充実に重点を置いて実施するものとする。