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第11回本の万華鏡 はやり病あれこれ 第6章

2012年11月21日
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第6章 流行性感冒(りゅうこうせいかんぼう)/インフルエンザ

インフルエンザウィルス(H1N1亜型)
(画像提供:国立感染症研究所)

インフルエンザウイルス

  インフルエンザは、インフルエンザウィルスによって引き起こされる病気です。インフルエンザウィルスは空気感染します。1918年に世界的に流行したものは「スペイン風邪」の名で有名で、その際は、全世界で約6億人が感染し、死亡者数は約4000万人から5000万人とされています。
  症状の特徴は、急激に高熱になり、悪寒・頭痛・筋肉痛・関節痛など全身症状が強く出る、という点にあります。従来はインフルエンザウィルスに直接効く薬がなかったため、感染しても、熱を下げる等の対症療法以外ありませんでした。ここ10年ほどは、治療薬として、タミフルなどの抗インフルエンザ薬が用いられるようになりましたが、発症後早期に服用する必要があります。

 

大流行―スペイン風邪―

  日本では、1890年を皮切りに、1918年(スペイン風邪)、1957年(アジア風邪)、1969年(香港風邪)などの流行をみました。1890年の流行時には明治天皇の側近であった元田永孚や明治新政府で太政大臣をつとめた三条実美が亡くなるなど、著名な人物もなくなっています。ただし、被害の規模が最大だったのはやはりスペイン風邪でした。

1) 日本を襲ったスペイン・インフルエンザ / 速水融著  東京 : 藤原書店, 2006 【GB481-H23】

  歴史人口学者の速水融が各地の新聞や統計データを基に、流行の実態をまとめた本です。海外における発症の起こりから、日本での前流行(1918年秋~1919年春)及び後流行(1919年秋~1920年春)の感染状況について、地方ごとにまとめられています。また、軍艦「矢矧」における感染の状況や相撲協会・企業への影響など、個別のエピソードも紹介され、スペイン風邪の実態を知ることができます。

 

2) 時事漫画 / 北沢楽天 (時事新報 1919.2.23 【YB-65】)

時事漫画(サムネイル)

 

  流行期の医師を取り上げた風刺画です。インフルエンザの流行で大忙しの医師が、マスクで顔を隠して芝居見物を行っています。最後のコマの「これを使ツて顔を隠せば風除けの効能はあるかないか知らぬが、患者除けには大丈夫だ」というセリフからは、効果のほどは不確かと見る向きもありながら、マスクという対策法が一般に知られていたことが窺えます。

 

インフルエンザ対策あれこれ

  インフルエンザが流行ると、その予防・治療に効果があると称して、商品の広告がなされました。新聞から広告をいくつか紹介します。

3) [萬珠堂広告] (読売新聞 1891.1.27 朝刊 4面 【YB-41】)

 

ポンス広告

  インフルエンザ対策に、として萬珠堂のポンスが宣伝されています。『東京模範商工品録』(1907 【34-296】[国立国会図書館デジタルコレクション])によればこの「ポンス」はポン酢ではなく、萬珠堂の店主吉田安五郎が発明したもので「固有の香気と佳良なる好味」をもち、「就中窒扶斯、流行性感冒、麻疹等の如き総して熱ありて渇するものに飲用せしむれば甚だ有効なり」とされていますが、予防にはどれほど効果があったのでしょうか。

 

4) [旭商会広告] (読売新聞1920.1.21朝刊 1面 【YB-41】)

マスク広告

  予防にマスクが売り出されています。上であげた北沢楽天の漫画にもあるように、流行性感冒の予防策として、マスクの需要が高まっていたことを示すものと言えるでしょう。

 

5) [玉置合名会社広告] (読売新聞1931.12.19 夕刊 3面 【YB-41】)

リウメキス広告

  就寝前に枕に「リウメキス」を振りかけることで、インフルエンザの予防ができるとされています。
  この「リウメキス」、1931年10月5日に読売新聞に掲載された広告では、「朗らかな近代的保健吸入料」という謳い文句で売り出されています。薬の説明にも「嗅ぐだけで 只嗅ぐだけで 疲労と倦怠を去り 精神を爽かに 頭脳を明快にする 近代人のマスコット」とあり、病気の予防というよりは、香りを嗅いで気分をリフレッシュさせることが主たる用法だったように見えます。

 

  上に見たような、各社による商品宣伝の広告だけでなく、政府としても流行を防ぐための宣伝を行いました。インフルエンザの病因としてインフルエンザウィルスがまだ知られていない時期ですが、マスクとうがい、予防注射など、対処法として今と大きくは変わらないものが挙げられています。

予防注射奨励ポスターマスクとうがいポスター

  いずれも内務省衛生局編『流行性感冒』(1922 【14.6ハー150】[国立国会図書館デジタルコレクション])より。この本は、猛威をふるったスペイン風邪への対応の経験からまとめられたもので、患者数の統計なども載せられています。

 

新型インフルエンザ

  ここ数年、新型インフルエンザが話題にのぼっています。2009年には、豚由来の新型インフルエンザ(H1N1亜種)が流行しました。その時は、幸いにも日本では大量の死者が出るには至りませんでしたが、また次の大流行がいつ来るかは、予断を許さない状況です。特に、2009年の流行以前に強く警戒されていた、H5N1型新型インフルエンザ(いわゆる「鳥インフルエンザ」)は、今でも消えてなくなってはいません。ヒトからヒトへの感染能力を獲得し、広範囲に拡大し、その強い毒性で多くの人を死に至らしめる潜在的な脅威であり続けています。

6) 毒性別 新型インフルエンザ対策 完全マニュアル / 岡田晴恵著  東京 : ダイヤモンド社, 2010【EG244-J130】

  鳥インフルエンザ(H5N1)と2009年に流行した新型インフルエンザはどう異なるのか、そして今後の備えはどうすべきかを記した本です。2009年の新型インフルエンザは、流行はしたものの弱毒性のため、被害はそこまで拡大しませんでしたが、強毒性の鳥インフルエンザが感染力を強めた場合、それとは比較にならない被害が出るようです。しかもそれはいつ起こってもおかしくないことであるという事実に直面させられます。

 

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