アメリカ合衆国-連邦法の調べ方

このページでは、アメリカの連邦議会が制定した法律の調べ方の概要、おもな当館所蔵資料およびインターネット情報を中心に紹介します。Excecutive Order(大統領令)、Memorandum(大統領覚書)等の大統領が発令する法令、連邦政府が発令する行政規則や条約等についての解説は含みません。

アメリカ合衆国の連邦法に関しては、アメリカ合衆国-法令/US Federal Lawもご参照ください。

用語の日本語訳等については、松橋和夫「アメリカ連邦議会上院における立法手続」『レファレンス』 2004.5, pp.7-36【Z22-554】における記載を参考にしています。
なお、【 】内は当館請求記号です。

1.アメリカの連邦議会制定法

連邦議会で法律案が可決されると、大統領に回付され、大統領が署名することにより成立します。
議会制定法の制定日は、大統領の署名日となります。
法律中で個別に定められていない限り、法律は大統領の署名日から効力を発します。

アメリカでは、連邦法の公布媒体として日本のような「官報」は刊行されていません。
「Federal Register」(連邦公報)は、行政機関の公報であり、Excecutive Order(大統領令)等の大統領が発令する法令、連邦政府が発令する行政規則の公布やパブリックコメントの募集等、行政に関する事項の掲載が行われます。

法律が制定されると、法律ごとに小冊子「Slip Law」(スリップ・ロー)が刊行され、それを制定順にまとめた「United States Statutes at Large」(制定順法律集。以下、「Statutes at Large」と記載)が刊行されます。

その後、議会制定法は条文単位に分解され、「United States Code」(合衆国法典)の中の1条文として再構築されます。

なお、合衆国憲法修正案の場合は、両院で可決されると、大統領ではなく国立公文書館長に回付されます。
国立公文書館長は、それを各州に伝達し、各州はそれぞれに「ratification」(批准)を行います。
規定数の州の有効な「ratification」が行われた時点で同案は有効となり、その旨の「certification」(確認)が国立公文書館長名で行われ、「declaration」(宣言)されます。

合衆国憲法修正は「Statutes at Large」や「United States Code」に掲載されます。
詳細については、「4.合衆国憲法および修正条項について 」で後述します。

2. 制定時法の調べ方

以下では、制定時法を掲載する資料やその調べ方等について説明します。
また、当館契約データベース「Lexis」(館内限定)でも、連邦議会の制定時法を見ることができます。

2-1.制定法の種類

連邦議会の制定法には、以下の種類があります。

  • Act(法律)
    連邦議会で「Bill」(法律案)として提案され、成立して「Act」(法律)となるものです。(法律名に「Act of ~」と明記されます。)

  • Joint Resolution(両院合同決議)
    連邦議会で「Joint Resolution」(両院合同決議案)として提案され、成立した法的拘束力を有する決議です。 「Joint Resolution」の代表的なものは、「Proposed Amendment」(合衆国憲法修正条項の発議)で、他には、「Consolidated Appropriations Resolution」(統合歳出予算決議)等の予算関係の決議があります。

「Act」と「Joint Resolution」は、それぞれ性質により、次の2種類に分けられます(「Proposed Amendment」の場合を除く)。

  • Public Law(公法律)
    基本的には、不特定多数の人々を規律する内容の法律です。一般的に「Pub.L.」または「P.L.」と略されます。

  • Private Law(私法律)
    特定個人に関係する処分や裁決的事項を内容とする法律です。一般的に「Priv.L.」と略されます。

Public LawとPrivate Lawは、成立した議会期ごとに第1号から、それぞれ別に法律番号を付与されます。

2-2.制定時法の引用法

連邦法の制定時法は、一般的に次の形式で引用されます。

  • 1957年第85議会以降に成立した法律の場合
    例:Class Action Fairness Act of 2005,Pub. L. 109-2,119 STAT. 4
    法律名,法律番号,Statutes at Largeの掲載箇所
    「Pub. L.109-2」とは、「第109議会においてPublic Lawで2番目に成立したもの」という意味です。「119 STAT. 4」とは、「Statutes at Large の第119巻4ページ以降に掲載されている」という意味です。

  • 1956年以前に成立した法律の場合
    例:An act providing for publication of the revised statutes and the laws of the United States,June 20, 1874,ch.333,18 Stat. 113
    法律名,制定日,法律番号,Statutes at Largeの掲載箇所
    「ch.333」とは、議会期の各会期の333番目に成立した法律という意味です。番号は、Public LawとPrivate Lawの区別なく、制定順に付与されます。

2-3.制定時法を掲載する資料

制定時法を掲載するおもな資料を紹介します。

  • United States Statutes at Large(U.S. G.P.O., 1789-【CU-3-1】)
    第1巻から所蔵。
    公式の制定順法律集で、「Congress」(議会期 2年)の「Session」(会期 1年)単位で編纂されています。
    収録されるのは「Public Law」、「Private Law」、「Joint Resolution」、「Concurrent Resolution」(両院一致決議)*等で、それぞれの制定順に掲載されます。(第64巻(1951)までは、条約も掲載されていました。)
    なお、この資料には、大統領の発する「Presidential Proclamation」(大統領布告)は掲載されますが、「Executive Order」、「Statement regarding bill signings and vetoes」(法案署名時および拒否権行使時の大統領の声明)等は掲載されていません。
    *「Concurrent Resolution」として成立する議案には、基本的に法的拘束力はないと言われています。

「Statutes at Large」は、以下のウェブサイトでも見ることができます。

なお、「Statutes at Large」の収録概要は、以下のとおりです。

第1~5巻 第1議会から第28議会までに成立したPublic Law
第6巻 第1議会から第28議会までに成立したPrivate Law
第7巻 インディアン部族との間の条約
第8巻 外国との条約(1778-1845)
第9巻 第29議会から第31議会までを収録
第10~12巻 1巻に2議会を収録
第13~49巻 1巻に1議会(2年分)を収録
第50巻以降 1巻に1会期(1年分)を収録

  • United States Code Congressional and Administrative News(略称:U.S.C.C.A.N.)(West Pub. Co, 1956-【CU-3-11】)
    1956年以降を所蔵(1960-1975年は欠)。
    民間出版社が刊行する制定順法律集で、速報版が毎月刊行されており、紙媒体の中では、最も早く制定時法の条文を入手できる資料のひとつです。「Statutes at Large」の内容に加え、「Executive Order」ほかの大統領関係文書や連邦議会に提出された法案等の議会資料の一部も掲載しています。
    この資料は、「Statutes at Large」と全く同じレイアウトで法律を掲載しているため、制定時法を見る際は、「Statutes at Large」と同じ方法で利用することができます。また、法案番号、委員会報告書の番号、議事録の掲載ページ等も掲載しているため、立法過程を知ることもできます。

なお、当館では「Slip Law」は所蔵していませんが、以下のウェブサイトで見ることができます。

2-4.制定時法の調べ方

制定時法を探すツールとしては、後述する現行総合法律集の「United States Code」(およびこれに注釈を付与した民間版の現行総合法律集)の各種索引(United States Codeの各種索引の利用方法を参照)が役立ちます。

制定時法の一般名称から制定時法を調べる場合

制定時法の正式名称は、「Act of ~」で始まる法律の内容を要約した長いタイトルがつけられますが、あわせて「Short Title」(「Popular Name」とも呼ばれる)という簡潔な名称がつけられることも多く、一般的には、これが用いられます。「United States Code」の各種索引のひとつである「Popular Name Table」を「Short Title」で引くと、法律番号、制定日および「Statutes at Large」の掲載箇所が確認できます。

  • Popular Name Tool外部サイト(Office of the Law Revision Counsel of the United States House of Representatives)
    「Popular Name Table」が掲載されています。

法律番号から制定時法を調べる場合

Public Law番号やPrivate Law番号は、当該法律が成立した議会期ごとに付与されているので、議会開催年との対照により、当該法律の「Statutes at Large」の掲載巻が、ほぼ判明します。また、ch番号には制定年が付されるため、掲載巻が判明します。

掲載巻の巻頭には、その会期に成立した「Public Law」、「Private Law」のリストが掲載されており、掲載ページが判明します。

事項から制定時法を調べる場合

「Statutes at Large」の各巻末には、索引が付されており、事項や人名から法律名、法律番号や掲載箇所を調べることができます。

3. 現行法の調べ方

以下では、現行法律集や現行法の引用法・調べ方について説明します。
また、当館契約データベース「Lexis」(館内限定)でも、連邦の現行法を見ることができます。

3-1. 現行総合法律集「United States Code」

アメリカでは、Goverment Publishing Office(政府出版局 略称:GPO)が、公式の現行総合法律集として、「United States Code」(略称:U.S.C.)を刊行しています。
「U.S.C.」は、現行の「Public Law」を各条文単位に分解し、54の「Title」(編)の下、体系立てて主題ごとに分類し、ひとつの法典として再構築したものです。
「U.S.C.」の編纂については、The Office of the Law Revision Counsel of the U.S. House of Representatives外部サイト(下院法律改定委員会 略称:OLRC)が責任を負っています。

「U.S.C.」では、条文の文言が、元の制定時法と必ずしも一致しないことがあります。
再構築の際、条番号や文言上の修正が行われたり、必要に応じて同じ条文が複数の箇所に掲載されたりするためです。また、目的規定などは、注に記載される場合があります。
しかし、それらの変更は形式的なものであり、実体的なものではありません。

「U.S.C.」の各編は、連邦議会により法律として個別に再制定されることにより、最終的証拠力を持つものとなります。
2019年3月現在、再制定済みの編は、
第1、3~5、9~11、13、14、17、18、23、28、31、32、35~41、44、46、49、51、54編(合計27編)です。

「U.S.C」の各種の索引は、連邦法の調査の際に有益です。
これらの概要と利用方法については、前述の「United States Codeの各種索引の利用方法」をご参照ください。

3-2.現行法の引用法

連邦法の現行法は、一般的に次の形式で引用されます。

例:28  U.S.C. §1291 (2012)
 法律集の略称(ここでは「United States Code」) 条数 (刊行年)
「2012年版合衆国法典第28編第1291条」という意味です。

なお、条数は各編ごとに第1条から始まります。
次の「3-3.現行法を掲載する資料」で紹介するとおり、現行総合法律集には注釈付きの民間出版社刊行のものも複数存在しますが、その場合も、書名の部分のみを変えた同様の形式で引用します。

3-3.現行法を掲載する資料

現行法を掲載する資料を紹介します。

  • United States Code(U.S. G.P.O.)【CU-3-2 他】
    1926年以降を所蔵[1]
    公式の現行総合法律集です。6年ごとに全面的に改版され、改版までは、累積版のSupplment(年刊)が刊行されます。

  • United States Code Annotated(West Pub. Co.)【CU-3-6】
    1927年以降を所蔵
    民間版注釈付き現行総合法律集です(略称:U.S.C.A.)。形式は「U.S.C.」とほぼ同じです。各本体は、「Pocket Part」(毎年累積した内容で刊行されるパンフレット状の付録、本体の末尾に繰り込む)によって、内容がアップデートされます。本体の改版は、編ごとに随時行われます。

また、当館に所蔵はありませんが、民間版の現行総合法律集には「United States Code Service」(LexisNexis)(略称:U.S.C.S.)があります。
「U.S.C.S.」は、当館契約データベース「Lexis」に収録されています。形式は、「U.S.C.」および「U.S.C.A.」とほぼ同じです。なお、「Lexis」の「U.S.C.S.」は、制定法を随時に再構築した最新の状態となっています。

「U.S.C.」は、以下のウェブサイトでも見ることができます。

  • United States Code外部サイト(govinfo)
    1994年版以降の各年版(Supplmentを含む)をpdfファイル等の形式で見ることができます。
  • United States Code外部サイト(Office of the Law Revision Counsel of the United States House of Representatives)
    「U.S.C.」の編纂を行うOLRCが作成するデータベースで、制定法を随時に再構築した最新の状態の「U.S.C.」と、1994年版以降の各年版(Supplmentを含む)を検索・参照できます。
  • United States Code外部サイト(Library of Congress Digital Collections)
    1925-1926年版から1988年版までをPDFファイル等の形式で見ることができます。

3-4.現行法の調べ方

特定の事項に関する現行法を探したい場合

「U.S.C.」(および民間版の注釈付き現行総合法律集)の「General Index」を特定事項で引き、指示された編と条を見ます。
または、OLRCのウェブサイト外部サイトの、「General Search Terms」に適宜の用語を入れて検索します。検索結果から、該当の条文を見ることができます。

制定時法の情報から、当該法律の現行の状態を確認したい場合

現行総合法律集においては、制定時法は、各条に分解されて主題別に再編成されるため、「ある制定時法の現行の状態」を確認するには、以下の手順が必要となります。

まず、「U.S.C.」の「Popular Name Table」 で、制定時のPublic Law番号を調べます。
次に、「Table III Statutes at Large」において、そのPublic Law番号の箇所を参照します。
「Table III Statutes at Large」は、制定時法の各条が、現在、U.S.C.においてどの条文に該当するかを示す対照表です。

なお、「Table IIIStatutes at Large」中の「Status」欄では、制定時法条文が現在どのような状況であるか、以下のとおりに示されます。

  • Rep: Repealed 廃止

  • Elim:Eliminated 削除

  • Rev.T:Revised Title
    Titleの再編成が行われているという意味。
    現在、どのTitleにあたるかは「Table I Revised Titles」を参照。

  • I.R.C.39:Internal Revenue Code 1939
    「Internal Revenue Code 1939」により廃止されたか、置き換えられた条という意味。

  • R.S.:Revised Statutes
    「Revised Statutes」(1878年刊)における条を示す。
    (「Revised Statutes」については、前述のUnited States Codeの各種索引の利用方法3.Table II Revised Statutes 1878」を参照)

「U.S.C.」の再制定されていない編における条文を引用または改正する場合、正式には、「U.S.C.」に対してではなく制定時法に対して行われなければなりません。
そのため、連邦議会の上院および下院のLegislative Counselは共同し、制定時法単位で各改正を溶け込ませた現行の条文を維持しています。
それらを掲載したサイトが、Statute Compilations Update外部サイト(gov.info)です。
ここに掲載されている連邦法については、上述の手順を踏まなくても、「ある制定時法の現行の状態を確認する」ことができます(ただし、これらはあくまでも非公式なものであり、正式な法律として引用することはできません。)。

4.合衆国憲法および修正条項について

アメリカ合衆国憲法は、条文そのものに対して改正が行われるのではなく、連邦議会で「Joint Resolution」として提案された「Proposed Amendment」(合衆国憲法修正条項の発議)が上下両院で可決され(通常過半数ではなく3分の2多数)、4分の3以上の州により批准を得る等の方法により有効なものとして認められた修正条項が追加されるという形式をとっています。
2019年3月現在では、修正第27条まで追加されています。

修正に対する変更も、新たに修正条項を追加することにより行われます。
例えば、アメリカ国内で飲料用アルコールの製造・販売などを禁止した修正第18条の廃止は、修正第21条第1項を規定することにより行われました。

4-1.掲載資料について

合衆国憲法および修正条項の掲載資料は、以下のとおりです。

制定時の条文

  • Statute at Large
    第1巻10-22ページに掲載されています。
    なお、「Statutes at Large」の第1巻1-3ページには独立宣言が、4-9ページには連合規約が掲載されています。(「Statutes at Large」については、「2-3.制定時法を掲載する資料」を参照)

国立公文書館ウェブサイト外部サイトでも、制定時の合衆国憲法外部サイトを見ることができます。

現行の条文

  • United States Code
    「Title I」の巻頭に「The Organic Laws of the United States of America」として、独立宣言、連合規約、北西部条例と並んで、合衆国憲法および修正条項が掲載されています。(「United States Code」については、「3-3.現行法を掲載する資料」を参照)

  • United States Code Annotated
    「Title I」に先立ち、「Constitution」の部が置かれています。
    「Constitution」第1巻の巻頭に、独立宣言、連合規約、北西部条例に続き、合衆国憲法および修正条項(注釈なしの条文のみ)が掲載されています。その後に、注釈付きの合衆国憲法および修正条項が掲載されています。(「United States Code Annotated」については、「3-3.現行法を掲載する資料」を参照)

4-2.合衆国憲法修正条項の手続

憲法修正条項は、以下のように、(1)「Joint Resolution」として成立した際と、(2)規定された州の有効な批准を得たことが確認された後の2回、「Statutes at Large」に掲載されます。

(1)「Joint Resolution」として成立した際は「Proposed Amendment to the Constitution of the United States」として掲載され、「Slip Law」も刊行されます。

なお、規定された数の州の有効な批准(ratification)を得た旨を確認(certification)するのは、現在は国立公文書館長[2]で、その旨の宣言(declaration)は、同館長名で「Federal Register」[3]に掲載されます。

(2)その後、ふたたび「Statutes at Large」に「XXth Amendment to the Constitution of the United States」(合衆国憲法修正第XX条)として掲載されます。

例えば、修正第26条(選挙権を18歳以上に付与する修正)の場合を見てみます。


[1]1926年刊行の第1版は、「Statutes at Large」の第44巻として刊行され、第2版は1934年に刊行されています。その後は6年ごとに改版が刊行されています。

[2]1 U.S.C.§106bに基づく。

[3]Federal Registerは行政規則等の公布媒体であり、行政機関の公報としてパブリックコメントの募集など各種の告知が掲載されます(法律は掲載されません)。

[4]第92議会提出 上院合同決議案第7号の意味。

[5]当時は共通役務庁長官が、現在、国立公文書館長が行う役割を担っていました。